ロンドン・コーリング #2

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「気に食わん名前だな」「怯えるのも無理はない、お客人。しかしまあ、幽霊列車のあの異形も、慣れてしまえば要は単なる悪趣味な列車だからな。生前の記憶をなぞるかのように、死者の灰を燃やして走る、それだけの話さね。ホスピタリティはまあまあだ」「フン」雨の中、二人はバイクを発進させた。 22

2021-12-13 22:32:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アバーッ!」路上に立ち尽くすズンビーを撥ねながら、二人のニンジャは街路を北上した。やがて前方、異色の空を地上から照らすサーチライトじみた光が見えてきた。カーン!カーン!カーン!不吉な鐘の音が聞こえてきた。車掌ズンビーが鳴らすベルの音である。「ブライトン駅だ!突破するぞ!」 23

2021-12-13 22:35:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アバーッ!」鉄の鎧で覆ったズンビーが駅敷地を囲む鉄柵の門に立ちはだかり、遠く、向かってくる彼らを威嚇した。「アバーッ!」「アレも一応ニンジャで、ケイムショの聖騎士(パラディン)だ!名はステイションマスター……注意しろよ。脇をうまくすり抜けて、そのまま……」「イヤーッ!」24

2021-12-13 22:40:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「オイ?」デッドアイズは瞠目した。アンブレラはバイクを加速させた。「ドーモ!ステイションマスター……デス!」KA-DOOOM!騎士めいたズンビーニンジャは手にした槍斧を足元に叩きつけた。アンブレラはジョウスト騎士めいて、畳んだカラカサを構え、身を屈めた!「ドーモ、アンブレラです!」 25

2021-12-13 22:42:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「オイオイまさか……」取り残されかかりながら、デッドアイズはこの後起こる事を予感して笑顔になった。「……ま、そうでなくてはロンドン市街で一攫千金とはいかんわなァ」「イヤーッ!」アンブレラは最大速度!カサを螺旋回転!「イヤーッ!」ステイションマスターが槍斧で攻撃!アンブレラ突進!26

2021-12-13 22:45:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

KRAAASH!ステイションマスターはカサ槍突進に貫かれ、バラバラに四肢を千切れさせて飛び散った。「サヨナラ!」爆発四散!「イヤーッ!」破砕したバイクを回転跳躍で乗り捨て、アンブレラは錆びた金網を蹴り破ると、強引にホームに突入した!「ハァハハァ!」笑いながらデッドアイズが続く! 27

2021-12-13 22:47:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

前方にはレールウェイを今まさに北へ走り去ろうとする「幽霊列車」の背中あり!「これは僥倖!予定より一本早い。あれを逃すと少しヒマだ。急げ!」デッドアイズが急かした。アンブレラはホームをうろつくズンビーを薙ぎ倒して全力疾走!やがて列車の全貌が霧の中から浮かび上がる!ナムサン!肉! 28

2021-12-13 22:49:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

それは電子戦争以前どころか産業革命時代を彷彿とさせる鋼鉄の蒸気機関車であった。その表面には……ナムアミダブツ……如何なる呪いか、乾いた肉が張り付き、ギシギシと軋んだ音を発していた。顔じみた歪みが幾つか、「アイエエエ」と呻き声を発していた。アンブレラは構わず、最後尾に飛び乗った。29

2021-12-13 22:54:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「よし!」続いてデッドアイズが乗り込み、開け放たれた車輌扉から後ろを振り返った。一秒後にホームの足場が途切れた。列車は加速する。「これが幽霊列車というわけよ!間に合ったな。さあ、くつろぐとしよう」車輌内は落ち着いたものだった。アンティークで……しかし、蜘蛛の巣にまみれていた。 30

2021-12-13 22:56:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

クロスシートのテーブルに乗ったままの空のティーカップに、デッドアイズは魔法瓶のマッチャを注ぎ、寄りかかって啜った。極めて図太い男だった。顔をしかめるアンブレラに、デッドアイズは奥の扉を示した。「列車内にズンビーはゼロではない。たまに迷い込んでくる場合もあるから、退治を頼む」 31

2021-12-13 22:58:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「このままロンドン市街か」アンブレラは別のカップを手に取り、デッドアイズにチャを入れさせた。「然り。快適だろ」デッドアイズは頷き、アンブレラにチャを入れ、自分のカップをもうひと啜りした。「言っておくが、中心地がこの程度の危険で済むと思うなよ。なにしろスウィンギング・ロンドンだ」32

2021-12-13 23:01:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「大丈夫です。深い傷ではなかった」スマイターは寝台に座らせた技術官メイの足に包帯を巻きなおし、応急処置の痕を確認した。スマイターの胸は豊満だった。「ありがとう、本当に、本当に感謝するわ。何て言ったらいいか……あなたといると安心感がある」メイ・フルオートは安堵の息をついた。 34

2021-12-13 23:05:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

カタナ社との接続は途絶したままだ。奇妙な気分だった。まさか死都ロンドンの戦闘領域で、所属不明の尼僧ニンジャに命を救われ、そのまま勢いで一晩明かしてしまうとは。仮にこのスマイターが競合他社のニンジャだったならば、メイが帰社できたとしても、その後どんな叱責を受けるかわからない。 35

2021-12-13 23:09:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

叱責……否、人事部の過酷な「インタビュー」を受けるハメに……否……そもそもこの女が他社のニンジャであったならば、既に殺され、脳内UNIXとサイバネアイを抜かれているところだ。メイはとても英国人らしく自嘲気味に笑った。「自分はもう死んだと思ってた。これから死ぬかもしれないけどね」 36

2021-12-13 23:13:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「人間いつかは死にます。ニンジャも死にます。儚いものです」スマイターは肩をすくめて微笑み、包帯を結び終えた。「ですから、出会いを大切にすべきでしょう」「それが私を助けてくれた理由?」メイは10ホールのテックブーツを履き、紐をしっかりと結び直しながら問うた。 37

2021-12-13 23:17:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そうとも言えます。無人のはずの家屋から人の気配があり、ズンビーに囲まれていた。拙僧にはカラテがあった。ならば、すべきことは決まっています」スマイターはメイに手と肩を貸し、立ち上がらせてみた。メイはもう独力で歩ける状態にまで回復していた。メイはゆっくりと装備を整え直した。 38

2021-12-13 23:20:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あなた、人助けが趣味?ブディストだから、いつも困った人を探して歩いてる?」「いえ、拙僧そこまでカルマ・スコアは高くありません。正直に申しますと」スマイターはバツが悪そうにウインクした。「拙僧、道に迷っておりまして。偶然通りがかりました」「本当に?目的地は?」「大英博物館です」39

2021-12-13 23:23:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「大英博物館」メイは大きく目を見開き、呻くように復唱した。スマイターは頷いた。大英博物館こそは無数の不死者が蠢くロンドン災厄中心のひとつ。小隊に与えられていた最難関の偵察重点箇所だ。命知らずにも程がある。だが……ニンジャだ。しかも尼僧のニンジャだ。どうにかなるかもしれない。 40

2021-12-13 23:29:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

メイは左腕のハンドヘルドUNIXを展開しながら言った。「本当、出会いは大切にすべきね。力になれるかもしれない。お互いに」モニタに光が灯る。尼僧はメイの後ろから屈みこみ、じわじわと移ろいゆく液晶のグリッドを見つめた。 41

2021-12-13 23:32:57