- YOTSUnoFUNE
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@oroshiwanko 根岸ちゃんが学校を休むなんて珍しいこともあるのね、と。空閑さんは思った。クラスで配布されたプリントと来月の美術部参加の展覧会に関するプリントを春日野先生から預かって、空閑さんはテクテクと根岸家へ向かっていた。
2011-07-30 02:04:32@YOTSUnoFUNE ピンポン、とチャイムを鳴らすが返事は帰ってこなかった。妹のみなもちゃんはいないのかしら、と首をかしげたがこのままポストにプリントを突っ込んで帰るのもなんとなく気が引ける。
2011-07-30 02:05:42@oroshiwanko (根岸ちゃん、寝てるのかしら・・・?) と空閑さんは考えた。それならば、プリントを郵便受けに入れて退散しようかと考えたとき、扉が開いた。「・・・なんだ、空閑か」と、明らかに体調の悪い顔をした根岸が現れた。
2011-07-30 02:09:44@YOTSUnoFUNE 「根岸ちゃん、起きてて大丈夫なの?」「…大丈夫に見えるか?」「…ごめんなさい、みなもちゃんは?」「薬局行った、犬男といっしょに」
2011-07-30 02:11:04@oroshiwanko 「そうなの・・・」 「空閑はなにしにきたんだ?」 大地のぶっきらぼうな言い草に少しむっとした木陰であったが、風邪ならしょうがないと思い、文句は言わないことにした。「今日渡されたプリントを届けに来たのよ」 本当はプリントなんかなくとも見舞いにきたのだが。
2011-07-30 02:15:37@YOTSUnoFUNE 「お、そりゃすまねえな。……立ち話もなんだし、あがってくか?」「え?」突然の申し出に、空閑は一瞬混乱する。
2011-07-30 02:16:47@YOTSUnoFUNE 押し問答になろうとした瞬間だった。「ただいまー…ってあれ?空閑さん?」「お、おかえりみなも。」「あーお兄!起きてきちゃだめでしょ!」
2011-07-30 02:22:35@oroshiwanko 「ああ。いや、空閑がプリントを届けに来てくれてな・・・」 「あっ。そうなんですか~」 「そんなところよ」 「じゃあ、お茶でも出すんで上がっていってくださいよ。お兄もうほとんど回復したも同然ですから、おしゃべりでもしてってください」 「俺は幼稚園児か!!」
2011-07-30 02:25:06@YOTSUnoFUNE あれよあれよという間に、家に連れ込まれてしまった。まあもとよりお見舞いに来たのだから入る気はあったのだが、こういう形で入ると幾分緊張してしまう。「今お茶入れますね~」ぱたぱたと、みなもがキッチンにかけていった。
2011-07-30 02:26:23@oroshiwanko 「根岸ちゃんのインテリアの趣味は良いみたいね」 「そーかい」 「でも怪獣のフィギュアが沢山あるのね。あの壁に掛けてある絵って・・・ネギシゴン?」 「おっ。よく覚えてたな」
2011-07-30 02:28:10@YOTSUnoFUNE 「やっぱり最初にデザインした奴だからな、何かと思い入れがあるんだよ」そう言う根岸の顔は高校二年生とは思えないほどに少年らしく―まあ、悪くいえば子どもっぽかった。何故かその顔を見ているうちに、空閑の心は温かいもので満たされていった。まるで子を見る親のように
2011-07-30 02:30:19@oroshiwanko 「根岸ちゃんて、おもしろいわね」 「・・・なんか気になる言い草だな」 「ホントのことを言ったまでよ」 そこまで言ったところで、空閑さんははたと気が付いた。(・・・私、根岸ちゃんの部屋にいるのね)
2011-07-30 02:35:04@YOTSUnoFUNE その事実に、何故気付かなかったのか。(…若い男女が男子の部屋に二人きり、絵にはなるけど実際に自分がそういう場に立たされるなんて想像すらしてなかったわね……今は座っているわけだけど) 「空閑?どうした?」
