マスター・オブ・パペッツ #3

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「俺、こんなところに居ていいのかなあ?」ザック、マークスリーとともに卓を囲む冴えない男は、ピザタキの常連である市民、イシモである。「居とけ」タキは言った。「帰ンじゃねえぞ」「わかったけどね……」イシモはカウガール姿のコトブキが大皿のピザを持ってくるのを見ながら曖昧に頷いた。 19

2021-06-03 22:27:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ドーゾ!一枚目は、アンチョビ・ビッグ・ピザですよ」コトブキは大皿をドンと置いた。「ヒャア!ウマソー!」ザックは己を鼓舞するように手を挙げ、歓声をあげた。イシモも同意した。「やっぱりセルフじゃないサービスは一味違うね!得したぜ」「そうでしょう!良心店ですよ」コトブキが認めた。 20

2021-06-03 22:30:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ワーイ!」ザックがピザを掴み、チーズを垂らしながらかぶりついた。イシモもガツガツと食べはじめた。「ここは貧民救済院のようなものですか?」マークスリーは表情を曇らせた。コトブキは笑顔で否定した。「違いますよ!地域の憩いの場です。どうぞ召し上がれ」マークスリーはフォークを探す。 21

2021-06-03 22:34:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何がどうなってやがる。アイツ、マークスリーだったのか」タキがマスラダに囁いた。「ジョンなんていう偽名を使って、潜入調査に来やがって。そしたらコトブキのやつを追って店を飛び出して……食い逃げかと思ったらよ……」「……」「妙な真似しやがったら、なるべく早めにお前、ヤれよ?」 22

2021-06-03 22:37:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「おれに命令するな」マスラダは言外に、当たり前だ、という唸りを込めた。タキは窓際の空席を見やった。「こういう時に限って、長っ尻のネエチャンは居ねえしよォ」レッドハッグはノブザメEの脚部メンテナンスが終わったとの事で、店を出ていった。バウンティの一つ二つこなす……そう言っていた。 23

2021-06-03 22:41:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「安心してください。この店と貴殿の関係を他の狩人に伝えなどしません」マークスリーは言った。「他の狩人をいたずらに利する行為など。……それに、僕は正面から、正々堂々の戦いで勝つ自信がありますからね。ニンジャスレイヤー=サン」彼はピザに手を伸ばし、チーズの熱さに手を引っ込めた。 24

2021-06-03 22:45:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「もっとこう、一気にいけよ」ザックが促した。「味がいっぱいして、美味いぜ?」「フン……」マークスリーは用心深く手に取り、少し口に入れた。二口。三口。「な?美味いだろ?」「火が通ってはいるようですね」「かわいくねえ美少年だぜ。お高くとまってら」イシモが顔を赤らめて不平を言った。 25

2021-06-03 22:51:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「遠慮せず食べてくださいね。タダですよ!今日のアリガト・パーティーの主役は、あなたなんですから!マークスリー=サン!」コトブキが喜んだ。「ザック=サンを助けてくれたんですから!」マークスリーは頷いた。「こちらこそ、饗しを感謝します」「まあ!礼儀正しいのですね!」 26

2021-06-03 22:53:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「騎士の責務は婦女子を、寡婦を、孤児を、病める者を、衰弱せし者を護ることである。当然の事をしたまで」マークスリーは言い、ケモソーダのグラスを取った。飲み込み、むせそうになる。「気取りやがって、まったく」イシモが顔を赤らめ、マークスリーのグラスに瓶からオカワリを注ぐ。 27

2021-06-03 22:57:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「僕は充分にもてなされている。貴女ももう、食べたらどうですか」「わたしは従業員です。職責を果たしているんですよ」「職責……正しく雇用されていますか?」マークスリーはタキを見た。「関係ねえんだよ、他所者にはよ!」タキは罵って目をそらし、少しマスラダのほうに身体を動かした。 28

2021-06-03 23:01:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

マスラダは懐からスシ・パックを出し、しかめ面で咀嚼した。コトブキはマークスリーに問う。「グレートブリテン王国の装いですが、やはりあなたの出自によるのですか?」「はい、実際そうです。祖国は我が誇り」「貴様はカタナの人間か」マスラダが問いを挟んだ。マークスリーは冷たく見返した。 29

2021-06-03 23:04:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「いいえ、僕はカタナの所属ではありません。少なくとも今この時はね」マークスリーは不敵に答えた。「……そして、人間でもない。調和のもとでデザインされたバイオホムンクルス、人の手によって生み出され、人を超えた存在です」イシモが驚いた。「エッ、人工なの?だから美少年なのか」 30

2021-06-03 23:09:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「僕はカタナ・オブ・リバプールの最高傑作ですが、実際仕える相手は、とあるリアルニンジャです。プロダクトが生みの親を選べますか?カリュドーンはリアルニンジャの営み。カタナ社はカリュドーンに無関係です」「ならば誰に仕えている?」「フフッ」マークスリーは微笑んだ。 31

