怪短話・コックリさん 男が二人いる。ぼんやりと前を見て座っている。 一人がボソッと言った。 「なあ。暇だし、コックリさんやらない? 」 「は? おまえ、何歳だよ。んなもんやってどうすんだ」 「だって暇だし。何もすることないし」 「そりゃそうだけど、やるにしても道具が無いだろ」
2021-07-12 23:35:57「あ、それは大丈夫。俺のハンカチの絵柄、コックリさんに使う五十音表なのよ。十円玉も持ち歩いてる」 「……わざわざ作ったの? 」 「うん」 「まあいいけど。じゃあやってみるか」 最初に言い出した男は、いそいそと道具をセットした。 「この十円玉に指を乗せて。いい?いくよ。一緒に唱えて」
2021-07-12 23:35:57コックリさん コックリさん いらっしゃいましたらお入りください 「来ないじゃん」 「あー、やっぱり無理かー。ここ、太平洋のど真ん中だもんなー」 漂流して五日目のボートの上で、二人はまた黙り込んだ。 しばらくして、二人が声を合わせてつぶやいた。 「来たら来たで怖いけど」
2021-07-12 23:35:58怪短話・くねくね 陽炎の立つ道を兄弟が歩いている。兄は十四歳、弟は十歳だ。 夏休みを祖母の家で過ごすため、二人でやって来た。 バスすら無い田舎なので、駅から延々と歩き続けている。 「兄ちゃん、暑いね」 「がんばれ。もう少しでばあちゃん家だからな」
2021-07-12 23:51:08前後左右、見渡す限り田んぼだ。休憩できそうな店どころか、人影すら見当たらない。 兄は弟を励まし、弟は弱音を吐かず、前を目指した。 その時である。弟が田んぼを指さした。 「兄ちゃん、あれ何だろ」 弟が示す方向に妙な物がいる。白い人型のものが、くねくねと踊っている。
2021-07-12 23:51:08不思議な動きに目が吸い付けられてしまう。 「兄ちゃん、あれ何?」 「しっ。静かにして。まさか、あいつがこんな所にいるなんて」 兄は拳を握りしめ、じっと見つめている。 「大丈夫なの?あれ、なんか変だよ」 兄は返事もせずに見続けている。 しばらくして、兄の右手が動いた。
2021-07-12 23:51:08次は左手、続いて両足。兄は人型と同じように動き始めた。 その動きは徐々に速くなっていく。数分後には、完璧に同調していた。 激しい動きで息は切れ、汗が噴き出す。 「兄ちゃん止めて、兄ちゃんてば! 」 兄の服を引っ張ろうとした弟は、次の瞬間驚いて手を止めた。 兄が笑っている。
2021-07-12 23:51:09楽し気に笑いながら動き続けている。 一時間が経過した。いつの間にか人型のものは消えている。だが、兄はまだ止めようとしない。 先程の人型がとり憑いたように動きながら、何事か呟いている。
2021-07-12 23:51:09「そうか、ここをこうキメて、次にこう。肘の角度がポイントだな。膝も柔らかくしないと」 その夏、兄は全日本ストリートダンスコンテストで優勝した。 くねくねした不思議なダンスは、世界中から注目されているという。
2021-07-12 23:51:09怪短話・死ぬもの達 何処とも知れぬ空間で会議が開かれている。 集まったもの達は、モニター画面を見つめている。 映し出されているのは、一人の男だ。 「こいつ、名前は何だっけか」 「つくね乱蔵とかいうふざけた名前だ。作家らしい」 「怖い話を好んで書いているそうだ」
2021-07-13 17:57:47「それで私たちに近づいたのか」 「普通、そんな真似はしない。死ぬからな」 「馬鹿は死んでも治らないのだが、こいつぐらいの馬鹿だと死ぬのも怖くないのだろう」 さて、どうしたものか。 溜息をついたのはバズビーズチェアだ。 サースク博物館に展示されている『座ったら死ぬ椅子』である。
2021-07-13 17:57:48「わざわざ日本からやってきて二時間も座ってたんだぜ。途中で居眠りしやがった」 その隣で苦虫を噛み潰しているのはスレンダーマンだ。 「私はこの男に付け回された。しつこいの何のって」 正面に座っているベクシンスキの絵も、いつも以上にうんざりした顔だ。
2021-07-13 17:57:48「あいつ、私をスマホの待ち受けにしてるのよ。日に何度見られてるか数えきれないわ」 顔を伏せたままの男が憎々し気に叫んだ。 SCP-096、通称シャイガイと呼ばれる男だ。 「あの野郎、俺をじろじろ見やがった。それだけじゃない、一緒にプリクラ撮りませんかなんて言いやがったんだ」
