拝啓、未来の青年へ

小麦 @laytooooon

クラウス・アルバトロ、愛されてた。楽しそうに笑ってた。

小麦 @laytooooon

アルバトロ、おまえがおまえの感情を大切に育むことは　決して悪ではないけれど　おまえの感情のために　おまえの事情など何も知らない他人を説得することもなくただ利用して殺めてしまったことが　それだけがおまえの悪なんだよ　ねえアルバトロ　君は間違ってなかったよ

小麦 @laytooooon

わたしはおまえの考え方が大嫌いだけれど、だからといっておまえの考えと感情を否定する気はないよ　いやむしろ　それは誰であっても否定できないことなんだよ　おまえが呼ぶ狂気は　そう名前をつけて自分自身をナイフで裂き続けたことが　わたしは悲しいんだ　ただただ悲しいんだよ

小麦 @laytooooon

だってそれはおまえの優しさそのものじゃないか！　狂気を浮き彫りにして自分を罰しながら　呑まれたおまえを周りは愚かだというかもしれないけれど　事実悪ではあるけど　おまえがナイフを自分に向け続けたことは　善であるとは言わないけど　確かに優しさだよ　良い人になれないおまえが好きだよ

小麦 @laytooooon

良い人にはなれないお前が好きだよアルバトロ　自分の正義を疑い続けてしまったお前が好きだよ　ほんとにすきだよ

小麦 @laytooooon

アルバトロ、地上の一番下の部分に取り付けられた光がゆっくりとしぼられて　生ぬるい風が肌を守るようにまとわりつくのに　家々の明かりからこぼれる柔らかな匂いに神経の先がちりちりと痛いのは　おまえが優しいからだよ　おまえのあたたかい思い出はおまえだけのものだよ

小麦 @laytooooon

アルバトロ、「暗い場所は苦手かい？」って偶像の少年を揶揄ったところで、おまえの傷は一ミリたりとも癒えないよ。だけどね。喪服のまま腐敗臭の漂う路地裏で、燃える煙草を踏み潰し歩いたかもしれない日々を、抱え続けた君が私は好きだよ。愛せない日々を忘れられない君が好きだよ。

小麦 @laytooooon

アルバトロ、何かを切り捨てるのも、抱え続けるのも、苦しいことだよ。選択するってことだ。君は何もかもを捨てて駆け抜けてしまえたけれど、それは君が強いってことじゃない。目を曇らせていただけだ。でもね。これからは目を見開いて、全てを抱え込んで生きていくんだ。君にはそれしか赦されないんだ

小麦 @laytooooon

アルバトロ、苦しいばかりの世界に嫌気がさして、全てを燃やし尽くしてしまいたいと望んだとしても、君が生きる場所まで火の海に変えちゃなにも残らないよ。あの日から伏せたままの写真立てに、君は両親の顔を浮かべられるかい。

小麦 @laytooooon

アルバトロ、お前がその執念でたどり着いた傷だらけのロンドンを、自分の手で葬り去るつもりだったろう事実に永遠に狂わされているよ それは、もしかしたら一種の自浄のための儀式だったのかもしれないなとも思うよ

小麦 @laytooooon

アルバトロ、お前がその薄く泥を被った踵の掠れた革靴で、機械油の匂いを纏った動物なんてとても寄り付かないジャケットで、未来の街を笑顔で歩く様！ お前が求めて求めて仕方がなくて、結局居場所なんてなかったと突きつけられるだけの一日に、できた血溜まりはきっとお前の息を奪うよ

小麦 @laytooooon

アルバトロ、おまえの言う「犠牲でも」の四文字にどれだけの人生が敷きつめられていたか、きっと分かることはないんだろうね。それでいいよ。おまえが鉄格子に囲まれている間、きみは世界を、人を、嫌いでいていいよ。

