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#今日の構造式 3(201-300)

佐藤健太郎先生による「今日の構造式」をまとめましたが、たくさんあるので100ずつに分けることにしました。 こちらでは201-300をまとめました。
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佐藤健太郎 @KentaroSato

DNAの中ではチミンと、RNAではウラシルとペアを組んで、二重らせん骨格を形成します。核酸塩基対は何度見てもよくできてるなあと感心してしまう構造で、これがなければ人類どころか全生命は存在しませんでした。ではいったい、アデニンはどこから地球上に現れて、生命の素材になったのでしょうか? pic.twitter.com/jDu4zIZGaT

2021-06-03 21:32:43
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佐藤健太郎 @KentaroSato

アデニンの分子式はC₅H₅N₅で、ちょうどシアン化水素HCNの5倍です。実は、シアン化水素をアンモニアと共に加熱すると、かなり高い効率でアデニンができてくるのです。原始の地球上で、火山ガスに含まれるシアン化水素が原料となってアデニンができ、やがてそれが生命の素になったと思われます。 pic.twitter.com/HIkxbNdmVA

2021-06-03 21:33:37
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佐藤健太郎 @KentaroSato

#今日の構造式 206 以前ニトログリセリンの回で述べた通り、ニトロ基(-NO₂)をたくさん持つ化合物は爆発性を示します。フェノールにニトロ基が3つ結合したピクリン酸も、当然強力な爆発力を持ちます。ただしこの化合物は強酸性であるため鉄を腐食してしまい、爆薬としては使いづらいものでした。 pic.twitter.com/Nl9q6Fuagb

2021-06-04 22:41:24
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佐藤健太郎 @KentaroSato

海軍技師であった下瀬雅允は、鉄の砲弾の内側に漆を塗った上でピクリン酸を注入することでこの問題を解決しました。この下瀬火薬は日露戦争における日本海海戦でその威力を発揮し、歴史的大勝をもたらします。日本の運命を決定づけた日本海海戦の勝利は、日本の技術の勝利でもあったといえます。

2021-06-04 22:41:53
佐藤健太郎 @KentaroSato

ただし、ピクリン酸の腐食性という弱点はその後も問題となり、結局トリニトロトルエン(TNT)に取って代わられることになりました。今でも核兵器の性能を「TNT爆薬○トン分」として表現するなど、代表的な爆薬の一つです。爆薬の研究はどこか人を魅了するもののようで、その歴史は非常に面白いです。 pic.twitter.com/V5svJQK3U3

2021-06-04 22:42:11
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Stray @K9FCR

@KentaroSato 病理屋です。学生時代にニワトリの羽髄組織を観るのにブアンという固定液を使っていましたが、自分で調製していたのでピクリン酸はよく覚えています。染色系列やパラフィンが黄色になります。 組織固定用試薬 | Bouin's Fixative (ブアン液) | フナコシ funakoshi.co.jp/contents/68708

2021-06-05 00:34:42
佐藤健太郎 @KentaroSato

@K9FCR なるほど、そいう使いみちがあるんですね。ニトロ基のついた化合物は、黄色く着色していることが多いです。

2021-06-05 00:41:07
Stray @K9FCR

@KentaroSato ですよね。それもショッキング・イエローというか、なかなか派手な色合いでした。 関係ないかも知れませんが、昔、流行ったピクミンという黄色のゲームキャラは、ピクリン酸由来の命名か?と勝手に思ってました。

2021-06-05 00:45:38
佐藤健太郎 @KentaroSato

@K9FCR 僕はトリニトロ化合物は扱ったことがないのですが、確かに発色は強烈そうです。ピクミンは……確かに関係あるかもしれませんね(笑)。

2021-06-05 01:40:27
佐藤健太郎 @KentaroSato

ちなみにこいつらは名前だけ似てるけど構造的には何の関係もない、紛らわしい酸四天王だ!覚えておこうな! pic.twitter.com/oe3tbRDJD6

2021-06-05 00:23:57
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佐藤健太郎 @KentaroSato

#今日の構造式 207 昨日、紛らわしい名前の化合物の話をちょっとツイートしましたが、今日もその流れで。「お前その名前でその元素含んでないんかい」シリーズをやってみます。以前、塩素を含んでないくせにクロロゲン酸という化合物を取り上げましたが、そんな感じのやつです。

2021-06-05 23:44:57
佐藤健太郎 @KentaroSato

テオブロミン(theobromine)という名ですが、臭素(bromine)は含んでいません。カフェインのメチル基が一つ取れた形です。こちらはカカオに含まれる化合物で、学名「テオブロマ」(「神々の食べ物」を意味する)に由来する名称です。犬などがチョコを耐えると中毒を起こしますが、その原因の一つ。 pic.twitter.com/mzGtO8EPLV

2021-06-05 23:45:39
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佐藤健太郎 @KentaroSato

こちらはフルオレン(fluorene)。よく似た名のフッ素(fluorine)を含まず、直接の関係はありません。紫外線を当てると蛍光(fluorescent)を発することからの命名です。フッ素の方は、蛍光を発する鉱物である蛍石(fluorite)から得られたための命名。化合物としては無関係ですが、語源は同じ。 pic.twitter.com/TlF4CNbBHv