2021-06-03 23:13:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「貴方がこちらのレディの提案を呑んだ理由はわかりました。少しでも儀式の情報、狩人の手がかりを得たいといったところでしょう。浅知恵にしては考えましたね。ですが他の狩人を売るつもりはありません。アンフェアですから」「誰に仕えている」「……星星が揃ったならば、明かしてもよいでしょう」32

2021-06-03 23:16:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「貴様らは色々とくだらんお膳立てをして、誰がおれを仕留めるか競っているわけだが」「……フン……」「おれが勝った場合、儀式はどうなる」「さあ?僕は知りませんし、知るつもりもありません。僕は負けないからです」マークスリーは肩をすくめてみせた。 33

2021-06-03 23:20:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「それから一つ言っておくと、儀式時間外に狩人を攻撃するのはおやめになったほうがいい。仮にその結果貴方が勝ちを拾ったとしても、それは勝ちではない。その場合、別の狩人が補充されるだけです」「何人補充させてやっても構わんぞ」「マアマア、今は軽めにしとけ、な」タキが弱々しく笑った。 34

2021-06-03 23:23:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

チーン!オーブンレンジが鳴って、コトブキが第二のピザを持ってきた。「クアトロフォルマッジです。蜂蜜をかけて食べてくださいね」「やったあ!」「エッ、これタダでいいの?」ザックとイシモが湧いた。コトブキは請け合った。「タダです!」タキは訝しんだ。「何だそりゃ。在庫してたか?」 35

2021-06-03 23:30:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハイ、いつもと違うカタログに手を出してみたので……」「何勝手な事してンだよ!」「蜂蜜をかけるんですよ、これは。四種類のチーズですし、豪華です」「勝手だぞ!ふざけやがって」タキは怒ったが、甘いチーズの匂いに渋々カウンターを乗り越えた。「オレにも食わせろ、それ」 36

2021-06-03 23:32:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「甘いし、色んなチーズの味がして美味いぜ!」ザックが喜んだ。イシモも興奮した。「ウマーイ!ウマーイ!マークスリー=サンも食べなよ!」「いえ、僕は……」「じゃあオレによこせ」タキが自分の分を頬張りながら手を伸ばす。マークスリーは厭わしそうに手を引き、自分のピザを守る。 37

2021-06-03 23:35:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「良かった!コレも美味しいですよね?」コトブキはマークスリーを見た。マークスリーは落ち着かない視線を彷徨わせながら、クアトロフォルマッジを食べた。チーズと蜂蜜がこぼれ、彼は慌てる。コトブキはナフキンを差し出した。「ドーゾ!」「ア……スミマセン。僕がこんな……」顔を赤らめる。 38

2021-06-03 23:37:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

コトブキはマスラダを見る。手振りでピザを勧める。マスラダは首を横に振った。今この時も、彼はマークスリーの奇襲を警戒し、不測の事態を警戒し続けているのだ。彼は戸口を見た。一秒後、カララン!鐘が鳴ってドアが開き、レッドハッグとビール・カートンを抱えたノブザメEが入ってきた。 39

2021-06-03 23:40:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハッハッハ!アタシのお出ましだよ!」レッドハッグが笑った。「おや、パーティーかい?丁度いいね」「何だお前、そりゃ!」タキが目を剥いた。レッドハッグはチッチッと舌を鳴らした。「長い滞在なのに、この店にゃ小便みたいなビールしかないからさ。調達してきてやったんじゃないか」 40

2021-06-03 23:43:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「どいつもこいつもふざけんなよ……!」鼻白むタキに、ノブザメEが瓶を押しつけ、親指の力で栓を弾き飛ばした。「ペールエールだぞ、ケモじゃねえ正真正銘プロダクトだ。ありがたく飲めよ!」「お前……ゴクゴク」タキは泡にむせながらビールを飲む。「これもタダ!?」イシモが驚く。 41

2021-06-03 23:47:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アタシのオゴリだよ!」レッドハッグが笑った。「マジで!?」「気前のいい美女!?」新たに入店してきた近所のタタラギとミボシ、常連客のアンダーソンとウチドが歓声をあげた。「ラッキーなタイミングだぜ!」「勝手に決めンなゴクゴク」タキがビール二本めを飲みながら三本目に手を伸ばす。 42

2021-06-03 23:51:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ノブザメEは上半身を回転させながら各自にビールを配っていく。最後にマスラダのもとへ。「兄ちゃん、一杯付き合わねえか?」「フー……」マスラダは不機嫌な溜息をつき、受け取った瓶のネックをへし折り、呷った。遠くからその様子を見たコトブキは穏やかに頷いた。あちこちで笑い声。宴が加速。 43

2021-06-03 23:54:53