四の舟×おろし丸による 『スケッチブック リレー小説~ねぎくが 告白編~』

スケッチブックの知識必須。加えてカップリング妄想好き向け。根岸君と空閑さんのちょっぴりラブラブ話。
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四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko 「根岸ちゃん、今日部活でるの?」 その一言を私が言えたのは、お昼休みの時になってからだった。同じクラス―しかも席が隣同士なのだから、伝えるチャンスはいくらでもあったはずなのに、どうしても伝えられず、結局昼休みに言うことになってしまったのだ。

2011-08-19 22:55:44
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE 「ん?あー、それなんだけど…」最近根岸ちゃんは全然部活に顔を出していない。妹さんが風邪ひいたとか歯医者行かなきゃとか言ってるけど、スランプなのだと言う事は皆知っていた。

2011-08-19 22:58:45
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko 「…まだ、スランプなの?」 「げっ……。気づいてたのか」 「わかるわよ。みんな絵が完成し始めているのに、根岸ちゃんだけ一向に完成した様子がないんだもの」 「…そーなんだよな。学校飛び出していろいろ被写体を探しているんだが、どうもいいものがなくてなー」

2011-08-19 23:06:18
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE 私は知っている。根岸ちゃんが本当にいろんなものを見て、それを描こうとしては失敗し続けているのを。「あーあ、これじゃ展覧会間に合わねーよ……」「根岸ちゃん、別に突飛なものを描かなくても良いんじゃない?」「あ?」

2011-08-19 23:09:02
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko 「突飛なものを描こうと思うから、うまくいかないんじゃないかしら? あえて身近なものを描いて展覧会に出すのもありなんじゃない?」 「……ちなみに空閑はなにを描いたんだ?」 「私の部屋の室内灯」 「…なして?」 「あら、意外と室内灯って素敵なのよ?」

2011-08-19 23:13:52
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE 「俺からすればそっちのが突飛だよ」「そうかしら……」「それに静物画はなんとなく苦手なんだよ」「それなら人物画とか?」「それも良いな…」「…ねえ、根岸ちゃん。」「あ?」「私をモデルにしてみない?」  

2011-08-19 23:15:59
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko 「……は?」 根岸ちゃんが首をかしげた。「私をモデルにするのよ。どうかしら?」 「…なんで、空閑をモデルにするんだ?」 「昨日、空飛ぶ宅配便の映画を見ていて思いついたの」 「それでか……」 「でも、実際人物画は難しいけど、描き甲斐があると思うのだけど…」

2011-08-19 23:24:26
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE 「ま、それも悪くないかもな。んじゃ今日は久しぶりに美術室で活動するとしますかね」…意外とあっさり、根岸ちゃんは承諾した。どうしよう、これからどう彼を引き留めるか考えていたのに。

2011-08-19 23:26:09
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko 放課後。私と根岸ちゃんは美術室へと向かった。「今日、誰が来るんだろうなぁー」 「栗原さんやささっさんなんかはもう絵を完成させちゃったらしいから来ないかもしれないわ」 「なんにせよ、フルメンバーは揃わないか」 美術室の扉を開く。 そこには―誰もいなかった。

2011-08-19 23:32:09
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE 「ありゃ、誰もいないのか」「先生もいないのね…」「まあいいか、神谷とかいたら絶対からかわれんだろうからさっさとやるぞ」「ええ」「机くっつけるから手伝え」「はいはい」

2011-08-19 23:34:32
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko 机を片付けると、根岸ちゃんの位置から一メートルほど離れたところに椅子を置き、私が腰掛ける。根岸ちゃんが鉛筆を取り出し、スケッチブックを手に持つ。「こんな感じでどう?」 椅子に座ったまま私が聞くと、「オーケーだ。さっさか描くぞ」と、根岸ちゃんが返事をした。

2011-08-19 23:43:49
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE ただこうしてじっと座っているのも悪くないものだ。外では運動部の運動に励む声が聞こえてくる。それを聞きながら、ただじっと座っていた。と言っても視線を常に感じながらじっとすると言うのもなかなかどうして意外とむずがゆい。

