ロンドン・コーリング:後編 #1
今のアンブレラが過去のアマクダリ・セクトに抱く感傷はほぼ皆無といってよい。しかし現在の彼の雇い主は実際、メガトリイ周辺の技術継承者たちだ。そういう意味では、今の彼が当時の文脈と全く断絶しているわけでもない。不意にあらわれたサツバツナイトは、彼にとって面白い存在とは言えなかった。20
2022-01-11 23:02:34KA-DOOOM!ドラゴン・ニンジャの投じた衝撃波がグレネードめいて爆発し、カラテスケルトンの群れが散り散りに吹き飛ばされた。穿たれた通り道を、サツバツナイトが突き進む。「イヤーッ!」ヘリオトロープの振り向きざまの槍斧攻撃を、「イヤーッ!」サツバツナイトは特殊な構えで弾き、無効化した。21
2022-01-11 23:05:32空気が震動し、ヘリオトロープは反動に跳ね上がった槍斧をこらえた。「シュラアアア?」……読者の皆さんの中には御存知の方もおられよう。サツバツナイトの瞬間的完全防御姿勢「サツキの構え」は、奥義ジキ・ツキの予備動作でもある。だが槍斧は長リーチであり、ジキ・ツキは届かない。では!? 22
2022-01-11 23:08:41「キエーッ!」サツバツナイトの肩を、後ろから走ってきたドラゴン・ニンジャが踏み台にして、跳んだ!彼女は空中で数度のキリモミ回転を行い、ミサイルじみたトビゲリを喰らわせたのだ!「グワーッ!」ヘリオトロープは喉装甲を貫かれ、苦痛に仰け反る!アンブレラは機に乗じて背後から接近! 23
2022-01-11 23:11:14「イイイヤアアアーッ!」鉄傘をヤリめいて繰り出す!ヘリオトロープの背部、腰部分の甲冑の接合部を狙い、深く深く突き刺した! 「アバババーッ!?」バック・スタブを成功させたアンブレラは傘をねじりながら開き、ヘリオトロープの胴体をかき混ぜるように刳り壊した。ナムサン!致命傷だ! 24
2022-01-11 23:14:01「サヨナラ!」ヘリオトロープは爆発四散し、紫の甲冑が粉々に散り消えると、ホール内の邪悪な瘴気は晴れて、カラテスケルトンの群れはバラバラと床に崩れ落ちた。ナムアミダブツ!「……よし」デッドアイズは装着しているハンドヘルドUNIXを慣れぬ手付きで操作し、カラテメーターの反応を確認した。25
2022-01-11 23:18:09「うまいぞ。厄介なパラディンがくたばり、対ゴダの障壁が取り払われた。いい塩梅だ」「……」アンブレラは顎を振ってサツバツナイト達を示し、デッドアイズに警戒を促した。デッドアイズはあらためてスプリガンを見据え、鼻を鳴らした。戦闘の終わったホールで、三人と二人は睨み合った。 26
2022-01-11 23:22:38「バカ弟子め。テムズのロンドン・アイを起こしたのは貴様だな。貴様の不始末のせいで、ここまで来るのに三倍は労を要したわ」スプリガンがデッドアイズに言った。デッドアイズは挑発的に首を傾げた。「三倍?期待外れだな。そのまま全滅してくれてもよかった。頭数が減れば、分け前もうまくなる」 27
2022-01-11 23:27:25「何をほざくか」「最も用心深く、最も冒険に適した者が報酬を手にする資格を得る。甘い者、劣った者は踏み台にすればよい。違うかね?」デッドアイズは嘯き、アンブレラと視線を交わした。フジキドは眉根を寄せた。彼らが何らかの血腥い駆け引きを経た直後である事を、推理力で看破したのである。 28
2022-01-11 23:29:14「その慢心。まるで昔のワシだ、デッドアイズ=サン。首の根掴んででも従わせるべきだった。我がインストラクションの過ちだ」「実際無理だろう。俺にどう勝つつもりかね?その脚、取り戻せて良かった事だな」デッドアイズは義肢を一瞥した。「貴様……」スプリガンのこめかみに血管が浮かび上がる。29
