分析美学における鑑賞論と、俗流若者論と

ネタバレ、倍速視聴、ファスト動画……諸々の“民間美学”(※学問という体裁ではないが、巷で「これぞ美的な態度というものだ」と流通している準理論的な言説のこと)を伴って議論される作品鑑賞のオプションに対して、分析美学はいろいろな提案をしているし、できている。だが、それとよく似ていながら全然分析美学的な手法を伴わない俗流若者論が出てきたとき、分析美学の担い手はどういう反応をしたら適切なのだろう? という話が語られていたのでまとめた。(これは@trickenの要約であり、事実と異なる可能性があります)
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シノハラユウキ @sakstyle

鍵RT: (...)倍速視聴にかこつけた俗流若者論の発生などを見ると、分析美学的アプローチにますます疑念を抱いてしまう。倍速を批判する俗流若者論とネタバレや倍速の美学的検討がどう違うのかわからなくなってきた。社会通念をそのまま受け入れて論証しているだけのようにみえる

2021-06-23 12:26:26
シノハラユウキ @sakstyle

分析美学を代表できるわけではないが、分析美学側からの話をすると、(1)分析美学(や分析哲学)は、おそらく哲学に対する一般的な期待と異なり、常識や社会通念を批判したり疑ったりすることを必ずしも主たるミッションとしていない。むしろ、ある常識があった時、まずそれを精確な表現にしようとする

2021-06-23 12:29:32
シノハラユウキ @sakstyle

「ネタバレや倍速視聴は悪い」という主張(常識や社会通念?)があった時、そこで悪いとは一体どういう意味でか、何故悪いと考えられるのか、などその主張の内実をより明らかにしていくことをまず行おうとするので、単なる社会通念の追認にしか見えない、という点は確かにある

2021-06-23 12:31:47
シノハラユウキ @sakstyle

(2)一方で、個々の美学者の主張を見ると、是非は分かれていたりする(ネタバレや倍速視聴はそもそも分析美学的に検討している人が数名しかいないので、多様性がすごくあるわけではないが、それでも意見は割れてる)。

2021-06-23 12:35:16
シノハラユウキ @sakstyle

なので、必ずしも分析美学者がみな社会通念を追認しているわけではないと思う(もちろん、社会通念と一致する主張をする人もいる) ただ、分析美学全体では、「○○はよい」「悪い」という判断自体より、「ここでいう悪いというのは××という意味で悪いということだ」と明確化されることを重視すると思う

2021-06-23 12:38:52
シノハラユウキ @sakstyle

分析美学や分析哲学、教科書みたいなのでさらっと眺めると、「なんでこんな当たり前のことしか言ってないんだ、つまんねーな」と思うのだが、個々の論者の主張を見ると「なんだこの奇妙な主張は」となることはある。

2021-06-23 12:41:47
サムソナイト @mine_o

@sakstyle 応答ありがたい。そのことを理解した上で、下記記事みたいなものを分析美学が退けられる論理を持っているかどうかがまだつかめないんだよね。この記事は10年後に維持できるとは思えない「若者論」としか見えないんだけれども、 gendai.ismedia.jp/articles/-/843…

2021-06-23 13:03:41
サムソナイト @mine_o

@sakstyle 例えばこの記事と同じように分析美学の枠組みで「倍速は悪い。その悪さとは批評を退けることにある」と主張することはできる。もし、記事を退ける論理をもってないならば、場合によっては美学的言説が繰り返された若者へのお説教の用心棒的なものとして悪用されるのではとおもったのでした。

2021-06-23 13:13:37
シノハラユウキ @sakstyle

@mine_o 一応確認しておくと、倍速鑑賞に関して、分析美学で一番最初に、そしてまとまった形では唯一論じていたのは銭さんだと思うのだけど、銭さんは倍速鑑賞擁護派であって、こういう意味で倍速鑑賞は悪いと考えられるが、実際にはそれは悪くはならないという論を展開している。

2021-06-23 21:54:45
シノハラユウキ @sakstyle

@mine_o 正直、「若者へのお説教の用心棒的なものとして悪用される」として危惧される状況と、「この記事を退ける論理」として期待されているものが何なのか、あまりピンと来ていないので、なんとも

2021-06-23 21:57:29
サムソナイト @mine_o

@sakstyle うーん、まず稲田記事を美学的主張としてみたら、銭氏に対する森氏と松永氏の疑義と論点的に重なっていてある意味で筋は通っている(ことになる)。しかし稲田に反論する際に「感情的に反発せず、彼の美学的主張に内在的に反駁すべし」と要求されたらそれは大変不当に感じる(銭氏はそれを要求している)。

2021-06-24 09:24:07
サムソナイト @mine_o

@sakstyle なぜなら記事では社会通念上正しい側と間違ってる側が初めから腑分けされた上で美学的な議論を行う羽目になるから。そこで民主的で改良主義的に議論しましょうといっても公正ではない。実際このような非対称性が美学的議論というテイでしばしば隠蔽されたり誤魔化されたりするのはよくあると思う。

