ゼロ・トレラント・サンスイ(2021年再放送版+歴代放送版まとめ)
チープな電子音が「カーブ注意」を知らせた。ぐらりと車体がかしぐ。ミニットマンは吊り革に力を込めた。その一瞬のことだった。ニンジャスレイヤーは隣の車輌から忽然と消え失せていた。
2021-07-24 22:30:00「バカな!」だが、慌てるな。生体センサーが道を示してくれる!ミニットマンは網膜に映し出された二次元レーダーを確認した。ニンジャスレイヤーを示す赤い点はほとんど動いていない。と言う事は....「上か」
2021-07-24 22:33:00ミニットマンは窓枠を乗り越え、電車の側面から上へよじ登った。トンネルの壁面に走行音がごうごうと反響し、風圧が襲いかかるが、ニンジャにとって、この程度の動作はウォームアップですらない。ミニットマンは隣の車輌上の人影を見据えた。ニンジャスレイヤーは腕組みして仁王立ちになっていた。
2021-07-24 22:36:00復讐と功名心、そして焦りに雲らされていたミニットマンの意識も、ここへ来てついに認めざるを得なかった。ーーニンジャスレイヤーはミニットマンの尾行に気づいていた、そして、こうして.....彼を待ち伏せたのだ!
2021-07-24 22:39:00「ドーモ、ミニットマン=サン。ニンジャスレイヤーです」風に乗って、ニンジャスレイヤーのアイサツが届く。ミニットマンは怒りに震える手を合わせ、アイサツを返した。「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。ミニットマンです」
2021-07-24 22:42:00再戦である。ニンジャスレイヤーがおそるべき手練れである事は身に染みてわかっている。この間合いで最も注意を要するのは、スリケンをガードさせておいての飛び蹴りだ。それさえやりすごせば勝機が見える。スリケンを撃ち落とし、飛び蹴りをブリッジで避けるのだ!
2021-07-24 22:45:00「イヤーッ!」....来る!ミニットマンは迎撃のスリケンを構えようとした。.....それで終わりだった。ミニットマンの目の前、息がかかるほどの近さに、ニンジャスレイヤーがいた。ミニットマンの胸の中心やや左寄りに、温かい感触があった。そんな。そんなばかな。
2021-07-24 22:48:00ーー戦いは一瞬で決着した。ニンジャスレイヤーがミニットマンの胸から右手を引き抜く。手の中でまだ蠢く心臓を無感動に一瞥したのち、彼はそれを握りつぶした。電車がカーブにさしかかる。ミニットマンが叫んだ。「バンザイ!」電車から振り落とされながら、彼の体は爆発四散した。
2021-07-24 22:51:00やがて、電車はブレーキを軋ませながら徐々に速度を落とす。ヤヌタ駅。物思いにふけっていたニンジャスレイヤーはその数百メートル手前で車輌から飛び降りた。壁面に取り付けられたハシゴを迷いなく見つけだし、それを伝ってマンホールから地上に出ると、そこは自然公園の只中だ。
2021-07-24 22:54:00ニンジャスレイヤーの頭上には赤い満月が浮かぶ。鎮守の森の奥、彼の歩みの先には、小さな堀で囲まれた庭園がある。ネオサイタマにはおよそ不釣り合いな、神秘と静寂が支配する空間だ。ニンジャスレイヤーはゆっくりと、おごそかに歩を進める......。
2021-07-24 22:57:00ああ、しかし、見よ!彼の背中を!そこに小さく張り付いた金属のカケラを....!爆発四散したミニットマンのカケラである。ホタルのように弱々しい明滅を繰り返すそれは、いったい何をニンジャスレイヤーにもたらそうと言うのか......?
2021-07-24 23:00:02それは、偶然であったろうか。それとも、ミニットマンの怨念か、執念か。金属片は微弱な信号を何者かに発信し続ける。そして我々は、信号を受信するその男を、知っている。上空70メートル、VTOLの上に直立し、左耳に手を当てるそのニンジャを......!
2021-07-24 23:03:00「目標を捕捉した」感情のこもらぬ呟き。それに答えるくぐもった通信。沈黙。再びニンジャは呟く。「いや、必要無い。900秒後に交戦を開始する」無線を切ると、ニンジャはVTOLの機上から、ゆらりと身を躍らせた。
2021-07-24 23:06:00自然公園めがけて垂直に落下するニンジャ......フジオ・カタクラ、またの名をダークニンジャは、死闘の予感に何を思うか、メンポの奥で、静かに目を細めるのだった。 (「メナス・オブ・ダークニンジャ」へつづく)
2021-07-24 23:09:002010年本放送版
(これまでのあらすじ) ソウカイ・ニンジャズの手練れ、ミニットマンとイクエイション。ニンジャスレイヤーを待ち伏せた二人のうち、イクエイションは真っ二つにされて絶命した。しかしミニットマンはパートナーの死と引き換えに、ニンジャスレイヤーの正体に迫るチャンスを掴んだのだ。
2010-07-24 19:54:05ぞっとするほど冷たいコンクリートの感触を全身で味わいながら、ミニットマンは十年前の「戦争」を思い出していた。
2010-07-24 19:56:24敵地の真っ只中で、彼の部隊は母体に裏切られた。トカゲのシッポのように、捨てられたのだ。生き残ったのは彼とイクエイションただ二人。あのときもこうして、冷たいコンクリートに身を横たえ、じっと待ち続けていた。そしていま、彼の横にイクエイションはいない。
2010-07-24 19:59:57ミニットマンの体を雨がしとどに濡らす。おお。おお、イクエイション。しかしこの雨は天の計らいだ。ニンジャに涙は許されぬのだから。ミニットマンは目を閉じた。脳裏に浮かび上がるのは、イクエイションの絶命の瞬間である。
2010-07-24 20:03:03