「映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争2021」レビュー 『原作の気骨を受け継いでいないリメイク』

割と酷評なので好きな方は閲覧注意。ネタバレ注意。あくまで個人的な感想です。
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齋藤 雄志 @Yuusisaitou

「映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争2021」見てきました。 結論から言って、私はこれは駄目でした。歴代のリメイク作のなかでもちょっと看過出来ない。 以下ツリーネタバレ感想。 pic.twitter.com/vvqGOF8mnd

2022-03-09 14:56:16
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齋藤 雄志 @Yuusisaitou

今作の物語のアレンジを担われたのが監督なのか脚本なのかプロデューサーなのか分からないけど、原作「宇宙小戦争」の要が全く分かっていないとしか言いようがない。この改変はちょっと許容出来ない。 pic.twitter.com/bJ2ymytb9f

2022-03-09 14:56:17
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齋藤 雄志 @Yuusisaitou

個人的に、宇宙小戦争は原作も旧作も特に好きでもないし、初期大長編のなかでは小粒な作品だと思う。 それでも今作を見た後だと原作のドラマ作りがいかに優れているかがよく分かる。

2022-03-09 14:56:18
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

先に私のドラ映画リメイクに対するスタンスを表しておく。 私は『単体作品として納得出来る改変ならむしろアリ』というスタンス。 過去の作品だと恐竜06,新魔界や新鉄人は傑作だと思っている。 だから改変が許せない原作至上主義者では決してない。

2022-03-09 14:56:18
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

今回の映画化で最も大きな改変点は『パピが捕まるタイミング』、というかパピの扱い全般。 ネタバレだが今作では地球で捕まらず、ピリカに到着した後に投降し捕まる。 この改変が起こす作用がこの作品にとってどれだけ大きいか、制作者の方々は分からなかったのだろうか。 pic.twitter.com/yS8BMOrTTO

2022-03-09 14:56:19
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齋藤 雄志 @Yuusisaitou

今作は恐らく、原作では希薄だったパピの人物描写を増やし、のび太達との「仲間」感を強調したかったのだと思う。 ところが、確かに原作のパピの描写は希薄だけどこの作品では「これが」一番やっちいけない改変。よりによって一番やってはいけない路線で変えてしまっている。 pic.twitter.com/Aoj9k35Zs8

2022-03-09 14:56:20
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齋藤 雄志 @Yuusisaitou

パピというキャラクターは、のび太達と同年代でありながら星を統治する少年大統領、という非常に特殊な設定 これは歴代の大長編ゲストキャラの中でもかなり特殊。特殊故に難しく、原作では描写が希薄だと感じるところもあるのだけど、今回のリメイクを見るとやはり背骨はしっかり通っていると感じる pic.twitter.com/EiVXvKBIXH

2022-03-09 14:56:21
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齋藤 雄志 @Yuusisaitou

今回のパピは、原作で囚われたタイミングの後ものび太達と行動を共にし、のび太達の友達、仲間として葛藤し苦悩する しかしこの改変は、原作のドラマの要をちゃんと理解していれば有り得ない この原作は『小さいながらも戦争に巻き込まれる』という、戯画化はされているがかなりシリアスな題材だから。 pic.twitter.com/gQ5wjjBoXL

2022-03-09 14:56:22
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齋藤 雄志 @Yuusisaitou

私は大長編ドラえもんの醍醐味は「子供目線ながら大人も唸る本質的な人間ドラマ」だと思っている。 ドラえもんの世界観で戯画化はされているが、扱う題材は冒険、仲間との絆、闘い、戦争等、シビアなものが多い。 で、宇宙小戦争はその中でも特にシビアな状況設定。

2022-03-09 14:56:23
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

それを戯画化しているのが「小人サイズ」という設定なんである。 今作はそこを完全に忘れてしまっている。戦闘シーンの演出等もかなりの迫力だけど、そもそもこれが分かっていない。 この原作は根本的には『ドラえもん達がマジの戦争にマジに巻き込まれる』ということは描いていないからだ。

2022-03-09 14:56:23
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

これが特によくわかっていたのが旧映画版宇宙小戦争。 あの映画は原作のニュアンスをしっかり汲み取って、茶化すポイントが非常に的確。 『小人目線では大事だけど、実はスケールが小さい』という茶化しを随所に入れている。 pic.twitter.com/xNxPIfdNi7

2022-03-09 14:56:24
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齋藤 雄志 @Yuusisaitou

この作品はドラマの構築の仕方が結構特殊で。 大きいうちは大したことに思えずちょっと他人事、しかしスモールライトを奪われて等身大の問題となると他人事ではなくなりシリアスになるという変遷を辿っている。 この作品はこの「大小の都合の使い分け」が物凄く重要。 pic.twitter.com/hQl9qWhFiq

2022-03-09 14:56:25
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齋藤 雄志 @Yuusisaitou

これが何を表しているのか、何に作用してるかというと『他人の国の他人の戦争に首を突っ込む理由』に直接繋がっている。 大きいうちは大して脅威に思えず、軽く身元引受を承諾しても、いざ当人の立場に立たされた時、友達のために闘う覚悟はあるのか、ということを描いている。

