石工の魔女様と伴侶のガーゴイルさん達・白磁の天使と雷の乙女

伴侶を彫りまくり命を吹き込みまくる迷惑な魔女さんのえっちなハーレムの奴です。二話目です。
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屑望喜納子 @motikinako_kuzu

天使の羽根は何年に一枚も見つからない。暗闇では仄かに自ら光る。暖かな輝きを湛える不思議な羽根。地上に降り来たる天使の忘れ物。神の端末が地上に落とした慈悲だった。

2022-07-05 18:23:45
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

その人類にもたらされた慈悲を私欲で何百枚も独占した者が居た。時には異常な財力で。時には暴力で。時にはただ盗み。時にはその奇跡の御業と引き換えに。

2022-07-05 18:26:52
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

奇跡の御業を気まぐれにもたらすその者は石工の魔女と呼ばれた。

2022-07-05 18:28:59
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

集めた天使の羽根は蝋で丁寧に固められる。姿無き天使の翼によく似た、いやそれよりもなお美しい翼を持つ、白磁の乙女。天使よりも天使らしい、白磁の肌持つ真白の少女。当然だが生きている。石工の魔女は自ら彫りあげたものに命を吹き込む事が出来た。あるいは命を引き出すことが。

2022-07-05 18:30:55
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

天上の美よりなお高き美。石工の魔女の工芸は神の域に至っていた。至高にして究極。故に命が宿る。最早その御業は魔そのものであった。そうして彫られた石像の少女たちは皆、魔女の伴侶として命を持つ。

2022-07-05 18:32:30
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

白磁の天使はその中でもいっとう、心優しい性質であった。全くの他人のために心を痛め悲しむことを知る、魔女の伴侶には稀有な性質であった。魔女自身は全然持たない性質でもあった。魔女にとって重大事は工芸と伴侶と、あと少しの事しかない。

2022-07-05 18:33:47
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

白磁の天使は魔女の伴侶には珍しく、石工をするための魔女の暴虐(つまり、天使の羽根を無理に集めたりといった)を止めようとし、止めることができる存在であった。とにかく優しい少女だった。

2022-07-05 18:35:53
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

当時、人間達の間では規律と雷霆の神が崇められていた。実在は問題ではない。実在する神は滅多に人の世界に干渉はしないものだから。何かをするということは何かをしないということの逆、すなわち不可能の証明になるからだ。古い神こそ、その完全性のためになにもしないことが多かった。

2022-07-06 06:49:27
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

だから人々は神話から、つまり口伝から神々を崇めた。人類の予言者が語る神々の姿を崇めた。直接神々を見ることは出来なかったからだ。人の世界に直接手を触れるのはよほど若い神か、分別の無い神だけだった。

2022-07-06 06:50:35
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

故に天使が必要とされた。天使は神ではなくそれに仕える者達。神は完全性のために動かずとも、天使達は不完全であっても構わないからだ。それはあくまでも御使い。天の慈悲を代行する天の機構。天が遣わす偶像だった。

2022-07-06 06:52:13
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

白磁の天使は、天ではなく魔が作り出した、という違いこそあれ、しかし当時の人々には天の使いとして受け入れられていた。当人は顔を赤らめて否定をしたものの、しかし人々はその比類無き神通力と、何よりその優しさから、白磁の天使を受け入れ、天の使いとして認めていた。

2022-07-06 06:53:34
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

白磁の天使は、魔女の伴侶には珍しく、積極的に人間に関わりたがる性質があった。魔女が居を構える山中の麓の、まだ出来たばかりの集落に頻繁に出かけ、人々の代わりに丸太を運び、石を切り出し、怪我人を癒した。

2022-07-06 06:55:32
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

彼女には癒しの力があった。それは如何なる魔術でもたどり着けない境地であった。癒しとは、単なるエネルギーで解決する問題ではなかったからだ。まだ生きるべき定めの命を生かし続ける、運命を遂行する力が癒しの本質であった。

2022-07-06 06:56:49
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

つまるところ、彼女の天使としての力は本物であった。魔が作り出したにせよ、蝋で固めた翼にせよ、その全てが奇跡に等しい石工の魔女の業によって作られている以上、その身にもまた奇跡を帯びるのは当然。白磁の天使が翼を広げると民は美しさにため息を吐き、柔和に微笑むと安堵に心安らげる。

2022-07-06 06:58:56
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

だからだろう。彼女が魔であることを知る人々には、魔でありながら本物の奇跡を持つ、ということが知れてしまったのは。

2022-07-06 06:59:39
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

当時、人々の間では規律と雷霆の神が崇められていた。人界にそれが存在しないとしても。だから神の実在を求める人がいるのは当然とも言えた。いないからこそ求めるのだから。未分化な人類を規律で導き、火をもたらす雷霆によって人々の文明を拓き、守る者。

2022-07-06 07:01:45
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

実在しないものを実在させるには、本物の奇跡が必要だった。

2022-07-06 07:02:12
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

白磁の天使をとらえる手順はとても簡単なものだった。雷霆の神の信徒が病に倒れるふりをするだけで白磁の天使は空より舞い降りて、苦しむ信徒の頭を冷たくも滑らかな膝にのせてやり、額に手を当てて癒しの奇跡を使うのだから。

2022-07-06 09:51:44
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

奇跡の源である、天使の翼を手にいれることは、野を飛ぶ鳥をとらえるよりも容易いことだった。

2022-07-06 09:52:14
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

その日、白磁の天使は魔女の居城に飛ばずに帰ってきた。ぽろぽろと大粒の涙をこぼし、無惨に片翼をもがれた状態で。

2022-07-06 09:53:25
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

居城に住まう無数の乙女の像が語りかけても、ぼくは大丈夫です、とけなげに答えた。何をされたか答えれば必ず姉妹達は報復をするだろうと思ったからだ。その報復は壮絶であり、人の命などその暴威の前には些末なものであったから。

2022-07-06 09:54:26
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

白磁の天使は自らの翼をもいだ乱暴者達の命でさえ慈しんだ。泣いているのはただ、魔女より与えられた至高の美が損なわれたから。白磁の天使の片翼は無惨にもがれ、もはや飛ぶことさえ叶わなかった。

2022-07-06 09:55:27
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

魔女が与えた完全性は失われた。そうして白磁の天使の奇跡も損なわれた。

2022-07-06 09:55:52
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

白磁の天使は、美しさを損なった自身を恥じ、人前にでなくなった。それは魔女自身にさえであった。魔女は変わらず白磁の天使を愛そうとしたが、白磁の天使は乱暴者の名を挙げる事はなく、ただ一人閉じ籠り、泣くばかりであった。

2022-07-06 09:57:07
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

人里に尽きる事なき雷雲が満ち、天使の片翼がもたらした奇跡が満ち、大いなる偽神がもがれた片翼の代わりの奇跡を人々にもたらし始めた頃。魔女の心の内にはふつふつと激情が蓄積し始めていた。

2022-07-06 09:58:46
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