2011-08-19 23:46:10
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko 目を動かして根岸ちゃんを見ると、すでに描き始めていた。根岸ちゃんの手によって、いまの私がスケッチブックに描かれている― 鉛筆を走らせ、一心に私を描く根岸ちゃんの姿は、普段遊んでばかりいる彼の姿からは想像もできないほど真剣で、真摯で、一生懸命なものだった。

2011-08-19 23:54:26
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE カチコチ、カチコチと時計が時を刻む音だけが聞こえてくる。その時間は妙にゆっくり感じられてが、その中においても根岸ちゃんが筆を進める速さだけは変わらなく感じられた。

2011-08-19 23:57:22
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko 私が根岸ちゃんを引き留めるために言ったモデルの提案が、まさか本当にやるとは思わなかったけれど、こうしていつになく真剣に絵を描く根岸ちゃんの姿を見れるなんて、うれしい誤算だった。こうしている間にも、絵を描く根岸ちゃんの姿は、いつになく素敵だった。

2011-08-20 00:06:37
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE いつしか西日がまぶしくなる時間が訪れてきていた。それでも一向に根岸ちゃんは筆を止めようとはしない。「ねえ、根岸ちゃん、あとどれくらいかかりそう?」「ん?ああ、7割ってところかな……こんなに早く描けるとは思ってもなかったぜ」

2011-08-20 00:08:39
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko 「よし……できたぞー」 根岸ちゃんがそう言ったのは、もうじき日が沈むころだった。すっかり体中がなまってしまった私は、椅子から立ち上がると伸びをして、根岸ちゃんへと近づいた。「どんな感じに描けたの?」

2011-08-20 00:15:59
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE そこに描かれていたのは、ごく普通の、何でもない私の絵だった。だけども私には、そこにいる私に奇妙な違和感を覚えてしまっていた。妙に絵の中の自分が、こちら側に視線を持ってきているのだ。

2011-08-20 00:19:30
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko 「なんか、自分の描かれた絵を見ると、不思議な気分ね…。なんか私に問いかけてきそう」 「お前が描いてもいいといったんじゃないか」 「そうなんだけどね…ところで…」 「んっ?」 「この絵、根岸ちゃんはなんて題名をつけるつもりなの?やっぱり、実名?」 「花」

2011-08-20 00:24:26
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE 「え?」予想外の言葉に、言葉を失う。「…何だよ、なんか変か?」「変…じゃないけど、なんで花?」「いや、ここ最近色々と描いてたんだけどよ、どれもしっくりこなくて…でも花を描いてる時だけはそれっぽい感じになってたんだ。そんで空閑を描いてた時もそうだったんだ」

2011-08-20 00:27:22
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko 「それによ……あー、なんだそのな……」 「?」 「夕日に照らされた空閑が、なんかこう、花に見えたような気がしてな。描いてる途中で『題名は花で決まりだな』とか思ってたんだよ……」 「……根岸ちゃん」 「な、なんだよっ」 「意外とロマンチストなのね」

2011-08-20 00:35:38
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE 「…悪かったな。さ、帰るぞ。」そう言って根岸ちゃんは、固めた机を元に戻し始めた。それを手伝おうと思い手を出したのだが、その手が偶然根岸ちゃんの手に重なってしまった。

2011-08-20 00:36:10
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko 「あっ…」 「あ…」 手が重なって、私も根岸ちゃんも一瞬固まってしまった。「ご、ごめんなさいっ…!」 「いや、まあ、気にすんな…」 即座に離れ、お互い少し距離をとった。 沈黙が流れる。 「か、片付けるぞ……」 「え、ええっ……」 お互い机を動かし始めた。

2011-08-20 00:50:05
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE 何故だろう。どきどきが止まらない。つい昨日までは普段通りの付き合いをしていた相手なのに、なぜか今日の、嫌今現在の根岸ちゃんからは普段とは違う凛々しさというか格好よさというか、そういうものが伝わってくる

2011-08-20 00:52:02
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko 「ね、根岸ちゃん!」 思わず、言葉が口から出た。「な、なんだ!?」 「あ、あのね、えっと……」 何かを言わなければいけないと思いながらも、そこから言葉がつながらない。口をついて出たのは、自虐的な文言だった。「は、『花』なんて題名、私には似合わないわよ…」

2011-08-20 00:56:05