2022-03-09 14:56:26
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

それを象徴するのが、今作では特に重要な役割を担っているスネ夫としずかなんである。 スネ夫は再三「なんで他人の戦争に首を突っ込まなきゃならないんだ」と泣き喚く。 これはそのまま、「自分の生活を脅かす独裁者に、個人の生活を捨ててまで立ち向かえるのか」ということの鏡像となっている。 pic.twitter.com/z5I8zr2KTT

2022-03-09 14:56:26
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齋藤 雄志 @Yuusisaitou

そして重要なのがしずかの役割。 初対面では「かわいい!」とはしゃいで、お人形遊びに誘ったりパピを守ると約束したのに、肝心な所で守りきれず、自分の代わりに人質になってしまう。 しずかの「パピを助ける」という意思は、今作のピリカ星に行く動機の中で最も重要なものと言える。 pic.twitter.com/MMdB7FmV0N

2022-03-09 14:56:27
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齋藤 雄志 @Yuusisaitou

原作はここが上手い。 「最初はお人形遊び、ごっこ遊びだったことが次第に等身大の問題に変化していく。友達のために本当に苦難に立ち向かうことが出来るのか」というドラマの変遷。 そして今作が最も出来ていないのがここ。 pic.twitter.com/Ia83QbtIWy

2022-03-09 14:56:28
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齋藤 雄志 @Yuusisaitou

まず前半の映画撮影の下りが良くない。 のび太がハブられるといった経緯が現代風にアレンジされているのは別にいい。 問題はピシアの戦艦との邂逅のくだり。 原作ではあくまで「なんだありゃラジコンか」と、この時点では大した脅威に感じていない。 pic.twitter.com/VgfBVq8sXt

2022-03-09 14:56:29
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齋藤 雄志 @Yuusisaitou

ところが今回は、これまたパピとの「友達感」を表現したいんだろうけど、ジャイアン達も混ざって小人化し、ラジコンバギーに乗って遊んでいるところに戦艦が急襲する。 アクション演出のボルテージは見事だけど、ここで『小人サイズでピシアの脅威を目の当たりにする』はこの原作じゃやっちゃいけない

2022-03-09 14:56:30
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

この物語はあくまで「前半は小人サイズの他人事」でなくてはならない。最初に小人サイズのままで戦艦にガチで襲われて『おうパピさん守ってやるよ』とはならないはずなんである。 F先生が上手いのはここ。「子供が闘う覚悟を決める」ということを構築するのにウソを用いていない。 pic.twitter.com/BS8hfZjX7U

2022-03-09 14:56:31
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齋藤 雄志 @Yuusisaitou

宇宙小戦争が渋いのは、パピとの実際の交流は僅かながら、互いを思いやる気持ちと、互いのために全力を尽くすという美徳をしっかりと描いてるところ。 今作はこの渋さがまるでわかっておらず、シリアスにしたつもりがかえって幼稚な友情ごっこになってしまっている。

2022-03-09 14:56:31
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

ちなみに今作が『口では友達を守る闘うと言っていたのに、いざその時になって実際に闘う覚悟があるか』ということを描いているのは、しずかとスネ夫の出撃のくだりでもわかる。 あくまで演習としていたのに予想外の敵襲で駆り出される二人。全編にこのシチュエーションが貫かれている。 pic.twitter.com/im9WLCgBey

2022-03-09 14:56:32
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齋藤 雄志 @Yuusisaitou

ちなみにここは、芝山版が本当に名シーン。 原作はかなりアッサリと描かれてるけど、しずかの出撃シーンの心理描写が物凄くシンプルかつ上手い。 泣き言を言うスネ夫を見て、その恐怖も惨めさも理解しあa、それでも泣きながら立ち去り戦車に乗る。 原作にはない、ここの表情の変化が凄い。 pic.twitter.com/avdh8xS3Hh

2022-03-09 14:56:33
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齋藤 雄志 @Yuusisaitou

ちなみにここの命台詞、「このまま独裁者にやられちゃうなんてあんまりみじめじゃない」だけど、何故かこれも新作では変えられていて心底ガッカリした。 「このまま一方的にやられちゃうなんて」とか、そんな台詞になってた筈。 pic.twitter.com/ORlTT7sB9b

2022-03-09 14:56:34
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齋藤 雄志 @Yuusisaitou

ここではしずかがはっきりと「独裁者に」と言うことが物凄く重要 しずかはパピを助けたい、力になりたいと思ってはいるものの、それは友人スケールではない。ここでのしずかはちゃんと「権力闘争なんだ」ということを理解して出撃を決意している。 何のための戦争なのかをちゃんと理解している pic.twitter.com/9eilt1zlpH

2022-03-09 14:56:35
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齋藤 雄志 @Yuusisaitou

個人的な事情や臆病風に吹かれて出て行けないスネ夫と、事情をちゃんと理解して闘うことを選ぶしずかの対比、ここにしずかとパピの絆の強さが現れている。 お人形さんとしてではなく、一人の友人として、友人が背負っている責務ごとちゃんと理解しているという表現なんである。

2022-03-09 14:56:35