『TOUGH』x『アークナイツ』SS 8話 『呉越同舟』

モチャーン三世 @mocharn3rd

「君にその気があるのなら、すぐに研修もこなせられるさ」 　熹一は少し黙ると、伺うように訊く。 「ワシは早くて数か月でここから去ることになるが、それでも教官になってええんか

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「君が望むのなら、いくらでもロドスで働いていて欲しいが」 　ドクターは言葉を切る。 「アレックスの装置の再現と、潜隠爆破脚の治療次第だ。前者は大前提だが、潜隠爆破脚の治療については彼との契約にある」

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「あいつのことを守ったり治したりしながらも警戒せないかん、っていうのは曲芸みたいやな」

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「ケルシーは最初から彼を捕獲するのと、数々の処理をやる予定ではあったらしい。かつて、変身することで牢獄から抜けたことがあったというからな。彼の開発した装置についても調べる予定だったというし……最初から曲芸なんだ」

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「そうか……」 「君がアレックスに回復不可能な技を使わなくて良かった。あと私から言えるのはこれくらいだ。回復可能だからこそ、彼はまだ言うことを聞いているのだろうし」 「そうかもな」 　ドクターと熹一はお互いの肩をばんばんと叩いてから談話室を出た。

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それからしばらく監視も兼ねて、熹一はスプラトと同じ任務に入ることが多かった。 　スプラトに求められた仕事には医学・薬学・工学知識がかかわるものもあった。そのため同時参加できない事もあったが、戦闘任務で観察しながら闘っていた。

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カシャから「怒らないでね。彼の戦闘記録撮影してても、不審な動きとか見られないよ。上層部から何か言われてるならともかく、キー坊はキー坊で闘いに集中した方がいいんじゃないの」と言われた。

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「そこまで気ィ散っとったかな」と返すと「ケガこそ少ないけど余計な手数が1割から2割くらい増えてるよ」と応えられたので、本来業務の前衛オペレーターの仕事に集中することにした。

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ロドス　訓練室 　熹一とスプラトは、ゆっくり、ゆっくりと関節技を掛けあう。 　カシャがそれを撮影し、格闘系・非格闘系オペレーターがちらほらそれを眺めていた。 「この場合はこういう掛け方が優位で、かけられた側はこうして外す方法がある……」 「これで固められたらこういう逃げ方がある」

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「ただ、寝技とか関節技、締め技は、相手が噛みついてきたり隠し武器を用意してたりするから、注意して欲しい。相手が何らかのアーツを使う可能性もあって……」

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「明らかに相手がアーツ使いでないと分かってる時以外は警戒が必要やな。さっさと関節を外したり折る意気込みが求められる」 「スパーリングにおいては折るところまでできないから、ヒト型サンドバッグで練習が基本やな」 　熹一はトントンとジャンプした。

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「作戦記録に別途映像を用意しているから、そっちも参考に見てほしい。あとこれはオペレーターの皆には耳にタコができてるやろうけど、スパーの際にはケガのないように。速度や強さを落として、無理なく練習してくれ」

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しばらく沈黙が起きる。 　それから格闘系オペレーターから順に見物していたオペレーターたちから拍手が起きた。

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「キー坊、アレックス、まあまあ良かったよ」 　格闘教官Octopusが拍手をしながら近づいてきた。これは、熹一のロドス格闘教官の研修だった。 「二人とも格闘を教えていた経験はあるが自信がないと聞いていた。これだと心配ないな」

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熹一は頭をかきながら返事をする。 「そこまでか？　しばらく教えることから離れとったから余計うまくいくか懸念はあったんや」 　Octopusが親指を立ててくる。 「心配いらないよキー坊、この調子で教官になってくれ」

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ロドス　甲板 　熹一とスプラトは、空と景色を眺めていた。 「なんか知らんけど、ワシが教官になるのを皆勧めてくるんや。なんか思い当たるところないか？」

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スプラトは「ふむ」と言ってから、尋ねてくる。 「これは煽りや私の趣味ではなく純粋な質問だが"みんな"は具体的に誰だ？　それによって回答が変わってくる」

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「みんなって……最初に勧めてきたのはアーミヤちゃんで、カシャがその場にいておめでとう～って言われたし、ラナさんもやな。後はドクターも乗る気だった。今日のOctopusもそうや」 　スプラトが顎に手をやる。 「ケルシー先生はどう言っていた」

モチャーン三世 @mocharn3rd

「いや特に……好きにしろとは言われたな」 「ふむ、これだけだとピースに欠けるが、ドクターとアーミヤ嬢の話だけでも多少は推理可能だ」 「マジか」 「結論から言うと、私の治療を終えてキー坊が地球に帰るまでに、キー坊からある程度リターンが返ってくる見込みがあるな」 「えっ」

モチャーン三世 @mocharn3rd

「まず、キー坊の教導によるオペレーターの戦力底上げはわかるだろう？　それから教導技術をフィードバックしてより発展させる。ここまではわかるな？」 「ああ、他にあるんか？　灘の技がちらっと漏れるのを期待しとるとか……」

モチャーン三世 @mocharn3rd

「それもあるだろう。君は"こっちのほうが良い"と思ったら柔軟に技を変えるし、人によって色んな戦法を提案するに違いない。そういう"発想"自体を買われてもいる。技術と発想はつながっているしな。技そのものが漏れなくても考えは漏れ出る」

モチャーン三世 @mocharn3rd

「そうやな、……作戦記録で大概いろんな技が収録されとるからな、何を今更って話でもあるしな」 「TDKやハイパー・バトルや日下部覚吾との闘いも世界に流れていただろう。マイペンライ(大丈夫)さ」 「まあ、ぼちぼちやるか。ところでなんでケルシー先生の話が気になったんや？」

モチャーン三世 @mocharn3rd

「ケルシー先生が"こうした方がいい"というアドバイスは9割がた正しいからだよ。先生が"好きにしなさい"というのならば、特に介入が必要と思われてないと考えられる」 　熹一は首の後ろで肩を組んだ。

モチャーン三世 @mocharn3rd

「でも先生は色々言う時は言うてくるで？　こっちで子供作るようなら地球には返さないとか……これはまあ当然やけど」 「それはそうだ。他には？」 「他にはって」

モチャーン三世 @mocharn3rd

「うん、さっきも話したが"皆"とか"色々"を腑分けすることが必要不可欠だ。君は相手の急所を突くときに"こんな感じ"だなんてアバウトな攻撃はしないだろう。明確に"どこ"を"どれくらいのスピードで"といったビジョンがあるはずだ。