田中さんご確認用 タワマン文学大賞

ヘタレ社長 @hetare808ceo

娘は言った。「もうこのマンションには住みたくないの」衝撃の一言だった。 父である賢二（仮名）は兼ねてから憧れていたタワマン最上階に住み、地上への入口、1階のエレベーターのボタンを最上階の民として1番最初に押すのが毎朝の恒例行事だ。 #タワマン文学大賞

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最上階から地上へ降りるまでに2～5回は下層階の民を乗せる為に仕方なくエレベーターが停止される。これが毎日だとストレスに感じそうに思う人もいるかもしれないが、高層最上階の天上人としては苦になることはない。 #タワマン文学大賞

ヘタレ社長 @hetare808ceo

むしろエレベーターの角をキープして高層最上階の天上人として余裕綽々の屈託のない笑顔で毎朝会釈するのだ。エレベーター降下に２分ほどかかることがあっても、タワマン最上階に住んでいる高揚感は一向に衰えることがないのだ。 #タワマン文学大賞

ヘタレ社長 @hetare808ceo

小学校への送迎は毎日スクールバスが来る。タワマン近くから乗車する子の殆どがタワマンキッズだ。学校は7時限目まであり学校が終わるとさらにそこから進学塾が待っている。進学塾の生徒の3分の1は同じタワマンのタワマンキッズ達が占める。 #タワマン文学大賞

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そんなタワマンキッズの親達は互いの住む階数を把握はしているが、賢二のタワマンでは階数マウントを取る人はおらずタワマン民の品が良い。そりゃそうだ。賢二は倍率50倍を超える千代田区の超人気タワマンを手にしたのだから。 #タワマン文学大賞

ヘタレ社長 @hetare808ceo

あとは子供を名門大学にさえ送り出せば親としての使命は終わる。子供には親を越えて欲しい。そんな賢二の完璧なシナリオが娘の衝撃の一言で崩れたのだ。賢二は「どうして？」を繰り返した。娘は暫く黙ったあと「ほんとは言いにくかったけど、私ね、とっても疲れているの」 #タワマン文学大賞

ヘタレ社長 @hetare808ceo

と言い、ポロポロと久しく見せたことのない大粒の涙を流した。20分ほど経って娘は言葉を絞り出すようにゆっくり話し始めた「私ね、本当はね、高いところが怖いの。夜に何度かオネショをしたのはそのせいだと思うの。エレベーターは耳が痛くなって、バスに乗る前に気持ち悪くなるの」 #タワマン文学大賞

ヘタレ社長 @hetare808ceo

そしてまた娘は嗚咽しながら涙を流した。賢二は我に返り担任から娘がバスに酔って吐いたと何度か連絡を受けたことを思いだした。賢二は自分を責めた。自分のシナリオだけを描き続け、娘を強引に枠に嵌めていたのだ。思えばこれまで誰の意見も聞かずに何もかも単独で決めてきた。 #タワマン文学大賞

ヘタレ社長 @hetare808ceo

それがどうだ。強制的に敷いたレールに娘は苦しみ、娘は親の期待に応えようと日々演技と無理をしていたのだ。タワマンに恍惚し高揚感に包まれた日々を送っているのは自分一人だけだった。賢二は娘を抱きしめ、何度も「ごめんね、ごめんね」だけを繰り返し、声を上げて一緒に泣いた。 #タワマン文学大賞

ヘタレ社長 @hetare808ceo

それから2カ月後。祖父のタダ同然の地方の土地に安い庭付きの戸建てを建てた。賢二は単身赴任を決断しエレベーターのない低層の生活を娘に提供したのだ。娘に会えるのは月に数回になってしまったがそれでいい。人生を楽しく生きること。それが何よりも大切なことだと気づいたのだ。 #タワマン文学大賞

ヘタレ社長 @hetare808ceo

大切な学びを得た賢二にはもう高層最上階天上人の意識はない。今日もまた賢二はエレベーターの1階を押し住民に軽く会釈をする。顔に土をたくさんつけた娘の笑顔を想像して。 #タワマン文学大賞