2021-07-13 17:57:48いずれも関わったが最後、死ぬものばかりだ。 ところが、モニターの中のつくねは鼻歌を歌いながらパソコンに向かっている。 何故、死なないのか。やはり馬鹿だからか。 実のところ、理由は意外なところにあった。 『皿の上に一つだけ残った菓子は、誰も手を出さない理論』である。
2021-07-13 17:57:49「ベクシンスキさん、やっちゃったら?」 「いや、実力からしたらバズビーズさんでしょ」 「先輩を差し置いて殺せないっすよー。スレンダーマンさんどうです?」 「うーん。遠慮するよ。尊敬するシャイガイさんの前で恥ずかしい殺し方はできないし」 「いいよ、俺なんか構わないから。どうぞどうぞ」
2021-07-13 17:57:49結局、今回も結論が出ないまま解散。 この状態が二ヵ月続いている。 つくねは手を休め、鼻をほじりだした。 いつの間にか、つくねのパソコンには落語の動画が流れている。 それをBGMに怖い話を書いているのだ。 やはり、世にも稀な馬鹿なのだろう。
2021-07-13 17:57:49怪短話・きさらぎ駅へ とある会社の人事課。 今期の採用枠は四人だけだ。会社の業績からすると、頑張った方である。 就職難を象徴するかの如く、机には履歴書が山積みだ。選び放題であるはずだが、いずれの応募者も決め手に欠けている。業績悪化を止めてくれるような即戦力など来るはずがない。
2021-07-13 18:06:50砂山から砂を選ぶような作業である。人事担当者の坂田は肩を二、三度叩き、次の履歴書を読み始めた。 読み進めるうち、その手が止まった。 見たところ、いたって普通である。輝かしい学歴や、目を惹く資格は見当たらない。 こう言っては何だが、Fランクの端にぶら下がっているような大学だ。
2021-07-13 18:06:51特技無し、賞罰無し、これといった自己主張も無し、読む時間が無駄なのは間違い無しの履歴書だ。 何故か坂田は、この履歴書を合格の枠に入れた。 面接の日。履歴書の当人が現れた。本人もまた、見事なまでにありふれた男である。 だが、坂田は待ちかねたとでもいうように、目を輝かせた。
2021-07-13 18:06:51早速、面接開始。 幾つか当たり障りの無い質問が続いた。 「では最後に一つ。この履歴書によると――」 坂田は例の履歴書を机の上に広げた。 「あなた、御自宅の最寄り駅がきさらぎ駅となってますが、これはあのきさらぎ駅ですか」 男は緊張した笑顔で答えた。
2021-07-13 18:06:51「はい、そこに書いてあるようにきさらぎ駅です。駅から家まで徒歩十分ぐらいです。日によって一時間の時もあるんですけど」 「ずっとそこで暮らしているのですか」 「はい、産まれた時からずっと。あの……それが何か」 「いえ、特に。我が社で働くとしたら、ここから通うのですか」
2021-07-13 18:06:52「はい、定期券もありますし。この間やっと自動改札になりました」 「あの……ちょっとお願いがあるんだけどいいかな」 「はい。私にできることなら」 「もしも合格したら、家庭訪問とかやっても構わないかな。できればその時、この会社から一緒に行って欲しいんだが」 「はい、喜んで」
2021-07-13 18:06:52初日の研修を終え、坂田は男と共にきさらぎ駅に降りた。十分に町を味わい、駅まで送ってもらった坂田だったが、元の世界には戻れなかった。 坂田は一つだけ間違ってしまったのだ。 駅を使えるのは、この町の住民だけである。 坂田は今、住民票を移すべく必死できさらぎ市役所を探している。
2021-07-13 18:06:52怪短話・最強にして最凶 その日、日本は未曾有の危機を迎えていた。 東京上空に巨大な円盤が現れたのである。 船内には、当然の如く外宇宙からの侵略者がいた。 侵略者は僅か数分で日本語を習得し、日本政府に対して宣戦布告した。 十日以内に東京を明け渡せ、さもなくば全ての日本国民を抹殺する。
2021-07-13 21:49:41全世界は注目するだけで助けようとはしない。侵略者の攻撃能力を見定めたいのだ。日本がどうなろうと知ったことではない。いわば人身御供である。 政府首脳陣は統合幕僚長を交え、対策を練り始めた。 「何故、奴らは我が国を選んだのだ。大した資源もない国を」 頭を抱える総理に、幕僚長が言った。
2021-07-13 21:49:41