プロの小説家が書くtwitter連載怪談が面白い。右園死児報告の真島文吉が思いついた時にこね上げる短編ホラー。

諸事情で仕事ができない時や、病み上がりの際の筆慣らしとして投下されている怪談集。最初のエレベーターの花嫁は劇団はにまろんによる朗読動画つき。
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真島文吉 @ASCIIART_NOVEL

高い高いフェンスの連なる、花畑。黄色い花が一面に咲き乱れて、陽を浴びて輝いています。遠くにコンクリートの建物があって、平時はそこに狙撃兵が隠れていて、フェンスに近づいた者を撃ち殺していました。

2023-04-13 11:16:32
真島文吉 @ASCIIART_NOVEL

女は花畑に倒れ込みました。信じられないほどふかふかで、花の一輪一輪が、このまま眠っておしまいと言っているようでした。陽が、温かな大きな手のひらのように、背中を撫でてくれます。これ以上幸せな最後はないかもしれない。そう思いました。

2023-04-13 11:16:55
真島文吉 @ASCIIART_NOVEL

でも、女の胸の下で、声がしました。花達の声よりも鋭く、力強く、そして悲痛な声です。女は立ち上がらないわけにはいきませんでした。今までこの子のために生きてきたのです。この子がいたから生きて来れたのです。

2023-04-13 11:17:10
真島文吉 @ASCIIART_NOVEL

カラカラに乾いたハンクスが、たった一つの言葉を叫んでいました。それは命令でした。懇願でもありました。ハンクスが最後の最後に、誰かの真似ではなく、まるで自分の魂の奥底から、自分の意志で選び出したかのような、凄まじい熱を持つ言葉でした。

2023-04-13 11:17:28
真島文吉 @ASCIIART_NOVEL

女は高い高いフェンスを見上げて、近づきました。銃弾は飛んできません。今はまだ。女はハンクスの屍を、最も暖かそうな場所に置きました。白い腹を撫でると、ハンクスの言葉が返ってきます。女は、フェンスに手をかけました。

2023-04-13 11:17:45
真島文吉 @ASCIIART_NOVEL

ゆっくり、少しずつフェンスを登って行く女が、陽に包まれて黄色く、花の化身のようになりました。銃弾は飛んできません。まだ飛んできません。風が吹いて、黄色い花びらが嵐のように舞い上がり、そこにわずかばかりの白い羽毛と、ハンクスの最後の言葉が混じりました。

2023-04-13 11:18:06
真島文吉 @ASCIIART_NOVEL

逃げろ。 その言葉に女は突き動かされます。 お前を傷つける、縛り付ける、全てのものから逃げろ。 国から。人々から。爆弾から。父親から。 私から。

2023-04-13 11:18:25
真島文吉 @ASCIIART_NOVEL

逃げろ。大事な人。逃げてもっと暖かいところへ行け。 暖かいところへ。 君にふさわしいところへ。 振り向かずに、行け。 了

2023-04-13 11:18:47
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