岐阜の山村に生きた無名の左官職人の作品が凄すぎた。

もうこんな作品を作れる人はいないだろうな。
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道民の人(廃墟・ひなびた風景) @North_ern2

・トクサの龍 岐阜県のとある峠で、龍が飛び出た蔵を見かけた。まるで壁から突き抜けたようなそれは、かつて左官職人がコテと漆喰で作った鏝絵だ。ふつう鏝絵はレリーフ程度だが、これほど立体的な造形のものは珍しく、作った人は相当腕が良かったと思われる…というわけで探した(続) 273/365 #斜陽暦 pic.twitter.com/snngCig2uF

2022-05-31 22:01:10
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道民の人(廃墟・ひなびた風景) @North_ern2

まず家の人に話を伺うと「ワシの爺さんの話だが、“トクサ”って江戸時代生まれの職人が作ったと聞いた」と教えてくれた。その後、郷土資料類を取り寄せて片っ端から読むと、地元の学芸員の手記に1件だけ記載があった。天保(1840年頃)生まれの左官職人で、80代まで職人を続け90代まで生きた人だという。

2022-05-31 22:10:37
道民の人(廃墟・ひなびた風景) @North_ern2

本当の名前は「とくやす」で、トクサは「とくさん」の訛りらしい。トクサは大正末まではコテを握っており、蔵の家の人の年齢からみて龍は明治末~大正頃の作だと考えられる。また資料によれば、この他にも近辺に龍がいる蔵を3つ仕上げた口伝があると記述があった。…ぜんぶ見つけたら願いが叶うやつ?

2022-05-31 22:21:10
道民の人(廃墟・ひなびた風景) @North_ern2

トクサはこの峠の近くの山村で生まれ、生涯そこで暮らした。奥さんと二人一組仕事の左官職人だったという。…しかし、東海地方の山深いこの地に、ここまで高い技術力と造形力を持った職人がいたという事実と、そんなに凄い人の記録が口伝以外ほとんど残っていないというのは実に惜しく感じる。 pic.twitter.com/wOXY8M2p3d

2022-05-31 22:35:30
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道民の人(廃墟・ひなびた風景) @North_ern2

漆喰に竹で骨組みを作り、針金でヒゲや角、脚を、眼球はガラスを使ってリアルな質感を持たせている。円の土台には波文様が施されており、まるで本物の龍が壁(水面)から飛び出して来るようなうねりと表情の迫力がある。この造形を、トクサはコテだけで作り上げたのだ。…本当に人間か? pic.twitter.com/QKc3vsj6rP

2022-05-31 22:52:12
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昔は当然だったのかもしれないが、美術専門の勉強なしで、左官とコテの修行でここまで立体的で洗練されたものが作れるものなのだろうか。その昔、一時でも仏像やら人形やらを彫っていた身から言えば…三次元造形ができる人は本当に人間を超えていると思っている。心の底から尊敬する。

2022-05-31 23:01:51
道民の人(廃墟・ひなびた風景) @North_ern2

そもそもなぜ蔵に龍なのかというと、龍は古来から水や雨に関係する瑞獣と思われてきたからだ。木造建築で一番恐れられたのは火災で、昔は蔵の屋根瓦や妻壁に水や龍の字を書いて火除のまじないとした文化があったのだ。でも、ここのように龍の姿を形として、しかも立体としてあしらう例はかなり珍しい。

2022-05-31 23:12:30
道民の人(廃墟・ひなびた風景) @North_ern2

「龗」という漢字がある。雨冠に龍で、水の神様を表す文字だ。「優れた芸術には本物の魂が宿る」、そんな表現を聞くことがあるけれど、この鏝絵はまさに龍神の魂が降りるほどのものなのではないかと、たまたま雨が降りしきるその峠道で考えていた。 (了) pic.twitter.com/VqO9Ao5pf1

2022-05-31 23:44:49
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