ママ鑑 @aanemuiaanemui

あの頃私は、1日に50通の手紙を自筆していた。全てタワマン所有者宛だ。 タワマンの専任が欲しいが、郵便受けすらオートロックでポスティングが出来ないため、手紙を書いていたのだ。 そんな私に、ある日反響電話ならぬ反響手紙が届いた。それが私とタワマンの彼との始まりだった。#タワマン文学大賞

ママ鑑 @aanemuiaanemui

タワマンの彼からの手紙には、『米国育ちで不動産の商慣習が分からないので教えてほしい』という内容が書かれていた。 巷で言われるタワマンカースト等の荒んだイメージとは違い、彼の手紙からは謙虚さと優しさが感じられた。 #タワマン文学大賞

ママ鑑 @aanemuiaanemui

今思えば、私にはこの時から既に好意があったのかもしれない。 『人気のタワマンなので複数社との一般媒介契約がよいのでは…』 なんて言う、上司が聞けば卒倒しそうな内容を手紙で返していた。それから、彼との文通は1ヶ月ほど続き、ついに面談することとなった。 #タワマン文学大賞

ママ鑑 @aanemuiaanemui

事務所に現れた彼は、想像以上の好青年だった。話はトントン拍子で進み、そのまま訪問査定のために2人でマンションへ向かった。 空調の効きが悪そうなくらい高い天井のエントランスを進み、エレベーターに乗り込むと、一瞬目眩に襲われた。気圧のせいかな、と彼が心配そうに覗き込んできた。

ママ鑑 @aanemuiaanemui

近づいた顔を直視できなかった。もはや自分の恋心は疑いようもなかった。 訪問査定中も終始鼓動は高鳴った。退室しようとする頃、彼が引き止めた。 「よければ、少し飲んでいかれませんか？共用部のワインセラーにいいのがあるんです」 ダイレクトウィンドウの外にはSDGs色の東京タワーが輝いていた

ママ鑑 @aanemuiaanemui

翌朝、彼と一緒にタワマンを出た。エントランスに会社の先輩が立っていて、慌てて別方向に歩いた。今日はここの内覧なのだろう。先輩は以前タワマンをバベルの塔と揶揄していた。大規模修繕が出来ずに崩壊すると。 彼のようなレベルの人たちが集まるタワマンが崩壊するわけない、と心の中で反論した。

ママ鑑 @aanemuiaanemui

休日が合わない私達のデートは、彼のタワマンで過ごすことがほとんどだった。タワマンのプールやジムで運動し、共用部のライブラリーで本を読む。 生協やクックパッドマート等の食配サービスも充実しており、2人で料理することもしばしばだった。 これが幸せというものなのか。。

ママ鑑 @aanemuiaanemui

彼に、そしてタワマンに見合う女になろう。そう考えた私は身なりに気を付けるようになった。ファッションはハイブランドで揃え、化粧品やエステにもお金をかけた。 そしてようやく、最も欲しかったものを揃えることができた。 彼の子供を身籠ったのである。

ママ鑑 @aanemuiaanemui

彼に妊娠を報告した。 結婚はしていないが、喜んでくれるだろうと思っていた。しかし、「胎児は高層階の気圧に耐えられるのか？」「タワマンの揺れは乳児の脳の発達に悪影響だ」と言うばかりで、いまいち嬉しさが伝わってこない。 この時の私はまだ、心配してくれているのだろうと考えていた。

ママ鑑 @aanemuiaanemui

暑い夏の日だった。 いつものように部屋を訪れると、もぬけの殻となっていた。カーテンもないタワマンは灼熱地獄だ。 彼に電話は通じない。会社に電話すると、この部屋が先日他決したと聞かされた。売主は米国の家族の元へ帰国したとも。 バベルの塔が崩壊する音が聞こえた。 終 #タワマン文学大賞

窓際三等兵 @nekogal21

油圧ショベルに取り付けられた粉砕機が振り落ろされると鈍く、乾いた音が響いた。屋根瓦が落ち、壁が崩れる音は築50年超の我が家の断末魔のようだ。妻との初夜、子供達の誕生、そして巣立ち…余韻にひたる間も無く、無機質な瓦礫の山が積み上がる。近々、ここにタワマンが建つ。 #タワマン文学大賞