死ぬのがこわくなくなる話 第16話

Twitter上で連載中の渡辺浩弐さんの長編小説をまとめました。
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渡辺浩弐 @kozysan

あなたは死ぬのがこわいですか。死にたくないですか。なら、これを読んでください。ツイッター連載『死ぬのがこわくなくなる話』。今夜は、第16話です。人工冬眠サービスのアルコア社のリポートの、続きから。

2011-08-28 00:42:31
渡辺浩弐 @kozysan

アルコア社に冬眠の予約をしたからといって、いつでも思い付いた時にやって来てこのカプセルに浸かれるわけではない。身体がアルコアに託されるのは、現在の法のもとで正式な死亡宣告を受けた後になる。

2011-08-28 00:42:54
渡辺浩弐 @kozysan

どこかの病院あるいは自宅で、いったん、きちんと死ぬ必要がある。大抵の場合、その直前にアルコアは連絡を受け、脇でスタンバイしていることになる。医師による死亡確認が出た瞬間(といってもアルコアの定義によると死んではいないのだが)、アルコアスタッフはそれっとばかりに作業に取りかかる。

2011-08-28 00:43:32
渡辺浩弐 @kozysan

死体、いや患者の体温を17℃まで下げた状態で、24時間以内に施設に運び込む。できる限り専用車が使われる。

2011-08-28 00:43:58
渡辺浩弐 @kozysan

それからの処置を行う部屋も、見学させてもらった。 http://t.co/ri9YYb8

2011-08-28 00:48:26
渡辺浩弐 @kozysan

病院の集中治療室と同様の風景だ。ただ、中央に設置されているものがベッドではなく小型の浴槽のような箱だというところが決定的に違う。周囲に並んだいろいろな機械や計器から色とりどりのパイプやコードが、浴槽底のクッションに繋がっている。

2011-08-28 00:50:07
渡辺浩弐 @kozysan

第2段階として、ここで、コンピュータ制御によって体温を17℃からさらにゆっくりと下げていく。

2011-08-28 00:57:13
渡辺浩弐 @kozysan

体温が4℃に達したら、そこから、第3段階。0℃に近づくと、いよいよ本当に、体が凍り始める。正確には、体内の液体が固形化していく。と、それが細胞を破壊してしまうおそれがある。それを防ぐため、体液中に細胞の冷凍破壊を防ぐグリセリン溶液が注入されるのだ。

2011-08-28 00:57:29
渡辺浩弐 @kozysan

グリセリンが全身を満たしてからはドライアイスとシリコンオイルで-10℃まで下げる。そして浴槽からさらに本格的なコンテナに移される。そこで36時間かけて-79℃まで温度を下げる。しかる後に、先程の液体窒素カプセルの中に漬け込み、2、3日かけて最終的には-186℃の状態で固定される。

2011-08-28 00:57:58
渡辺浩弐 @kozysan

ブリッジ氏はその全工程を身振り手振りを交えて話してくれた。説明は詳しく、そしてわかりやすかった。個々の作業や機械について質問をしても、かなり詳しく、かつ明快に説明してくれた。

2011-08-28 00:58:22
渡辺浩弐 @kozysan

この組織は特に倫理的な面と科学技術的な面からずっと強い非難を受けている。実際、いくつかの裁判を抱えている。そのほとんどは、冷凍された人々の遺族からの、遺体の扱いについての裁判である。

2011-08-28 00:58:37
渡辺浩弐 @kozysan

アルコアの論理では死んではいないから、つまり”遺体”も”遺族”も存在しないわけで、まさにその定義の違いがことをややこしくしている。

2011-08-28 00:58:51
渡辺浩弐 @kozysan

最近、アルコアの元従業員による『人体冷凍/不死販売財団の恐怖(原題:FROZEN)』(日本語版は講談社から発売)という告発本も出ている。その中では設備の不備、技術力に対する懐疑、そして関係者の奇人変人トンデモぶりについてかなり激しい描写が続く。

2011-08-28 00:59:07
渡辺浩弐 @kozysan

例えば現場スタッフが遺体の頭部でキャッチボールをするなどの行為が暴露されている。なかなか衝撃的な本だ。

2011-08-28 00:59:29
渡辺浩弐 @kozysan

執筆者はアルコアと敵対する立場の人間なので誇張されたものと理解しなければいけないだろうが、思い起こすといくつか、その通り無茶苦茶だったなあと頷ける部分は、あった。

2011-08-28 01:00:07
渡辺浩弐 @kozysan

例えば、清潔さにあまり気を配っていないところ。僕が取材した時にも、ハイテク機器が並ぶ手術室を、ネコが自由に走り回っていた。そしてベッド表面のビニールが、随分と汚れていて、血のような色が点々と残っていることが気になった。それを、ネコがぺろぺろなめていたことも。

2011-08-28 01:00:25
渡辺浩弐 @kozysan

しかしアルコアの志の大きさを考えると、その程度のことは、どうでもいいことかもしれない。なんといっても、いったん死んだとされた人間を、生き返らせるというのだ。そこで清潔だとか不潔だなんてことを気にしているのは、象の体重を量るのに体毛一本ぶんの誤差を気にかけているようなものだ。

2011-08-28 01:01:26
渡辺浩弐 @kozysan

それは未来の夢だ。現在のところ、この技術はまだ保証されていない。凍らせた体を、はたして解凍できるのか。その実験はもちろん行われていない。

2011-08-28 01:01:47
渡辺浩弐 @kozysan

犬の体温をこれに近い方法で第2段階まで、つまり4℃まで下げて4、5時間眠らせ、その後で生き返らせることには成功したということだが、かちんかちんに凍らせた人間とは比較できないだろう。

2011-08-28 01:02:04
渡辺浩弐 @kozysan

法的な問題もある。ここには癌やエイズなど医学が未だ克服していない病に冒された人々のエントリーが多いそうだ。特効薬や治療方法が発明されるまで眠っていたいという希望がそこにはある。そういう人達は、病状が進行する前にさっさと凍ってしまった方がいいはずだ。

2011-08-28 01:02:29
渡辺浩弐 @kozysan

しかし現在の法律下でそれをやると殺人に、もしくは、殺人とほぼ同様の罪状である自殺幇助になる。

2011-08-28 01:03:49
渡辺浩弐 @kozysan

もちろん、再生についても聞いてみた。前出ドレクスラー博士の提唱しているナノテクノロジーによる細胞再生にゆだねることになるだろうという答えだった。

2011-08-28 01:07:32
渡辺浩弐 @kozysan

アルコアのパンフレットには、走査トンネル顕微鏡を使って、原子を並べて書かれた「IBM」という文字の写真が掲載されている。同じページに、極小の細胞修理ロボットのイメージ図が掲載されている。 http://t.co/k1W8xfB

2011-08-28 01:16:06
渡辺浩弐 @kozysan

あ、画像がついっぷるっと横転しました、ごめんなさい。

2011-08-28 01:16:57
渡辺浩弐 @kozysan

解凍についてはあまり心配しなくてもいいらしい。大丈夫。なぜならそれは、とてつもない未来のことだから。とてつもなく発展した技術が、なんとかしてくれるはずなのだ。もし不可能だったら、可能になる時まで待てばいいというだけの話である。

2011-08-28 01:17:57