2021-06-24 09:24:54
サムソナイト @mine_o

@sakstyle ファスト動画潰しに関してもネタバレわるい、ダイジェストわるいという製作者-消費者が共有する民間美学みたいなものが明らかに裏にはあるよね。この民間美学を精緻化し正当化するにせよ、反駁するにせよ、胡散臭い被害額が算出されたりレビュー動画が消え始めたりと現実的に影響出ているなかで

2021-06-24 09:25:39
サムソナイト @mine_o

@sakstyle この現実の動きは事実上ネタバレ早送りOK的な美学を持つ人が秩序の破壊者と社会的に見なされているということで、そのような状況で倍速やネタバレを美学のレベルだけで語れというのはマジョリティや力の強い者(上の世代?)を追認せよということに概して帰結してしまうのではとどうしても思ってしまう

2021-06-24 09:27:15
サムソナイト @mine_o

@sakstyle だからこそ、分析美学に稲田みたいな語りを退ける論理はあるのか?と思った。ちなみに私は分析美学のアンチのつもりではないです。こういう議論を考えることは外からの「眺め」の暴力によるアンチ行為ではなくまさに内在的に検討するに足る話かなーと個人的には思っているのだけれど……

2021-06-24 09:28:31
サムソナイト @mine_o

@sakstyle もちろん、こういう論法は「ポスト・トゥルースはポストモダンのせい」的なとばっちりにすれすれなんだけれども、民間美学や社会通念に美学のレベルで内在的に反駁せよという要求がきつい現実も出ている印象もあるので、どうしても説教を退ける論理がないか気になってしまう。

2021-06-24 09:32:31
サムソナイト @mine_o

倍速視聴を批判する際に音楽の例が出るが「ポルノ」の方が適切なのでは。性的なシーンは倍速にすると楽しめない。なんとかビジネスの記事をはじめ、倍速批判者が求めるような鑑賞体験はポルノの視聴体験が範例となる。「若者たちはポルノを見るように映画を見ていない(怒)」ということになる。

2021-06-24 09:40:46
サムソナイト @mine_o

しかし等速的ポルノを範例とすることはなんとかビジネス記者と逆に批評を生まないと捉えることができる。批評的な映画ではポルノ的表象で鑑賞者の調和気を散らせる仕掛けをつくる。批評的な鑑賞者はポルノシーンで眠ることができる。そこには倍速(減速?)や早送りが先に仕込まれている。

2021-06-24 09:45:46
サムソナイト @mine_o

@kiyosetaiki なるほど。確かにアダルトビデオだと強度的なヤマがあるゆえに「早送り」は必須なわけですよね。アダルトビデオ鑑賞者に「早送りをするな!」と怒る人はいない。ただなんとかビジネスの人は早送りも禁止してるのでそこにまた矛盾が起きるような気がしてます。

2021-06-24 09:55:43
サムソナイト @mine_o

早送り批判派はポルノビデオを早送りなしで見るのか否か。この問を本気で人にぶつけたらとても暴力的に感じられるだろうが、鑑賞することの美学について語ることはこのくらい際どい話になるのは確かで、肯定派対否定派で民主的に議論しましょうという型自体がキツい場合もある。

2021-06-24 10:05:56
シノハラユウキ @sakstyle

@mine_o 完全に個人的な意見で、美学者はこう考えているという主張では全くないのだけど、美学の有効射程範囲外の話ではないのかな、それはと思う。 かの記事のダメな部分、概ね美学の範疇外にあるので美学として批判するようなものではないし(批判するには別のもの使った方が有効)、

2021-06-24 12:25:54
シノハラユウキ @sakstyle

@mine_o 逆にあの記事のダメな部分が、美学を使うことで正当化できるかというと、それも思わない。 美学は、まあ色々概念整理するのに役に立つ武器だとは思うけど、その武器が届く範囲、そんなに広くはないのでは、と。 まあでもこれは、もっと使えるぞ、という人もいるだろうから違う意見もあると思う

2021-06-24 12:29:24
シノハラユウキ @sakstyle

@mine_o それとは別に、美学者のある種の語り口が社会的によくない効果をもたらすのなら、美学者はそのことに意識的になり、時にはそのことについて表明すべきかもしれない。でもそれって、美学者倫理かもしれないけど、美学の中にある論理の話ではないような気がする、個人的には。

2021-06-24 12:33:56
シノハラユウキ @sakstyle

@mine_o あと、美学が力持つのは、マジョリティの主張の正当化よりも、マイナーな主張の正当化の時だと思う。 マジョリティの主張の内実を整理する時、ほんとに整理してるだけで、あまり正当化してないような気もする。みんな正しいと受け入れてるっぽいから、とりあえず正しいことにしとくか、くらいで。

2021-06-24 12:38:12
シノハラユウキ @sakstyle

@mine_o で、それがなんでマイナー主張の正当化に使えるかというと、分析系の議論のパターンのひとつに「これは皆んなが正しいと思ってる原理です→この原理はこんなふうに定式化できます→この定式化された原理をこれに適用します→すると、こんな驚きの結果が!」というのがある。

2021-06-24 12:40:51