デストラクティヴ・コード #9

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
1
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アヴァリスはニンジャスレイヤーを見下ろしながら、マガタマを飲み込んだ。ドクン。ドクン。ドクン。アヴァリスの鼓動が屋上全体に、あるいはこの地域全体に、あるいはネオサイタマ全域に、響き渡る。「嗚呼」ニンジャスレイヤーの拳を押さえながら、アヴァリスは独りごちた。「成る程、これが、俺か」

2022-04-21 21:15:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アヴァリスの記憶がいつの時点からのものなのか。それは彼が暮らしたスラムに終始満ちていた霧のように朧だ。己が何なのか判然としないのは不愉快なことだった。とりわけ、わかるようでわからない……半端な実感がぶら下げられているような曖昧さが、常に彼を苛つかせていた。 1

2022-04-21 21:24:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

気づけば彼はそこに居たし、奇妙な力も、共にあった。空にはオクダスカヤのツェッペリンが浮かび、黒コートの者達がしばしば、有能そうな若者をさらいに来た。彼らはオクダスカヤのエージェントで、ニンジャだった。そいつらを相手に、アヴァリスは己の力を学び、肉体の感覚をキャリブレートさせた。 2

2022-04-21 21:28:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

オクダスカヤはザイバツ・シャドーギルドという集団と散発的な戦闘を繰り返していた。行き来するニンジャ達が、ジツに馴染む機会をくれた。捕食の機会を。……ケチなスラムで社のニンジャが行方不明になれば、当然、騒ぎになる。より強いニンジャが調査に訪れ、より強いジツをくれた。 3

2022-04-21 21:33:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そのエスカレーションは何処まで行ったか?最後まで行った。つまり、最後に現れたのがヴァインだった。アヴァリスはヴァインの獣じみた香りに異様なアトモスフィアを感じ取った。暗がりに身を潜め、機をうかがう彼の目の前に、ヴァインは平然と進み来た。そして……額づいたのである。  4

2022-04-21 21:38:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

気味の悪さにアヴァリスの殺意は濁った。「大いなる始祖よ。もったいなき事にございます」ヴァインはアヴァリスを見上げ、震え、涙し、そして、己自身を差し出したのである。アヴァリスは当然のごとくそれを受け入れた。身を屈め、首筋に、鎖骨に牙を埋め、黒い毛皮を裂き、黒い血を、肉を啜った。  5

2022-04-21 21:45:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

それは極めて自然な事のように思えた。アヴァリスはヴァインを喰らい、曖昧な己に、ヴァインの力と、クロヤギ・ニンジャの力と、そして……ディミトリのアイデンティティを重ね合わせ、共有させた。ディミトリ。オクダスカヤ創業者の一族、古城での軟禁がその半生。 6

2022-04-21 21:51:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

オクダスカヤ役員によって中枢から遠ざけられ、人間性を剥奪されたディミトリが最後に頼ったのは、胡乱な古文書「カラテノミコン」に書かれた召喚の儀式だった。それにクロヤギ・ニンジャが応えたのは如何なる巡り合せであろうか。不完全な形でシトカの地に降り立ち、引き裂かれたリアルニンジャが。 7

2022-04-21 21:56:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ディミトリとクロヤギ・ニンジャはひとつになった。それがヴァインだ。ディミトリはオクダスカヤを一族の手に取り戻した。そうだろうか?クロヤギ・ニンジャにオクダスカヤを与えたのでは?否。ヴァインがオクダスカヤを獲得したのである。そして今度は、ヴァインが自らをアヴァリスに与えたのだ。 8

2022-04-21 22:01:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アヴァリスはヴァインの肉を分け与えられ、強大になった。だが、曖昧だった。依然として曖昧だった。影のように。気に入らないことだった。ダークカラテエンパイアのセトがカリュドーンの儀を開けば、当然アヴァリスは赴く事となった。空の玉座?エンパイアを恣にするのはただ始祖カツ・ワンソー也。 9

2022-04-21 22:07:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そして今この時、アヴァリスはマガタマを飲み込み、己のアイデンティティを掴むに至った。晴れやかな気持ちが訪れた。カツ・ワンソーの象徴たるハッポースリケン。ニンジャ始祖の黄金の光は八つの影を落とす。そのひとつであるアヴァリスは、更に今ひとつの影を喰らい、己のものとした。 10

2022-04-21 22:14:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ははははは。俺は俺だ」アヴァリスは頷き、ニンジャスレイヤーを見た。アヴァリスの目は緑の闇を輝かせる。冷たい緑が芽吹き、混沌たる様相を渦巻かせる。フジサンの樹海めいた無限の森の光景に、黒いトリイが連なる。恐らくそのヴィジョンは今、ネオサイタマの全住人の脳裏に焼き付いた。 11

