【R-18】アップルパイとシガーなキス

深海さかな @dzurablk_kai

猛獣のような目付きと息遣いでこれから牙にかける獲物を見下ろしている。 「今度はちゃんと優しく…って、これじゃ無理か」 観念して苦笑いを零すエクシアの隣で、床に転がった缶からはビールが溢れ、絨毯に染みを広げている。 ＃突発アークナイツSS

深海さかな @dzurablk_kai

きっとこの絨毯は買い換えることになるんだろうな。横目でそれを見ていたエクシアの視界はテキサスの黒髪に覆われ、やがて何も見えなくなった。 ＃突発アークナイツSS

深海さかな @dzurablk_kai

「ねえテキサス」 「なんだ」 翌朝、ロドスに戻る車中での会話は、昨晩の情事などまるで無かったかのような平常運転だった。 「一本ちょうだい」 「…昨日食べてたので最後だ」 ひらひらと手を揺らして菓子をねだるエクシアを横目に、テキサスが不機嫌そうな声を漏らす。 ＃突発アークナイツSS

深海さかな @dzurablk_kai

「あ、だから口寂しかったんだー」 「う、うるさい！」 心なしか紅潮した頬でタバコを咥えライターを擦るテキサス。するとエクシアはすかさずそれを奪い取って咥えた。 「お、おい…」 テキサスが止める間もなく、初めての紫煙を胸いっぱいに吸い込んで激しくむせ返るエクシア。 ＃突発アークナイツSS

深海さかな @dzurablk_kai

「うへぇー、こんなに美味しくないのを毎日吸ってるんだね、テキサスは」 「馬鹿。吸い方も知らないでいきなりこんなに強いのを吸うからだ」 エクシアの手から吸いさしのボヘームを奪い取ると、躊躇無く自らの口に運ぶテキサス。 ＃突発アークナイツSS

深海さかな @dzurablk_kai

テキサスがエクシアの前でだけ見せる、人差し指と中指の付け根で紙巻タバコを挟むように持ちながら、手のひら全体で口元を覆ってタバコを吸う様は、やっぱり様になる。そんなテキサスへの憧れが無かったと言えば嘘になる。 ＃突発アークナイツSS

深海さかな @dzurablk_kai

本当はボヘームなんていう悪魔みたいな名前のタバコには、手を出すべきではないのだろうけれど。でも夕べ先に手を出してきたのはテキサスの方なんだから、罪の所在は副流煙でもたらされる肺がんのリスク同様に折半だ。 ＃突発アークナイツSS

深海さかな @dzurablk_kai

「いやぁ、昨日テキサスとのキスで風味がわかったからさ。私にも吸えるのかなーって」 今度はテキサスがむせる番だった。 「そ、それにしたってやり方ってものがあるんだ」 「じゃあその初めてを私にも教えてよ、昨日みたいにさ」 「馬鹿！」 ＃突発アークナイツSS

深海さかな @dzurablk_kai

あっけらかんと笑う助手席を他所に、テキサスは紫煙を窓の外に吐くふりをして拗ねたように顔を背けてしまった。 窓の外に広がる龍門の街並みは連日の暴動騒ぎで人気は無い。そんな寂れた街にあって、帰るべき場所があるのは幸せなことだ。 ＃突発アークナイツSS

深海さかな @dzurablk_kai

テキサスは無意識にそんなことを考えていた。 帰る場所、談笑、誰かとの食事。その中心にはいつも決まって、エクシアがいる。その感謝の意くらいは、たまには示してやったって罰は当たらないだろう。 「エクシア」 車が信号に引っかかるのを見計らって、テキサスは声を掛けた。 ＃突発アークナイツSS

深海さかな @dzurablk_kai

「ん？　なに？」 相変わらず交差点に人通りは無く、忙しく行き交う軍用車の運転手も誰もこちらに注意は向けそうにない。 テキサスはタバコの最後の一口を薄く口に含むと、エクシアの首を抱き寄せて唇を重ねた。2人の間を行き交う吐息。エクシアは今度はむせることはなかった。 ＃突発アークナイツSS

深海さかな @dzurablk_kai

「…これなら吸えるかも」 「こ、これが最初で最後だからな！！」 真っ赤な顔でタバコを窓から捨てるテキサスとは対照的に、エクシアは満面の笑みだった。 「タバコよりももっと大変なものに依存しちゃうかもねー？」 「…もうしてるんじゃないのか」 ＃突発アークナイツSS

深海さかな @dzurablk_kai

「どっちがー？」 「ど、どっちだっていいだろ！」 テキサスが荒々しくアクセルを踏み込み、やがて車内の紫煙は外へと吹き流されていく。だが2人の口元に残る風味は、未だ色褪せてはいない。 ＃突発アークナイツSS

深海さかな @dzurablk_kai

初めて交わした変則的なシガーキスは、アップルパイのように甘い味がした。 ＃突発アークナイツSS

深海さかな @dzurablk_kai

了 ＃突発アークナイツSS