ちょちょいのちょい

ちょちょいのちょい
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キボンヌ @kevonne_jp

#twnovel 二羽の烏と対峙する。烏は惨めな自分をえげつなく笑うので石を投げようとするが、一方に狙いを定めると他方が身を挺してかばおうとする。両者の真ん中へ石を叩きつけると、一層五月蝿い笑い声をあげて飛び立った。二羽は交互にこちらを一瞥し、赤黒い夕焼けの空へ滲んで消えた。

2010-10-29 04:31:31
キボンヌ @kevonne_jp

#twnovel 水無月の暖かな雨を避け、お堂へ逃げこむと先客を見付けた。その長い黒髪と薄紅色に塗られた口紅は、深緑の雨の風景に溶け込んでいる。私に向けた笑顔は、私を通り抜けて空へ弾けた。やがて遠くの空が橙色に辺りを照らし、木々にまとわりついた水滴はひぐらしの鳴き声へと変わった。

2010-06-06 18:45:32
キボンヌ @kevonne_jp

#twnovel 盆の昼下がり、田園を切り裂くように延びたあぜ道を歩いていた。セミの声が遥か遠くに聞こえ、うなじは塩を吹いている。あぜ道は地平線へと消え、陽炎に揺られて人らしき点が徐々に姿を現してきた。その判別が付いた時、セミの声は消え、風景が回想シーンのように白光色に霞んだ。

2010-06-02 02:55:51
キボンヌ @kevonne_jp

#twnovel 断片的な記憶喪失になっていたが、なんとか自宅のアパートまでたどり着いた。階段を上り、自分の部屋へ近づくにつれ、少しずつ記憶を取り戻していく。部屋へあがり込み、電気のスイッチに手をかけた瞬間やっと全てを思い出した。私は、首を吊って無表情で私を見つめる私と対面した。

2010-05-31 03:19:28
キボンヌ @kevonne_jp

#twnovel いつもの学校をサボっての帰路、雨宿り。すると見知らぬおばちゃんが折りたたみ傘を差し出してきた。「おばちゃんのだろ?」「いいからほら。」と受け取ってしまった。サボる気にもなれず、学校へ戻った。その後返せなかったけど、会社勤めをしてる今でも鞄にその傘をしまっている。

2010-05-29 05:33:18
キボンヌ @kevonne_jp

#twnovel 彼が大きく見えた。口元がほころびかけたので、慌てて視線を落とす。黒焦げた木の幹を芋虫が這っている。鼻をすすると、足元は視界から消え、反射的に視線を上げた。不意に桃色の突風が襲い、空気の温度を変えた。彼の桃色の斑に染まった背中は、彼にしかない大きさにやっと戻った。

2010-05-29 05:01:53
キボンヌ @kevonne_jp

#twnovel 深夜の海を泳いでいた。視界には水平線と深緑の海面と月一つ。徐々に重力は反転し、僕の体はゆっくり海面から離れた。僕に引き上げられた柔らかな海水は、空で弾け、水泡となって漂い、やがて意思を持って水のトンネルを形成した。トンネルの先にはプラハの街並みが揺らいで見えた。

2010-05-27 03:28:07
キボンヌ @kevonne_jp

#twnovel 凍えそうな砂漠の夜空に三日月が揺れている。月は触れれそうな程鮮明に映っているのに、星はない。月の真下でラクダがアクビをすると、こぼれ落ちそうな程の星が現れ、月の光を弱めた。やがてラクダの眠りと共に星は一つ、また一つと月へ吸い込まれ、夜空は元の月夜を取り戻した。

2010-05-12 03:35:21
キボンヌ @kevonne_jp

#twnovel 唐突に雨が止み、太陽が顔を出した。各所の水溜りは一つの小川を造って流れ、蛙が下流に向かって泳いでいた。やがて彼は一つの水溜りへ姿を眩ませ、次に姿を現した翌日には小川はすっかり干上がっていた。それを見た彼は退屈な表情を浮かべて、干上がった小川を上流へ遡って行った。