2022-04-21 22:18:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『承服せぬぞ』ウーガダル……サツバツナイトが震え、声を絞り出した。声は二重だった。『汝、始祖にあらず』セトの声。アヴァリスはサツバツナイトの肩に手を置く高位の存在を感じ取る。セトはサツバツナイトにかけられたシャン・ロアの呪いを利用し、サツバツナイトを己に縛り付けたのだろう。 12

2022-04-21 22:22:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「お前らしい回りくどい真似だ、セトよ」アヴァリスは自身の中に融けたヴァインの要素を以て、セトに語りかけた。「お前は儀式を主導し、全て手の内に収めたと思い上がって居たのだろうが、なあに……これぐらいのアクシデントはカリュドーンの常として覚悟していた筈。やるならば、やられもする」 13

2022-04-21 22:28:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『然りだ』セトがサツバツナイトを通して答えた。『マガタマはお前の内にある。最終的にその力を拝領するのはこのセトだ』ゴーン……!ジゴクめいて超自然の鐘が鳴り、大地が鳴動した。周囲のビル群に緑が芽吹いた。まるでアヴァリスの内的な光景を現世に再現するように、緑が、ネオサイタマに。 14

2022-04-21 22:35:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

文明の終わりと再生を早回しにするような異常な芽吹きが、今、この地点を起点として、ネオサイタマ全域に広がろうとしていた。空には煌々とキンカク・テンプルが輝いていた。ニンジャスレイヤーの目は凄まじく見開かれた。その背に縄めいた筋肉が浮き上がり、燃えながら、アヴァリスを押し始めた。 15

2022-04-21 22:41:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「お前の相手は俺ではない」アヴァリスはニンジャスレイヤーを押し返した。頭上に濡れた炎が出現し、ニンジャスレイヤーをめがけ落下した。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはアヴァリスを掴み、投げ飛ばした。濡れた炎が着弾し、屋上を焼いた。アヴァリスは手をかざす。酸の雲が壁めいて生じた。 16

2022-04-21 22:43:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イイイヤアアアーッ!」ニンジャスレイヤーはスリケンを次々に生み出し、酸の雲をめがけ凄まじく投擲した。酸の雲は集束し、ファランクスめいた大盾となってスリケンを受け止め、溶かしてしまった。それをアヴァリスは投げ返した。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは飛来した大盾を殴り飛ばす! 17

2022-04-21 22:48:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

間髪入れず、ネオンの虎がニンジャスレイヤーに襲いかかり、食らいついて、ニンジャスレイヤーを抑え込んだ。アヴァリスは微笑んだ。「がっつくな、獣よ。俺とて狩人だ。いずれ相手をしてやる……俺の番まで生きていたのならばな」そしてメイヘムを見た。「次はお前だ、メイヘム=サン」 18

2022-04-21 22:51:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはネオン虎の胴体を貫き、真っ二つに引き裂いた。そしてアヴァリスをめがけた。だがそこへ割って入ったのはメイヘムだった。「そうだ。貴様の相手は私だぞ。思い上がるな」メイヘムは腕越しにニンジャスレイヤーを睨み、言い放った。 19

2022-04-21 22:56:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……邪魔だ……!」ニンジャスレイヤーは焦げた息を漏らし、メイヘムを睨み返した。メイヘムの肩越し、アヴァリスは踵を返す。「……イヤーッ!」サツバツナイトはスリケンを投げた。アヴァリスは首を傾げてスリケンを躱し、問うた。「それはお前の意志か、サツバツナイトとやら。それともセトか」20

2022-04-21 23:02:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「私は覚悟の上で……この儀式に参加した……!」サツバツナイトは呪いの力に抗い、掠れた言葉を吐いた。「ダークカラテエンパイア……オヌシらの誰一人として……その企みを成就させはせぬぞ……!」「フン」アヴァリスは肩をすくめてみせた。黒いトリイが彼の目の前に現れた。 21

2022-04-21 23:07:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

悠然とトリイをくぐるアヴァリスの背中から数匹の黒山羊が剥がれ落ちた。アヴァリスはトリイと共に消えた。残った黒山羊は呻き声を上げてモゴモゴと集まり、捻れ角を生やしたニンジャの姿を……ヴァインの写身を形成した。「イヤーッ!」「イヤーッ!」襲い来る写身を、サツバツナイトは迎え撃った。22

2022-04-21 23:10:45