【坂道のワルツ】福間健二 #k2fact308

10月1日から10日まで。最後の10月10日が二人の友人の命日であることを思っていたら、「命日のワルツ」という題が浮かんだ。それが「坂道のワルツ」になったのは、はっきりとそれだということに行くまでの軽さと過程を通りぬけたかったからかな。すべて理由はあってないようなものだが、指、母親、重さなど、簡単には逃げにくいものを登場させてしまった。 音楽は、10でたどりついたシベリウスの「悲しみのワルツ」。トゥルク・フィルハーモニー管弦楽団/ヨルマ・パヌラ(指揮者)。 https://www.youtube.com/watch?v=JFeUfTHMJ5w
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福間健二 @acasaazul

金木犀の香りに感謝しながら息をして、薬指、塗る指は若い母親の指で、中指は押す指。あるいは引きよせる。屋上のテーブルに木星とアンドロメダ。なにか食べる前にきょうだれに会ったか言えばいいのに。同じ方角を見る彼女とぼくは苦しみがちがう。台風が近づいている。(坂道のワルツ1)#k2fact308

2021-10-01 10:22:47
福間健二 @acasaazul

秋の色に囲まれるぼくは燃えにくい。経験のない母親と一緒に聞き耳を立てた壁のむこうの足音と洪水を思い出す。知りたい秘密、なんだったろう。なくても、ナイフの不安。いまはあまり人の通らない地面に描かれた図形と名前から。自分は正しい。それがさらにぐらついて。(坂道のワルツ2)#k2fact308

2021-10-02 13:38:19
福間健二 @acasaazul

壁。だれもナイフを投げない。動きまわるアリたち。台風は去った。被害を免れた鍋でなにか煮えている。窓をあけたほうがいい。一生に一冊。お母さん、あなたのその本のために。さようなら、ぼくは具体的な物の重さを測る。背表紙のとれたゴダール全集4は五八〇グラムだ。(坂道のワルツ3)#k2fact308

2021-10-03 10:32:40
福間健二 @acasaazul

背表紙のとれたゴダール全集4。 pic.twitter.com/Don3ijpzQn

2021-10-03 11:29:28
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福間健二 @acasaazul

知らないあいだに切れていた。血のとまったあとも痛みが残る指にかけていい重さ、何グラムだろう。もう石鹸の匂いがする影のやさしさに甘えられなくても、心臓の重さは二五〇グラムくらい。川で死んだ子どもを飲む月夜は、関節が鳴る。わからないことを少なくしたいのだ。(坂道のワルツ4)#k2fact308

2021-10-04 13:30:44
福間健二 @acasaazul

川で死ぬ。スペードの女王の、気をつかいすぎる息子になる。隠し場所から隠し場所へ。分散は得意じゃなくて、縫合用の糸をつむぐ。そんな夢ばかり見てはいけない。体をあたためる野菜、水分の少ない野菜をとる必要がある。だから、秋。やっとここまで。来たかった坂道だ。(坂道のワルツ5)#k2fact308

2021-10-05 09:21:49
福間健二 @acasaazul

誤解しないように小さな花を星にする。気づくのに時間がかかり、あるとわかったら次々。野菜売り場を曲がった先の性急な抱擁が決定した最新の傷が乾くまで。ふるえて労働はどうするのだったか。事実をチェックする。ネコでもタヌキでもなくテンが目の前を横切っていった。(坂道のワルツ6)#k2fact308

2021-10-06 11:44:19
福間健二 @acasaazul

ご飯のスイッチ入れるね。天使の声がして、空腹とともに行方不明だった男が不意に現れた。ちょうど正午。意見は言わないことにする。集会は終わりだ。彼が合図だけで透きとおる途中の虫たちを解散させるのを見た。ショパンのワルツが聴こえる。アシュケナージのピアノだ。(坂道のワルツ7)#k2fact308

2021-10-07 14:05:18
福間健二 @acasaazul

ぼくの、秋の、何に。ワルツじゃないけど、三拍子。登ってきた坂を降りていく彼は耐えてくれているのか。重さなどないはずなのに、うしろ重心、前に荷重。きれいだ。弾きなさい。ショパンは言った。何千人もの人に聴かせるようにではなく、ただ一人の人に聴かせるために。(坂道のワルツ8)#k2fact308

2021-10-08 12:06:01
福間健二 @acasaazul

自信のないお母さんたちのために。白、あっていいのかって位置に見え隠れさせて強気の人の背中に「オーイ」と声をかけたら、怒られたかと思ってヒヤリとしたそうだよ。虫もひっくりかえったらおしまいかな。これを四拍子でやる。子どもたちの夜をどう縫うのかは針が知る。(坂道のワルツ9)#k2fact308

2021-10-09 11:48:39
福間健二 @acasaazul

金木犀、今年は二度咲き。でも、わかってもらいたい坂道ともう隠し場所がない傷は別なのだ。十月十日、物語で悪人が改心すると子どもみたいに涙がこらえられなくなって隠れようとした二人、ヤスシくんとトノムラの命日。昼から飲みたくなるきょうのワルツは、シベリウス。(坂道のワルツ10)#k2fact308

2021-10-10 09:41:29