- yorishirosama
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▼ 安物のテーブル、張りっぱなしのポスター、建て付けの悪いショーケース。 馬鹿笑いと間抜けヅラ、聞き取りづらい早口が飛び交う、場末のカードゲーム・ショップ。 そんな雑然とした、非優良店の片隅で。 心の底から楽しそうに、ゲームに興じる少女が二人――
2022-06-11 00:58:06「――いっけぇ! 螺旋角の巨人《スパイラル・ジャイアント》! プレイヤーに攻撃だよ!」 「くっ、ダメだ! 防げないー! 通すよ!」 「やったぁ! 喰らえー! [召雷のホーン・スパイラル]!!」 「ひゃぁぁぁぁ!!」 [2P-HP:0000] [WINER:1P_RICHE] [LOSER:2P_MAKOT]
2022-06-11 00:58:39控えめにのけぞって、悲鳴を上げて見せる黒髪の少女。 がっくりと項垂れて机に顔を伏せてしまうと、うーうー唸って悔しさをにじませる。 もう一人の少女はえっへんと胸を張り、高めに結んだ金色の髪がふわっと揺れる。
2022-06-11 00:59:49「負けちゃった……リセちゃん、ずいぶん強くなったよねー」 「うん、お姉ちゃんと特訓してるんだー! 次の大会、優勝狙えちゃうかも!」 「そうなんだ……いいなぁ。 うち、母さまも父さまも理解ないし、自分だけでやらなきゃいけないから」
2022-06-11 01:00:27「あ、そうだ!」 金髪の少女は、何か思いついたように手を叩く。 「よかったら、ウチで一緒に特訓しない? お姉ちゃんも、マコちゃんとだったら大歓迎だよ!」 「うーん……」
2022-06-11 01:01:43リセちゃんと一緒に頑張るのはきっと楽しいだろうけど……でも、やっぱり負けっぱなしは悔しいなあ。 もう少し、自分で頑張ってみようかな。 などと少女は決意し、首を横に振ることにした。
2022-06-11 01:02:12「いいよ、もうちょっと自分で頑張ってみる」 「そっか、じゃあまたね、私今から塾なんだ」 「うん、対戦ありがとうございました!」 「対戦ありがとうございましたー! えへへ、じゃあねー」
2022-06-11 01:02:44金髪の少女が去ったあと、黒髪の少女は一人ため息をつく。 「リセちゃん、本当に強くなったな……」 始めたのは同じ時期。 対戦経験も、ほとんど同じようなもの。 お小遣いだってそんなに差は無いし、カードの強さだってそんなもの。 それなのに――
2022-06-11 01:04:01そんなもやもやした思いを抱えながら。 とぼとぼと、少女の足が向かうのは――店の片隅。 乱雑に積み上げられた、ストレージ・ボックス。 大した値段をつけられない、安物のカードが詰められた、いわば投げ売りのワゴンセールだ。
2022-06-11 01:05:33とはいえたまには強いカードが混じっていることもあるし、少ない小遣いでカードを探すには最適の場所だろう。 幸いなことに、いつもの――掘り出し物狙いで居座っている太った男は、今日は不在のようだ。
2022-06-11 01:06:35あのお兄さん、ちょっと怖いんだよね……などと思いつつ。 少女は手始めに、箱の中から一束のカードを引っ張り出した。
2022-06-11 01:07:30「……あれ? こんなカード、あったっけ?」 一枚目のカードは――いつも少女たちがやっているゲームのカードのようだ。 だが少女は首を傾げ、うーんと悩み込んで答えが出ない。 「知らないカードだ……でも、何だかすごく、欲しい……気がする」
2022-06-11 01:08:31そう大して強いカードには見えない。 ありふれた能力、よくも悪くもないコスト、そこそこ程度の攻撃力。 おおよそ、欲しいと思わせる魅力に欠けている。そう言わざるをえない平凡なカード。 だが少女は、そのカードに――どこか、惹かれるものがあった。 ……それが、"何"なのかも知らずに。
2022-06-11 01:10:22「おにいさん! このカード、買いたいんですが」 「はい! ストレージボックスのカードなんで、一律で――ああ、全部50円になります」 「あっはい、えっと……」 可愛らしい子猫のお財布を開け、中の硬貨を数える少女。 「(良かった、これならお小遣いでも足りる!)」
2022-06-11 01:12:36幸いにも十分な額を持っていたらしい。 少女は安堵し、店員に硬貨を差し出す。 「はい、これでお願いします!」 「ありがとうございましたー!」
2022-06-11 01:13:09いそいそと、帰路を急ぐ少女。 やがて自宅にたどり着くと、食事とお風呂を済ませ――寝る前に、買ったカードを改めて確認することにした。
2022-06-11 01:13:29「えっと、このカードの効果は……パワーは……コストは…… ……うん、普通。そんなに強いカードでもないのかも」 じっくりとゆっくりと、カードのテキストを読み込む少女。 やはり、大して強いことは書かれていないらしい。
2022-06-11 01:14:31「うーん……でも、せっかく買ったんだし、デッキに入れておこっと」 少女はカードをケースにしまい、ベッドに横たわると。 照明の電源を切って、布団を被り、すうすうと寝息を立て始めた――
2022-06-11 01:15:29――少女が、寝静まった夜。 彼女のデッキケースが、明かりもないのにゆらりと、怪しげな光を放った。 もちろん、それを知るものは、誰一人としていない――
2022-06-11 01:16:05「……妖刀スメラギでプレイヤーアタック、これでトドメ」 「あうう、負けちゃった……」 [1P-HP:0000] [WINER:2P_MAKOT] [LOSER:1P_RICHE]
2022-06-11 01:18:07少女のデッキに、お気に入りだったはずの可愛いカードは影も形もなく。 代わりに入っていたのは、ただひたすらに強力なカードばかり。 いわば、勝つためだけのカード・デッキ。 そういうの、ちょっと嫌だなぁ……そう言っていたはずの彼女は、どこか異様な雰囲気を漂わせていた。
2022-06-11 01:19:54「いいけど……マコちゃん最近雰囲気変わったよね、何かあったの?」 「何かって……何が? あー……ふふ、失恋とかはしてないよ?」 「もうっ、私のことはいいのっ……忘れてって言ったのにぃ」 少女は笑う。 その笑みには、どこか――妖しげな、色気のようなものさえ漂う。
2022-06-11 01:22:09