國學院大學博物館特別展「『日本書紀』撰録1300年―神と人とを結ぶ書物―」を楽しむために

『日本書紀』の展示会(なんと、無料)を楽しむための解説。偏ってます。
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植田麦ゼミ @baku_semi

國學院大學の博物館で展示を見てきました。渡邉先生にも無理を言って、展示の解説をしていただきました。(B) twitter.com/Kokugakuin_Mus…

2021-10-06 21:30:28
國學院大學博物館 @Kokugakuin_Muse

本日、特別展「『日本書紀』撰録1300年―神と人とを結ぶ書物―」の #オンラインミュージアム が公開となりました! コチラからご覧いただけます☆ ↓↓ youtu.be/CYmxHH7Z3kc #日本書紀 #日本書紀1300年 pic.twitter.com/XtFdETJlGt

2021-10-02 12:30:00
植田麦ゼミ @baku_semi

1.國學院大學博物館 @Kokugakuin_Muse で展示中の特別展「『日本書紀』撰録1300年―神と人とを結ぶ書物―」を見てきました。無料でここまでの展示ができるのは、國學院か皇學館か天理大学附属天理図書館か。(B)

2021-10-06 22:48:50
植田麦ゼミ @baku_semi

2.とはいえ、『日本書紀』についての知識がないと、貴重な資料がいっぱい並んでいたとて、面白さが伝わらないような気もします。なので、なるべくやさしく、この展示を楽しむための(偏った)予備知識をお伝えします。

2021-10-06 22:48:51
植田麦ゼミ @baku_semi

3.まず、展示されている『日本書紀』について。名前くらいは知っているひとも多いかと思いますが、この書物ができたのは720年のこと。全30巻という、書くのも読むのも辛い分量です。できた当時は系図1巻もあったようですが、いまはありません。

2021-10-06 22:48:51
植田麦ゼミ @baku_semi

4.今回の展示に出されているのは、「古本(こほん)系」のものと「卜部(うらべ)系」のものです。「古本系」は720年に書かれたものに近いスタイルで、「卜部系」は卜部家のひとが改編したスタイルのものです。ですが、内容としては必ずしも「古本系」が720年に書かれたものに近いわけでもありません

2021-10-06 22:48:51
植田麦ゼミ @baku_semi

5.展示で「古本系」と「卜部系」を確認してください。正文に続いて一書が小書になっているのが「古本系」、一書が一段下げで正文と同じ文字サイズで続いているのが「卜部系」です。

2021-10-06 22:48:52
植田麦ゼミ @baku_semi

※「古本系」……国立公文書館蔵『類聚国史』巻第一  「卜部系」……国会図書館デジタルコレクション『日本書紀』巻第一 pic.twitter.com/4Y9V8A5nfU

2021-10-06 22:48:53
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植田麦ゼミ @baku_semi

6.展示されている「古本系」の中でも、個人的に最も面白いのが三嶋本です。これは、大部分を静岡県の三嶋大社が、一部を國學院大學が所蔵しています。実は100年前にも『日本書紀』の展覧会が行われているのですが、その際は三嶋大社が全てを所蔵していました。

2021-10-06 22:48:54
植田麦ゼミ @baku_semi

(この100年の間のどこかで、誰かが一部を流出させてしまったのです)

2021-10-06 22:48:54
植田麦ゼミ @baku_semi

7.どうして流出したのか?どうして國學院がそれを持っているのか?そのあたりの経緯は本展覧会の図録に説明されているので、ぜひご確認ください。より詳しく知りたい場合は、『影印三嶋本日本書紀』の解題をご確認ください。

2021-10-06 22:48:55
植田麦ゼミ @baku_semi

8.数年前にこの本の調査に行ったのですが、そのときに同行してくれたのが、youtube.com/watch?v=CYmxHH… で解説をしている渡邉先生です。本もすばらしかったのですが、鰻の味が忘れられません。

2021-10-06 22:48:55
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植田麦ゼミ @baku_semi

9.その他の「古本系」では、熱田本が面白いです。展示をみればわかりますが、この本は裏側にも文字が書かれています。裏側は和歌とのこと。このように、紙の両側に別の内容の書かれた書物は珍しくありません。

2021-10-06 22:48:55
植田麦ゼミ @baku_semi

10.この2点の資料に共通するのは、どちらも書いたのがお坊さんであることです。この当時、神道と仏教の垣根は低く、僧侶が『日本書紀』を学ぶこともありました。

2021-10-06 22:48:56
植田麦ゼミ @baku_semi

11.今回の展示でも少し触れられていますが、神道関係の資料である『中臣祓』という書物があって、なぜかこの書物の注釈を真言宗の開祖である空海がしている……という話があります。実際にはしてませんが、そう信じられていました。

2021-10-06 22:48:56
植田麦ゼミ @baku_semi

12.現代のわたしたちにはなかなか理解しがたいのですが、かつては仏教の思想と神道の思想はかなり混ざり合っていて、分離できないのです。そういった仏教・神道の結節点としても、『日本書紀』はあります。

2021-10-06 22:48:56
植田麦ゼミ @baku_semi

13.その他の展示物で興味深いのは、『日本書紀』の研究書『信西日本紀鈔』です。「信西」は人名です。日本史好きのひとならご存じかと思いますが、平安時代末期、保元・平治の乱の中心人物であったひとです。

2021-10-06 22:48:57
植田麦ゼミ @baku_semi

14.やり手の政治家でもあった信西は、一方で優れた学者でもありました。この『信西日本紀鈔』は、彼の学識の一端を示すものです。とはいえ、彼も趣味で『日本書紀』を研究していたのではありません。それが政治に役立つと考えてのことでした。

2021-10-06 22:48:57
植田麦ゼミ @baku_semi

15.ここまで写本ばかりを紹介しましたが、印刷物にも大名物があります。活字本の『日本書紀』です。江戸時代の印刷物の大半は整版、つまり1枚の版木に印刷するものをすべて彫るものです。しかし、室町時代の再末期には、後陽成天皇の命で活字による『日本書紀』が印刷されました。

2021-10-06 22:48:58
植田麦ゼミ @baku_semi

16.「活字なんだから、大量生産できたんでしょ?」と思われるかもしれません。が、この時代の活字本が数が少なく、現在もほとんど流通しません。ごくまれに古書市に出ますが、わたしなどには手に入らない値段がつきます。都内のちょっとしたマンションと同じくらいの場合すら。

2021-10-06 22:48:58
植田麦ゼミ @baku_semi

17.このように、1つ1つの展示にはバックストーリーがあります。図録を手にしながら、展示物のもつ物語も楽しんでください。いい展示会ですよ。

2021-10-06 22:48:58