- mocharn3rd
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ロドス食堂。 「ごちそうさまでした!」 筋骨隆々の男が食器を洗い場に出した。 食堂の熊耳少女、グムは 「キー坊、今日も元気だねー、どこからそんな力が出るんだか」 と言いながら調理しまくっていた。
2021-10-19 16:01:57「グムちゃん!」 熹一はグムを認めた。 「ワシがグムちゃんくらいの時はお腹弱くて全然メシ食えなかったんや~」 熹一が港にあがったタコみたいなポーズをとる。 「えっ ええっ」
2021-10-19 16:02:09うろたえたグムに 「今は元気でグムちゃんのメシも食えるで! 今日もありがとな!」 シャキッとした背筋を伸ばした姿で返事して走っていった。 「こんな食べてくれるんだね~」 熹一の皿は他のオペレーターよりも多かった。 グムは笑顔で次の注文に備えて行動した。
2021-10-19 16:02:19ロドスの通路をジョギング気味に走りながら熹一は行く。 "ここは、製薬会社とは名をうっとるが、ワシがもといた世界よりもより強くダーティな会社や" ふだんならロードワークではボクシングの真似もするが、今は控えている。 "傭兵会社みたいな真似もしとるし、妙な取引もしとる"
2021-10-19 16:02:45足を止めて、頭を振る。 "鬼龍ならこんなのさっさと掌握できるんやろけどな、中途半端に知恵つけたワシじゃ無理や" そこに、ドクターと出会う。 「おっドクター!」 「こんにちはキー坊、これからどこかへ?」
2021-10-19 16:02:59お互いに手を高く上げてタッチする。 「メシ食った後なんで少し休憩してから訓練の予定や。ドクターは?」 「メシ食ってからすぐ書類整理だよ。肩が凝って困るね」 「ふーん……なんならワシちょっとマッサージの心得もあるし、ドクターさえよければやったろか?」
2021-10-19 16:03:12熹一の提案をやんわりと断る。 「いや、いいよ。キー坊は訓練に集中してくれ」 「そっか、ならええわ。またな」 「ああ、また」
2021-10-19 16:03:19訓練室に到着した熹一は、その隅であぐらをかいて精神を整える。 他のオペレーターは熹一がこうしていると全然反応しないので慣れたものだった。 数十分してから、熹一はおもむろにストレッチを開始する。これも他のオペレータからしたら慣れたものだった。
2021-10-19 16:03:31ボ ボ パン 空気と得物と布、筋肉が動く音が訓練室を占めている。 (スプラト博士がこの世界にワシを飛ばした理由なら、博士か関係者が見つかるように動く) (そのためのミッションなり情報がつかめるような立場になる)
2021-10-19 16:03:50べたりと床に両足をついて、その角度を開いて、胴体を前に倒していった。 近くを寄った童女がびくん! と跳ねた。 「きき熹一さん、それ痛くないんですか?」 「スズランちゃん」
2021-10-19 16:04:02しっぽがたくさんある狐っぽい少女に熹一は答える。 「いやー最初の頃はスゲー痛かったで。痛い痛いっていってもおとんが許してくれんくてな」 ケラケラと笑う。 「へえぇ~」 「スズランちゃんもやってるうちに慣れるで。ワシみたいに前衛に出るわけやないからすぐ必要ってわけじゃないやろけどな
2021-10-19 16:04:21「うーん、でも熹一さんみたいに自分の体を自在に動かせるのって憧れます」 首をかしげるスズラン。 「自在っていうのはああいうのを言うんやで」 少し遠く離れた位置を熹一は指さした。
2021-10-19 16:04:40そこにはヨガの難解なポーズをとる尼がいる。 「さ、サガさんほどまではちょっと……」 「せやな」 「まあ、スズランちゃんは先があるし、腰を据えて鍛錬するとええわ」 熹一はスズランの頭を撫でる。 「先……」
2021-10-19 16:04:52少しつまづくような声に対して、熹一は笑った。 「おとんも言っとったわ、死ぬまで修業や、ってな!」 言ってない。勝手に父親の威光を借りた。 「……はい!」 スズランはつられて笑うと、駆け足でサガの方へと向かった。 初心者用っぽいヨガのポーズを二人でやっている。
2021-10-19 16:05:04このころになると熹一は非感染者と感染者の別を知るようになってきた。 前衛オペレーターとして働く日々において、感染者対策は必須。 座学と実習、実戦、そしてロドス以外で動く時にも学んだ。
2021-10-19 16:05:17源石(オリジニウム)。 この世界において莫大なエネルギー源でありながら、人々を蝕むもの。 さまざまな機械や装置に使われており、またこの世界ならではの異能(アーツ)の原動力にもなるが、ひとたび人間に流れると痛みや病の元となる。
2021-10-19 16:05:25「まるで●やな」 と言った言葉を、アーミヤは聞こえなかったようで、ドクターとケルシーは聞こえた上で無視したようだった。 「●●力」 と別の言葉で言い直しても、アーミヤは首をかしげ、ドクターとケルシーは真顔で熹一を見ていた。それから熹一はその先を言うのをやめた。
2021-10-19 16:05:34「イカの干物みたいになってますけど、大丈夫ですか?」 べったりと上体を床に倒して考え事をしていた熹一に、上から声がかかった。 「フェン」 熹一は見上げた。そこには平均的日本人女性に近い体型の女性が、訓練用の槍を持っていた。
2021-10-19 16:05:43「どうです、いつもの、やりますか?」 「お願いするわ」 訓練室の中でもひらけた一角に移動すると、互いに構える。 号令もなにもなくいきなり始まる。フェンの槍が熹一を狙い、熹一はそれをかわす。
2021-10-19 16:05:53上下中上中下と、そこかしこに撃つフェンの突きをかわす。 (親父ほどの体格もないのにここまでの突き……!) 熹一がテラに来てから真っ先に学んだのは、さまざまな種族による独特の力であった。
2021-10-19 16:06:02同じ体格の人間でも力が全然違ったり、反応速度が違ったりする。 はたまた、一般人のように見えてもアーツの力で奇想天外な事を起こす。 対銃撃戦や対アーツ戦はともかくとして、近接戦闘で地球と同じ常識で動いていては、せっかくの灘神影流も生かせないと感じた。
2021-10-19 16:06:11百発ほどした後に、二人とも壁際で休憩した。 ミネラルウォーターを飲む。 「はぁ……熹一さん、最近いい調子ですよ」 「ええっ、ナイストレーナー?! 肩に重機乗ってるのかいみたいな?」 「いやそういうのじゃなくて……何回かに一回、本気で撃つって話してたじゃないですか」
2021-10-19 16:06:31「ああうん、もしかして……」 「ここ最近は何回とか関係なく3割くらい本気ですよ」 「ヒャッホー……って、3割?」 「熹一さんも本気を出すなら別ですけど」 訓練のときは「コントロールできること」を指して「お互い本気」だ。 ここでいうフェンが言う「本気」は違う。
2021-10-19 16:06:43「医療班はただでさえ忙しいから、そういう訓練はできんやろ」 熹一もフェンにならって、真剣な声で答えた。 3秒ほど熹一を見つめて、フェンは雰囲気を解いた。 「わかってましたよ。でも、あなたとはもっと高めあいたいです」
2021-10-19 16:06:55