2011-07-30 02:36:30@oroshiwanko 「どうもしてにゃいわよ?」 「・・・盛大に噛んだな」 「・・・だって、男の子の部屋に来たのって初めてだから・・・」 「そうか・・・。まあ、俺の部屋に来た女の子はお前が初めてだ」
2011-07-30 02:38:52@YOTSUnoFUNE 「あら、みなもちゃんは?」「…家族はノーカンだ」「バレンタインのチョコみたいな事を言うわね」「んだと?」 ああ、いつもの根岸ちゃんが戻ってきた。 ついさっきまでは、いつもじゃなかったのに。 そして自分だけはいつもじゃない状態のまま取り残されている。
2011-07-30 02:40:34@oroshiwanko (どうしよう。根岸ちゃんの部屋で二人っきりだなんて、考えてみたらものすごいシチュエーションじゃないの・・・。この状況におどおどしないわけがないわ・・・) 事実、空閑さんは緊張のあまり汗をかき始めていた。
2011-07-30 02:44:22@YOTSUnoFUNE 「暑いのか?空閑」「え?」「汗すごいぞ」「……そうかしら」 何故か根岸に指摘されると、余計に汗がわき出るようなそんな感じがした。根岸も空閑の雰囲気がいつもと違う事に気づいていたためか、深くは聞いてこない。その事が返って空閑の気持ちを混乱させる。
2011-07-30 02:46:27@oroshiwanko 「お前の方が体調不良なんじゃないか?」 大地が布団から立ちあがって空閑に近づく。空閑は驚いて離れる。「お前、ほんとに大丈夫か?顔が赤いぞ」 「・・・根岸ちゃんが近づくからよ」
2011-07-30 02:49:00@YOTSUnoFUNE 「…は?」根岸は何を言われたかわからない、そんな表情を浮かべていた。その時だった。「お兄~、お茶入れ……ご、ごめん!」 元気に扉を開けたみなもの表情が一瞬で赤く染まり、すぐに扉は閉ざされた。
2011-07-30 02:50:39@oroshiwanko 「・・・あなたの妹さん、盛大な勘違いをしたようね」 「これだから中学生は・・・」 ガチャ 「せっかくのスクープだから、ビデオカメラ回していい?お兄」 「でてけーーーーーっ!!」
2011-07-30 02:54:46@YOTSUnoFUNE 普段の根岸ならば、すぐさま追っかけっこになるだろう。だが今の根岸は体調を崩していた。それが何を意味するかというと… 「…っとと…」「わ、ちょ、ちょっと根岸ちゃん!?」 よろけた根岸が空閑に覆いかぶさるかのように倒れ込んだ。その一部始終を、みなもは見ていた
2011-07-30 02:57:27@oroshiwanko 「・・・・」 「・・・・」 重なり合って倒れた二人は、顔を真っ赤にして自分たちの状況に驚いていた。空閑も大地も、目の前にお互いの顔がこんなに近くに・・・まるでキスをする寸前のように頬と頬が触れ合っていた。 「・・・お兄、この動画あとでビデオにしようか?」
2011-07-30 03:00:39@YOTSUnoFUNE 「…出てけ」そう言う根岸の声は覇気はなく、普段の彼からは考えられないほどにか細いものだった。 「…みなもちゃん、詳しい事はあとでじっくり教えてあげるから……ここは下がってくれない?」「…分かりました、それじゃまたあとでごゆっくり」 扉が、しめられた
2011-07-30 03:03:10@oroshiwanko 「わ、悪かったな・・・」 「私こそ、ごめんなさい・・・」 二人ともあまりの状況に驚きながら、そして少しの喜びを感じながら、顔を赤らめた。そして、空閑さんは赤い顔のまま言った。「・・・私、もうお暇するわね」 「お、おう・・・」 根岸も絞り出すように言った。
2011-07-30 03:08:23@YOTSUnoFUNE そう言いながらも、根岸も空閑も動こうとはしなかった。それは「動けなかった」のか「動かなかった」のかはまだ二人にはわからなかった。 そんな時が切なく流れる中、空閑はぽつりと、それでも根岸に聞こえるようにつぶやいた。 「…私、あなたの事、嫌いじゃないわよ」
2011-07-30 03:10:02