ストーリー第8回目 共感か驚異か
0.はーい、chimumuだよ。今日は本当はサボるつもりだったけど、いつものように映画のストーリーについてつぶやいてみるよ。
2010-05-07 00:02:491.これまでは、技術論の基本中の基本をつぶやいてきた。物語を起承転結でなく三つのパートで考えようということ。物語はとどのつまりは“行って帰る”ってこと。その際に野球のダイヤモンドをイメージしろ。そして<日常→非日常→日常>の旅から帰還した時、主人公は変化している筈だ、なんて。
2010-05-07 00:04:112.今日はちょっとちがう。うーん、今日の話はなんというかね、どのような映画を目指すか、ってことだ。物語の終わりに主人公は変化しているはずだと僕は言った。今日は、もう一つ踏み込んで、あなたの映画を観た後、観客は変化するだろうか、ということを話してみたい。
2010-05-07 00:05:413.これはかなり高度な話だ。けれど、こんなに儲かっていない映画業界にインディペンデントから参入するんだったら、金は儲かってなくても志は高くいこうじゃないか。
2010-05-07 00:06:244.これはいい換えると「あー、面白かった」だけの映画を目指すのか。それとも映画館を出た後、2時間前に観た街とは同じ筈なのにどこか違って見えてしまうような映画を目指すのかってことだ。
2010-05-07 00:08:035.ただこれは、アート映画を目指すのか商業映画を目指すのかっていう話ともちょっとちがう。とにかくハチャメチャなナンセンスコメディを観た後、「あー、世の中、確かにこんなに風にデタラメだよな」と思うってことはありうるよね。
2010-05-07 00:09:086.また「あー、面白かった」だけを目指していけないわけじゃない。実際はそれをやることだけでも大変なことなんだ。これを徹底的にやっているうちに、結果として、観客が変わらざるを得ないような映画を作ってしまっているなんてこともある。
2010-05-07 00:11:097.けれど、映画館の外の光を浴びたくらいでは簡単には洗い流せない澱みたいなものを観客の心に残したいと決意して撮る、これもまた素直なことだと思う。
2010-05-07 00:12:278.では、そういうものはどうやればできるのかというと、僕にもわからない。少なくとも、いままでの僕のつぶやきの中には明確な答えは、ないんだ。
2010-05-07 00:13:069.これまでは大工の見習いに、金槌や鋸の持ち方を話してきたようなもんだ。それで何を作るのかはそれぞれの作り手にまかせるよ、という前提で。でも今日は、ここから一歩踏み込んで、どんな映画を目指すのかについて話してみようと思う。
2010-05-07 00:13:5810.さっきも言ったように「ここはこうしろ」とは僕も言えない。そこを考えるのがものを作る人間だろう。また、凄い奴ってのは考えないでやすやすと(少なくともそう見える時がある)そういうものを作ってしまう。
2010-05-07 00:14:5611.ただ、齢を重ねると、やっちゃいけないことはなんとなくわかってきた。今日はそれを話そう。
2010-05-07 00:18:0012.もし、あなたの映画を観た観客に、映画を見終わった後もその心に拭いきれない何かを残すような映画を撮りたいならば、共感だけで映画を作ってはいけない、と僕は思う。
2010-05-07 00:18:2313.共感とは「そうだよね」だ。つまり相手があらかじめわかっていることを作り手が再確認して互いに癒やしあうことだ。けれど、本来、表現というものは、思いもよらない一撃を作り手が受け手にぶちかますことなんだ。この時必要なのは、共感ではなく驚異だ!
2010-05-07 00:21:0414.このことを映画で説明するのは難しいが、非常に近いことを短歌の世界で、歌人・穂村弘が言及している。それあやかりながら説明しよう。(以下、『短歌という爆弾』穂村弘著より、chimumuが要約&翻訳)
2010-05-07 00:22:5817. 多くの人は例えば「貝殻」なんかでここの部分を埋めるんじゃないかな。するとどんな歌が出来上がるか?
2010-05-07 00:25:3619.これはみんなが体験したことがありそうで「そうだよね」ととりあえず言いたくなるような感情に則している。これが「共感」だ。
2010-05-07 00:27:2220.これに対して、歌人・俵万智はどのような言葉を紡いでいるか? さあ、詠んでみよう。
2010-05-07 00:29:2022.えー!?って思わない? 飛行機の? え、折れた翼? いったい何故? どんな二人なんだ? というような胸騒ぎが起こりはしないかい? これが「驚異」なんだ。
2010-05-07 00:30:4023.若い人の脚本を読んだり、自主映画を観たりしていると「共感」だけを創作のよりどころにしている作品が多いことに僕は不安を覚えてしまう。
2010-05-07 00:35:1124.それは、ある意味で今の若い人たちの厳しい立場を表しているような気もしないではない。いつも場当たり的に空気を読んで、共感をよりどころにコミュニケイションを取らざるを得ないような状況にいるような気もする。
2010-05-07 00:35:26