2021-06-05 23:47:08
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佐藤健太郎 @KentaroSato

図のような骨格をクロマン(chromane)といいますが、これもクロム(chromium)は含みません。クロムは化合物が多彩な色を発することから、ギリシャ語で「色」を意味する「chroma」から名付けられました。またクロマンは、植物の色素にこの骨格を持つものが多いことから来ており、これも語源は同じ。 pic.twitter.com/jOYibnuJra

2021-06-05 23:48:12
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佐藤健太郎 @KentaroSato

補足すると、蛍石は製鉄の際に融剤として用いられたことから、ラテン語の「流れる」(fluo)から命名されています。fluoriteが示す発光現象がfluorescenceと名付けられ、そこからフルオレンの名ができた、という流れです。 twitter.com/KentaroSato/st…

2021-06-06 00:04:10
佐藤健太郎 @KentaroSato

#今日の構造式 208 パクリタキセル。米国の大規模抗がん剤探索PJにより、セイヨウイチイの樹皮から1966年に発見されました。ただしこの木は樹皮を剥ぐと枯れてしまうこと、成長が非常に遅いことから、供給が難しいという問題がありました。そこで世界のトップ化学者が、この合成に乗り出したのです。 pic.twitter.com/LtpLGPRDSX

2021-06-06 23:09:03
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佐藤健太郎 @KentaroSato

パクリタキセルは非常に歪んだ骨格、多くの複雑な官能基を持ち、合成屋としては腕が鳴る標的でした。壮烈なレースの末、ゴール直前で第一人者ニコラウを差し切り、初の合成を果たしたのはホールトンらのグループでした。天然物全合成というジャンルが絶頂に達した、歴史的な合成競争だったといえます。

2021-06-06 23:09:21
佐藤健太郎 @KentaroSato

このレースは筆者自身が所属した研究室も参戦していたので、個人的にも非常に思い出深いものです。2020年には、現代の第一人者であるバランらが、ツーフェイズ合成という彼ら独自のスタイルでの全合成を完成させました。半世紀にも及んだパクリタキセルの物語が、ここに完結した感を覚えます。

2021-06-06 23:10:15
佐藤健太郎 @KentaroSato

パクリタキセルは乳がんなどに対する抗がん剤として発売され、年間3千億円を売り上げるベストセラーとなりました。その供給は、こうした全合成は生かされず、イチイの葉から得られる化合物(図)を変換する「半合成」によっています。ホールトン教授はこの特許でずいぶん稼いだとも漏れ聞きます。 pic.twitter.com/ZysKBciHBJ

2021-06-06 23:10:37
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佐藤健太郎 @KentaroSato

#今日の構造式 209 ラウリン酸ナトリウム。石鹸の主成分です。脂肪は、長い炭素鎖のついたカルボン酸(脂肪酸)が3本、グリセリンと結びついた化合物です。これをアルカリで加水分解して得られるのが、いわゆる石鹸です。炭素鎖の長さはいろいろですが、12個くらいが最も優れた洗浄性を示します。 pic.twitter.com/dJXqhqIcKu

2021-06-07 21:45:16
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佐藤健太郎 @KentaroSato

石鹸となる化合物は、油になじみやすい長い炭素鎖部分と、水になじみやすいカルボン酸塩部分から成ります。石鹸の分子を水に溶かすと、この親油基を内側に、親水基を外側に持ったボール状の塊(ミセル)になります。油汚れはこの内側に取り込まれ、水中に溶け出します。これが石鹸での洗浄の原理。 pic.twitter.com/TbGlhmYYA2

2021-06-07 21:45:39
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佐藤健太郎 @KentaroSato

古代ローマでは、羊を焼いた時の脂と灰によってできた石鹸が洗濯に使えることが知られていました。シュメールの粘土板にもそれらしき記述があるなど、古くから活用されてきたようです。そして今回のコロナ禍では、その実力が改めて見直されました。石鹸は今も昔も変わらぬ、頼れる人類の友です。

2021-06-07 21:46:06
佐藤健太郎 @KentaroSato

(ミセルの画像はウィキペディアからお借りしましたが、アップで見るとなかなかキモいですね……) ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9F%B3…

2021-06-07 21:48:48
佐藤健太郎 @KentaroSato

#今日の構造式 210 ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)。昨日のラウリン酸ナトリウムのカルボン酸部分を、硫酸基に置き換えた構造です。ラウリン酸とは違い天然には存在せず、1930年代にドイツで合成されて使われるようになりました。ミセルを形成し、油汚れを包み込んで洗い流すという仕組みは同じです。 pic.twitter.com/a7duTFOytp

2021-06-08 23:46:39
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佐藤健太郎 @KentaroSato

SLSは効果的な界面活性剤で、泡立ちも洗浄力も優れています。このため洗剤、シャンプー、歯磨き粉、床や車の洗浄、医薬品のカプセルや添加物など、あらゆる分野で使われます。一時期、発がん性があるのではと騒がれましたが、その後のさまざまな調査でも、がんを引き起こす証拠は見つかっていません。

2021-06-08 23:46:55
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