2022-01-11 23:32:25ドラゴン・ニンジャがスプリガンの肩に手を置いた。「ガイドの貴方が、わたし達よりも先走ってどうするのです。スプリガン=サン。ヘイキンテキを保ちなさい」スプリガンはバツが悪そうに唸って言葉を濁した。「……とにかく、此奴には注意しろ。信用するな」 30
2022-01-11 23:35:06アンブレラは咳払いし、進み出た。「ドラゴン・ニンジャ=サン、あんたは話せる相手に思える。ここは謂わば呪いの腹中。こんな場所で生者同士がいがみ合えば互いの破滅だ。今は協力すべきだろう。コトが終われば、色々と確かめたい事も……」彼はサツバツナイトを一瞥し、「……各自あるだろうがな」31
2022-01-11 23:38:10「よかろう」サツバツナイトは腕組みをしたまま、重々しく頷いた。彼は続く言葉を発しようとしたが……「上だ!」ホールの天井を睨み、叫んだ。KRAAAAASH! ドーム状の天井が細密画ごと破砕し、上から複数……否……無数の黒い影が降ってきた!ズンビーの群れ!先導するニンジャ装束のズンビー! 32
2022-01-11 23:40:16ジゴクめいたズンビー雨に対し、サツバツナイトとドラゴン・ニンジャはカラテで身構えた。だがデッドアイズは真っ先に身を翻した!「キリがない。障壁は消えた。奥だ!」アンブレラを促す!二人は奥の大扉をめがけて走り出した。スプリガンは頭を振り、不服げに追随する。「奴の言う通りだ。続け!」33
2022-01-11 23:44:53SMAAASH!SMAAASH!破城槌めいてアンブレラが傘を叩きつける。大扉が軋む。「「「「アバーッ!アババーッ!」」」」溢れ落ちるズンビー達は互いを押し潰しながら、生者に迫る!黒装束のズンビーはネガティブ・カラテで宙に浮かび、一方的にアイサツする!「アバー!ドーモ、ヘルシェパードです」 34
2022-01-11 23:47:28「まだか?」デッドアイズが急かすなか、アンブレラは繰り返し大扉に衝撃を加え続けた。最後尾のサツバツナイト達がヘルシェパードのズンビー雪崩に対応すべく向き直った、その時だ。「アバー」「アバー」「アババーッ!」押し寄せたズンビー雪崩が、高波めいて跳ね上がった。生者たちは訝しんだ。 35
2022-01-11 23:50:42すぐにその理由がわかった。障壁だ。ズンビーの群れは、突如生じた透明の障壁に阻まれ、獲物に届かず、引っかかるようにして折り重なり、上に溢れてしまうのだ。「これは……!」サツバツナイトは凝視し、ドラゴン・ニンジャはハッとして、名を呟いた。「ゴダ・ニンジャ=サン……!」 36
2022-01-11 23:53:29障壁は確固たる斥力をもってズンビー雪崩を拒絶する。「ケイムショ=サンの慈愛、受け容れるべし!」ヘルシェパードは頭上で手を組み合わせ、邪悪なネガティブ・カラテを放射した。「イヤーッ!」だが!「アバーッ!」障壁はネガティブ・カラテをも拒絶!ヘルシェパードは背後の壁に叩きつけられた!37
2022-01-11 23:56:52ゴーン!そしてその時、音を立てて大扉が開け放たれた。アンブレラは勢い余って前につんのめり、毒づいた。『よくぞ参った』神秘的な声が響く。ニューロンに直接語りかける声。他の者が顔を見合わせる中、ドラゴン・ニンジャは虚空に向かって答える。「貴方に会いに来ました。ゴダ・ニンジャ=サン」38
2022-01-12 00:02:48『そのようだな。だが、力になれるかどうかはわからぬ。チャでもてなす事もできぬが……』「構いません」『……』微笑めいた余韻がニューロンに響いた。ユカノは他の者を促し、歩き出した。見えない障壁に体当たりを繰り返し自壊するズンビー雪崩を後に残し、生者達は更なる内奥へと歩を進める……。39
2022-01-12 00:07:14