molbio08先生、オミクロンの変異についてレクチャー

BA.2からBA.4とBA.5に移行する際に免疫回避とはどういうことか、詳しく説明しています。
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molbio08 @molbio08

専門分野は分子腫瘍学・分子生物学。抗体を活用した研究を行ってきました。腫瘍免疫は重要なテーマなので免疫学も守備範囲。大学で教えています。

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図はオミクロンBA.4とBA.5のスパイクタンパク質の突然変異マップです。武漢型と比べてどこが変わったかを図にしたものです。BA.2が現在国内で優勢ですが、それがこれらに置き換わるのではという予測もあります。それが実現するかどうかはさておいて、免疫回避能力が高まる仕組みについて説明します。 pic.twitter.com/4rk7UXKlp2

2022-04-24 06:06:47
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参考までにアミノ酸一文字表記を貼り付けておきます。先ほどの図の下にあるのがBA2型に加わった変異です。69-70delというのは69番目と70番目のアミノ酸がなくなったという変異。L452 Rというのは452番目のアミノ酸が本来はロイシンだったのがアルギニンに変化したということです。F486V も同様です。 pic.twitter.com/dNXdczrQ01

2022-04-24 06:29:30
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Q493というのはBA 2では変異していたものが元に戻ったというものです。つまりBA 2と比べるとスパイクタンパク質の変異は4箇所ということになります。ここから免疫回避というのはどういうことかについて説明します。抗体にせよT細胞による細胞性免疫にせよ免疫系に認識されるのは抗原の一部です。

2022-04-24 06:32:55
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抗体が認識する部分のことをエピトープと呼びます。抗体は抗原全体を認識して結合するわけではなく、抗原の比較的小さな特定の部分だけを認識して結合します。これは抗体ができる仕組みや細胞性免疫ができるか仕組みを考えれば理解できます。抗原タンパク質は断片化された状態で抗原提示されるからです

2022-04-24 06:42:19
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抗原タンパク質がマクロファージなどに貪食された後で短い断片に分解されて細胞の表面に突き出ているMHCクラスII タンパク質の先の部分に結合した形で提示されるのが免疫反応の出発点となります。ここで問題になるのはヒトの体内に元から存在しているタンパク質由来の断片と同じかどうかです。

2022-04-24 06:46:04
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もしもスパイクタンパク質由来の断片が提示されて一連の免疫反応が進む時に、その断片がヒトタンパク質にも存在するものであれば結果的にできた抗体は体内に元からあるタンパク質と結合してしまいます。また、細胞性免疫がヒトタンパク質と共通の部分に対してできると大変なことになります。

2022-04-24 06:48:40
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間違って体内に元から存在するタンパク質にも存在する断片に対して抗体ができると自己免疫疾患発症です。のようなことがおきないように免疫寛容という仕組みが存在していて、例え異物由来の断片であっても、その断片がヒトタンパク質と同じであれば抗体ができないようになっています。

2022-04-24 06:52:58
molbio08 @molbio08

と言うことは、スパイクタンパク質が断片化された時に、その断片がヒトタンパク質と共通している部分とそうではない部分にわかれることになります。さらに、スパイクの断片で全くヒトタンパク質と似ていないものもあれば10個のアミノ酸中9個がヒトタンパク質と同じものもあることが想像できます。

2022-04-24 06:56:16
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抗体ができやすいのはヒトタンパク質と全く異なる構造、アミノ酸配列を持つ部分です。一方で、ヒトタンパク質と同じだったり似ている断片には抗体ができず細胞性免疫も形成されないことになります。ここまで来ると免疫回避のメカニズムが理解できます。変異の方向が見えてきます。

2022-04-24 06:59:48
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つまりスパイクタンパク質の中でヒトタンパク質と異なる部分に変異を導入してヒトタンパク質と似たものに変えていけば抗体ができにくくなります。スパイクタンパク質に変異が次々に生じてヒトタンパク質に接近していくプロセスが免疫回避のプロセスです。ここで最初の模式図を見てみましょう。

2022-04-24 07:04:41
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図のオレンジの部分がRBDという部分です。ここが細胞のACE2受容体と結合して細胞にウイルスが侵入して一連の反応が始まります。オミクロンが異常なのはこの部分に変異が集中していることです。RBDに存在していた抗体ができやすい部分がかなり消滅したのがオミクロンです。

2022-04-24 07:08:42
molbio08 @molbio08

RBDに二つの変異が加わったのがBA 4、5です。L452Rという変異はデルタ型に特徴的な変異でした。ACE2受容体のE35という部分、これはグルタミン酸でマイナスの電荷を持っています。こことスパイクタンパク質の452番目のアミノ酸が接近することはわかっています。ここは最初はロイシンでした。

2022-04-24 07:18:59
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ロイシンがアルギニンに変化することによってプラスの電荷を持つようになります。この変異によってデルタ型の感染力が高まったわけですが、構造生物学的にはBA 4の方がBA2型に比べてACE2受容体に結合しやすくなったことは言えると思います。Q493Rは元に戻りました。

2022-04-24 07:25:36
molbio08 @molbio08

Q493Rは一部のモノクローナル抗体治療薬を無効化した変異でしたがオミクロンでは多くの変異が入っているのでこれが元に戻っても大きな影響はなさそうです。F 486V変異ですが、これはフェニルアラニンからバリンへの変化です。電荷の変化はありません。免疫回避には貢献するかも知れません。

2022-04-24 07:33:04
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人類が犯した最大のミステークは武漢型抗体を誘導するmRNA型生物製剤の大規模な接種キャンペーンを行ったことです。多くの人が武漢型スパイクに対する抗体を持ってしまったために、それが選択圧となって免疫回避型の変異型ウイルスが生まれて広がっていく。抗体に負けない変異型が広がることになります

2022-04-24 07:37:04
molbio08 @molbio08

抗体に負けない変異型というのはスパイクタンパク質の中で抗体ができやすい部分が変化したものということです。抗体ができにくいウイルスが増えていくとウイルス感染による集団免疫の達成が遠のいていきますがN、MそしてEというタンパク質、そしてスパイクのNTDには変異がまだ少ない。

2022-04-24 07:42:10
molbio08 @molbio08

ウイルスは感染を経験した人でも再感染するように変化していくでしょうが細胞性免疫を持つ人が増えていけば感染しても軽症で終わるようになっていく。ワクチンで感染を防ぐというのは今後さらに不可能になるでしょう。感染しても重症化しなければ、それでいいというように対応を変えていくべきです。

2022-04-24 07:46:16
molbio08 @molbio08

極端に言うと抗体が有効なのはスパイクだけですが、細胞性免疫は全てのウイルスタンパク質に対して成立します。スパイク抗体による防御は忘れるべき時期が来たと思います。感染による細胞性免疫の確立が今後のポイントになっていくでしょう。こんな状況で三回目、四回目、ふざけているとしか思えません

2022-04-24 07:51:46
molbio08 @molbio08

コロナに対する防疫戦略を大幅に見直すべき時期が来ています。感染拡大を防ぐことを諦めた韓国はいいモデルになると思います。こちらの状況はまたレポートします。

2022-04-24 07:54:34