小麦 @laytooooon

「犠牲」を理解するのに「おまえが犠牲者であること」は、必要条件でもなければ十分条件にもならないんだよ。黄ばんだ写真立ての笑顔には、何を言っても無駄だけれど。

小麦 @laytooooon

生きる意味なんて見いだせないだろうよ。お前に課せられたのはきっと死ぬことを赦されない刑だから。あの冬の日に、十年前に止まってしまった時計の針は動き出したけれど。あの冬の日から、おまえの砂時計は真横に保たれたままだよ。きっと。

小麦 @laytooooon

アルバトロ、生きてくれ。おまえの目に映る世界が美しいも醜いもないただあるだけのものだったとしても。突然に訪れる鉛のような悔いに罪に目を瞑ることさえ許されなくても。生きてくれ。冬の終わりに春の始まりに、雪のとけのこるようにおまえを忘れられない人がいるのだ。生きてくれ。生きて、どうか

小麦 @laytooooon

アルバトロ、いつかを恐れて歩いていけ。地上の煌びやかな絨毯を、地下の灰けぶる石畳を。前を向き道を急ぐ人間たちに翻弄され、何度も地面を見たおまえはきっと優しいから。祈りを込めて道を造った人たちを知らず思わず歩いていけるおまえはきっと強いから。いつか、道を閉ざすために、歩いていけ。

小麦 @laytooooon

アルバトロ。夢想を重力が引きずり下ろして、新しい世界など無かったと絶望するように僕ら朝を享受するんだ。脱ぎ損ねた靴下も緩めただけのネクタイも変わらず君にはりついて、ただ君の爪は少し伸びているんだ。今日の君が昨日までの君ではないことを、忘れた僕らの「お早う」を、君は葬儀にするんだね

小麦 @laytooooon

アルバトロ、散った花弁に春時雨、泥になったよ。美しいものはいつだって儚いと決めたのは誰だったろう。僕ら、美しいものを美しいままに眠ってたいだけだった。春夏秋冬すぎてまた春。君の、いつかに祈った赤、纏った青。とうに褪せた色たちを鮮やかなまま抱き続けて、笑う顔。少し死んだみたいだね。

小麦 @laytooooon

アルバトロ、君は昨日のために生きていたのに、どうして不定の明日を夢みることができようか。君が全てを失って「いつか」を願ったこと。前を向いたんだと信じたかった。君の「いつか」が今日になるとき、君が昨日にいませんように。僕ら時間旅行なんてできない実存だ。

小麦 @laytooooon

アルバトロ、今日に今にこの瞬間に、僕ら生きているんだ。生きていてほしいんだ。

小麦 @laytooooon

アルバトロ、向かい風に眠ろう。家族と生活の隙間に道はあって、さびしさを風が紛らわせているんだ。からりと転げた空き缶に、君は白骨死体を見るように三歩離れて歩いたね。無遠慮に風がハッピーバースデーを連れてきて、君は煙草を踏み潰したね。もう眠ろう。住処なんてない僕ら、向かい風に眠ろう。

小麦 @laytooooon

アルバトロ、君に差し伸べられたたくさんの手のひら、掴んだって憎しみも悲しみも消えることはなかったよ。幸不幸のシーソーゲーム、破綻していると見下した君の正しさ、忘れてしまいたくなかっただけだ。僕ら複雑に和するのだ。

小麦 @laytooooon

アルバトロ、絶対値なんてない感情、抱えて束ねて生きるんだ。

小麦 @laytooooon

アルバトロ、愛とは、理想とは、生命とは。街は賢しらな言葉でできていて、僕ら悟った気になってしまうんだ。君が「犠牲でもでなければ」と叫んだとき、僅かにまじったお偉い言葉、きっと世界を期待していた。飾り立てられた君も僕もあの子も、ぜんぶ本音じゃなくて、ぜんぶ本音だったよ。アルバトロ、

小麦 @laytooooon

アルバトロ、借り物の言葉で生きるんだ。