アレリンまとめ

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詠憧🐇 @eido_0604

わたしはいまアレリンに飢えているんだな

2022-02-03 19:28:49
詠憧🐇 @eido_0604

ごくり、とわざとらしいほど喉がなって、リーンはアレスの手を力の限り握った。だのに力が入ってない大きな手は一向に形を変える気配もない。ねえ、と絞り出した声はあからさまに震えている。「やっぱりアレスが先に行ってよ」「なんだ、やっぱり怖いのか」鼻で笑うような声は完全に楽しんでいて、

2022-02-03 22:49:35
詠憧🐇 @eido_0604

何度も何度も否定したけれど、とうとう観念してリーンはそうよと叫んだ。「怖いわよ! 悪い!? だって地下牢よ、牢屋! 地下! 怖いに決まってるじゃない、こんなに光が入らなくって、真っ暗で! 何がいるかわかんないって言ったのアレスでしょう、ああもう! なんであたし行くなんて言ったの」

2022-02-03 22:57:09
詠憧🐇 @eido_0604

きっと今の自分は涙目だろうけれど、本当に悔しいことに振り返ったアレスは意地悪い笑いをしている。せっかく整った顔が台無しじゃない、ニヤニヤして、完全にリーンで遊んでいるのが丸わかりだ。「たまにはいい薬だろ」「あたしに何の薬が必要だっていうのよ」もう、と頬を膨らませてアレスを下から

2022-02-03 22:57:10
詠憧🐇 @eido_0604

睨みつければ、にやにや顔が一層深くなった。ーーこれはだめだ、楽しんでいるーーリーンがもう少し冷静ならそんなことに気がつけたんだろうけれど、今のリーンには無理だった。怖い。いや。それしか頭にない。制圧したてのお城の地下牢なんて、何でそんな物騒なところに非戦闘員のリーンが行くとこに

2022-02-03 22:57:12
詠憧🐇 @eido_0604

なったかと言えば完全に売り言葉に買い言葉、とんとんと調子よくお話をしていたリーンが悪いのだし、そもそも人手不足に陥ってる解放軍もちょっとだけ悪い。人が足りないのだ、だからって、制圧した城を各部屋巡回もせずに使用はできない。踊り子なのにリーンが頼まれたのは、

2022-02-03 22:57:12
詠憧🐇 @eido_0604

詳しい事情は置くとしてもアレスの存在がデカかった。つまりアレスも悪い。そうなのだ。怖いものなんかないという顔で敵をバッタバッタ倒す、黒騎士アレスの方がきっと戦場では「怖いもの」になるんだから。

2022-02-03 22:57:12
詠憧🐇 @eido_0604

買ってしまったからには仕方がないし、リーン一人じゃなくアレスもいるとなればみんな安心してリーンに仕事を任せる。リーンも、これでいて人の役に立つのは大好きだ、喜び勇んで仕事を手にしたけれど、いざ地下牢の入り口、いかにも曰くありげな薄暗くて湿っぽい階段に立って、足が止まった。

2022-02-04 05:48:36
詠憧🐇 @eido_0604

リーンは地下と相性が悪い。悪いどころか未経験に程近い。ダーナでは、城に地下もあったんだろうけれどリーンの行動範囲にはなかった。ダーナからここまでも。そしてはたと気がついたのだ。地下って、つまりは。光が一切入り込まない、暗い地底ではないか、と。

2022-02-04 05:48:37
詠憧🐇 @eido_0604

そんなところにある牢屋だなんて。何でリーンが。いくらアレスだからって。しかもそれまで楽しく、あたしが先に行くのよ、アレスはあたしのおまけ、黙ってついてきていいんだからねこのリーンちゃんに任せてよ、あでも敵が出てきたら颯爽とかっこよく守ってよね、なんて呑気にお喋りした故に。