2010-05-04 05:23:16
キボンヌ @kevonne_jp

#twnovel ビスケットを一枚ポケットに入れて叩いてみた。4分の1は粉々に砕けてポケットを汚し、他は大きさの異なる3つの欠片に割れた。欠片の一つを食べてみたら、元の完璧な一枚より美味しく感じた。欠片はあと2つ残っているし、ポケットは掃除が必須だ。幸せとはそういう事だろう。

2010-04-29 18:47:09
キボンヌ @kevonne_jp

#twnovel カフェで食事をしていたら、女性に突然頬を叩かれた。驚いて顔をよく覗き込んだが、知らない顔だった。軽蔑の表情を残しつつ女性は立ち去り、入れ替わりのように恋人がやってきた。最終的に妙だったのは、彼女を含めた店内の人々の無関心振りと、食事代が極端に安かった事だった。

2010-04-27 18:43:46
キボンヌ @kevonne_jp

#twnovel 熱いコンソメスープが出来上がった。何しろ夜中の3時過ぎだ。スープの香りは台所を抜けて家を包み込み、庭にまで拡散し、夜空の新月へ吸い込まれていく。クルトンをひとつまみ入れるとスープの香りは落ち着き、新月が少しだけ形を崩した。新月に入ってから8時間後の出来事だった。

2010-04-27 03:18:21
キボンヌ @kevonne_jp

#twnovel 強く引かれるような衝撃が走り、うたた寝から目が覚めた。車窓は全て閉ざされていて、隣の車両まで見渡しても乗客は自分以外いなくなっていた。やがて駅に着いた時、私はすっかり泣きつかれて抜け殻となっていたが、新たな5人の乗客は皆初春の太陽のような笑顔で満ち溢れていた。

2010-04-26 19:39:52
キボンヌ @kevonne_jp

#twnovel 今にも一雨きそうな曇天に、吸い込まれてしまいそうな緑色の太陽が昇っている。僕は意味もなくそれを手の平で覆い隠してみたら、手の平が焼けるように熱くなり、慌てて腕を下ろした。すると太陽は本来の色を取り戻し、僕の手の平には真っ赤の痣ができた。

2010-04-26 04:08:33
キボンヌ @kevonne_jp

#twnovel 重い瞼を指で押さえながら釣り糸を垂らしている。およそ3時間振りに真っ黒い水面が仕掛けを飲みこんだ。今日失った仕掛けは5つ。獲物が弱るのをじっと待つが、ついに我慢の限界が来て水面へ飛び込んだ。拾ったのは今日の仕掛け4つと、半年前に腹が立って放り投げた釣竿だった。

2010-04-25 04:02:59
キボンヌ @kevonne_jp

#twnovel 公園でいつもポカンと口を開けてベンチに浅く腰掛けている爺さんが、初めて見る小さな婆さんの手を引いているのを僕は見つけた。公園のいたる所を指差しつつ何かを喋っている爺さんの口は、むしろ普通の人以上に一所懸命に動いている。僕は普段の道よりも遠回りして帰ろうと思った。

2010-04-23 17:25:15
キボンヌ @kevonne_jp

#twnovel 今夜も彼女の墓前で懺悔する。しかし今夜は長年で初めて彼女が現れ、「あなたを許してあげる」と告げてきた。僕の中に長年こびりついていた真っ赤なモノは洗い流されていったが、その代わりに黒い油のようなものが染み渡った。これを拭い去る為には彼女の後を追うしかないのだろう。

2010-04-22 15:21:23
キボンヌ @kevonne_jp

#twnovel いつもこうして君を見つめながら「大好きだよ」と言うと、君は笑顔を見せてくれる。でも今初めて「愛してるよ」と言ってみた。すると君は僕から夕陽へと顔をそむけた。僕は彼女の隣で一緒にその夕陽に顔を向けてもう一度同じ台詞を言ってみると、彼女は黙ってボクの肩に頭を預けた。

2010-04-21 18:22:49