2022-02-04 05:48:37
詠憧🐇 @eido_0604

「ほら行かないのか、リーンに任せるぜ、先陣」階段の一番上で動かない足を見つめるリーンに、頭の上から楽しそうな声が降り注ぐ。いやだ、もう、嫌いになってやる。

2022-02-04 05:48:37


詠憧🐇 @eido_0604

リーンの笑い声は聞けばわかる、あはは、と軽やかに風に乗る声だ。遠くからでもよく響いて、人好きのする性格そのままに心地よく胸に届くのだ。薄目を開けるとまだ木漏れ日がかすかにアレスを隠していて、そう時間が経っていないことはすぐにわかった。頭の下で組んだ腕を解いて、目元を隠した。

2022-02-04 14:17:27
詠憧🐇 @eido_0604

まだ少し眠い。見ていた何かいい夢の名残りが渦巻いている気がして、もう少し微睡に身を委ねていたい。風に乗って届くリーンの笑い声も、暖かな日差しも若草に沈むような重たい体の感覚すらも心地よい。少しして、足音とも気配ともつかないまま何かが近づいてきた。隠しきれない

2022-02-04 14:17:28
詠憧🐇 @eido_0604

衣擦れの音を確かに聞きながら、アレスはそれでもじっとしていた。しばらくすると横にじっとりと暖かな体温を、胸元に小さな手のひらが乗って。くすくすと、胸に響く柔らかな笑い声がアレスの横に寝転んだ。

2022-02-04 14:17:28

詠憧🐇 @eido_0604

おかえりなさい、と両腕を広げるとびっくりした顔でアレスは手綱を引いた。軽く黒馬がいなないて前脚を上げる。首に触れて宥めながらアレスは蔵の上で見事なバランスをとった。見上げるリーンの目には傾き始める眩しい日差しと返り血で、アレスの金髪が赤く染まる。「驚かせちゃった? ごめんごめん」

2022-02-04 20:13:26
詠憧🐇 @eido_0604

そんなつもりはなかったのと、行き場のない両腕を下ろした。これでは出迎えではなく進路妨害だ。いちおう、少し離れた場所で声をかけてのだけれど。そもそも騎兵に両腕を広げて出迎えるのは自殺行為だった。でも一度やってみたかったの。

2022-02-04 20:13:26
詠憧🐇 @eido_0604

「そりゃ驚くだろう、だからって嫌だったわけじゃないからな」落ち着いた愛馬の背からひらりと降りて、アレスは若手の兵を呼び止めた。ちょっと頼むと手綱を押し付けている。「リーン、待っててくれたのか」

2022-02-04 20:13:27
詠憧🐇 @eido_0604

わたしのじゃない素敵なアレリンが読みたい

2022-02-04 20:20:38

詠憧🐇 @eido_0604

「何だまたそんな不健康なモン食ってんのか」部屋に入ってくるなり言い放ったアレスに、リーンは少しだけカチンときた。「不健康じゃないわ、手軽なモノよ」出店でよくある、安くて腹が膨れるだけの、そこまで味のない副食である。別段リーンがこれを好きというわけではないが、食にこだわりが

2022-02-04 22:59:38
詠憧🐇 @eido_0604

ないだけである。食べられればいい。腹が膨れて、そこそこ所持金が減らないものがいい。何せリーンは雇われの踊り子である。いくらお抱えとは言え、悲しいかな吝嗇に抱えられているのだ。宴があるときには食事を供されることはあれど、ないときは放置だ。いや、居住を許されているだけいいのだろう。

2022-02-04 22:59:38
詠憧🐇 @eido_0604

ここダーナは砂漠のオアシス、地権が高い。うっかり貧乏人が危ない地域に住まおうモノなら一触即発夜には砂漠が住まいになることもあるという。孤児院と城にしか住んだことのないリーンはとても恵まれているのだ。しかし恵まれているのは居住だけ、少ない給金から煌びやかな衣装や宝飾を賄うのは

2022-02-04 22:59:39
詠憧🐇 @eido_0604

そこそこ厳しかった。となれば削るのは食費になる。リーンは料理が苦手だった。できないわけではないし、レイリアの付き合いで作ることもある。しかし興味がないものに、あまり情熱は注げずに上達もしなかった。食べられるものは作れるけれど、作るくらいなら買ってしまいたい。そこで行き着くのが

2022-02-04 22:59:39