-
motikinako_kuzu
- 7936
- 11
- 0
- 0
![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
当時、人々は規則と雷霆の神を崇めていた。かつては偽りであり実在しなかったその神は、もがれた片翼に宿る本物の天使の奇跡を引き出した予言者によって降臨させられた。
2022-07-06 09:59:59![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
予言者には魔術の素養があったが、それは信仰に費やされた。無数の天使の羽根から引き出された奇跡は、予言者の支配を離れ、場に満ちる信仰心を拠り所とし、雷雲を自らに編み込む。
2022-07-06 10:01:05![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
そうして偽りながら、独立した、一つの神が生まれた。天使の羽より引き出された奇跡は自らの形を得て、信仰を集め、より力を強めた。偽りより生まれながら、それはもはや力の点ではまことの神に迫っていた。
2022-07-06 10:02:26![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
雷霆より産み出された火が人里を照らす。平等なる法が人里を守る。人類は急速に発展した。雷で鍛造された鉄を振るう人類は、その影で天使の翼をもいだ者達が居たことを知らなかったが、大半の人々はいつしか訪れなくなった天使の事を思いさえしなかった。
2022-07-06 10:03:58![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
繁栄を極めたある日。激情をその眼に湛えて、魔女が人里に降り来たった。乙女の像を一人もつれることなく、その身一つでやってきた。天使は何をいうこともなかったが、それでも人里の繁栄と神の降臨を見れば、何があったかは明らかであった。
2022-07-06 10:05:49![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
里の中心に作られた鉄の宮殿が偽神の座であった。 魔女は単身で空から降り来たった。 仕え人達は空より降り来る人等見たことがなかったのであわてふためいたが、神が一言「控えよ」と言うと、平伏して引き下がった。
2022-07-06 12:04:30![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
神は当然魔女の存在を把握していた、自らの出自も、自身が偽神であることも。しかし生まれ落ちてより数多の稲妻を喰らい膨れ上がった自身の力はもはや、自身の元となった白磁の天使はの翼を越えていることを了解していた。偽神は天使の翼から引き出された奇跡であったが、成長する奇跡であった。
2022-07-06 12:06:26![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「不遜であるぞ」まるで鉄のような質感の肌の巨人は言った。それが神の姿であった。鉄で出来た巨大な男。その全身には常に電流が流れている。偽神は言った。「余の前に膝をつけ、魔女よ」
2022-07-06 12:08:09![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
魔女は何も言うことなく神を見据えた。瞳にはこの上ない激情だけが見て取れる。 「仇討ちか? それならば筋違いというものだ。余が生まれた経緯は理解している。しかし罪があるとすれば魔女よ、お前の作品を襲った暴漢にであろう。その後に生まれ落ちた余にではない」 魔女は何も言わずに神を見た。
2022-07-06 12:09:59![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「もう一度言う。不遜だぞ、魔女よ。余は最早神として、この地の人類を庇護下に置いている。お前も頭を垂れ、余の庇護を求めるが良い、その権利を余はお前にも等しく与えよう」
2022-07-06 12:11:19![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
仇討ちは既に完了している。魔女と彼女の伴侶達は当然の事として、天使の翼をもぎ、美を損なった不届き者達を白磁の天使が帰ってきた晩の内に既に「処理」していた。
2022-07-06 12:13:59![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
だから魔女が雷霆の神に向けた感情は、殺意でも、憎悪でも、嫌悪でもなかった。彼女にとって重大事は工芸と、伴侶についてと、その他少しの事しかない。彼女は結局工芸の事しか頭にないのだ。
2022-07-06 12:14:56![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
掴んでも掴んでも溢れる稲妻を、如何なる魔術によってか、魔女は確かにとらえた。輪郭があるものは全て魔女にとっては工芸の素材でしかない。 偽神は初めて表情を歪ませた。 「ッ……! 魔女よ、貴様!」 魔女は事もなげに言った。 「あなたの造形は醜い。だから興味がない」
2022-07-06 12:17:38![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
魔女にとって偽神などどうでも良かった。しかし簒奪された神秘より生まれた、偽神の尽きる事ない雷霆が、ただそれだけが魔女の興味を引いた。如何なる殺意よりも憎悪よりも強い創作意欲を沸き立たせた。 醜い形に整形された稲妻を哀れみさえした。美しく、彫り直さねばならぬ。
2022-07-06 12:18:48![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
それだけだ。それだけが魔女の望みだった。だから、口に出した以外の秘された望みも野望も何もなかった。美しく彫り抜く、それしか魔女には重大事はなかった。
2022-07-06 12:19:37![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
神は表情を歪め、魔女との間で稲妻の綱引きをした。 が、それは一日と続きはしなかった。 尽きることない偽神の雷霆は、尽きることこそなかったが、容易く盗み取られた。
2022-07-06 12:20:32![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「ーーヒ、ヒヒ」 盗み取られた稲妻が美しい乙女の形を取った。 形なき物でも、それに輪郭があれば貴賤無く彫りあげる工芸の異能。 魔女は頬を恍惚に染め、稲妻に人の形を与えた。 「イヒ、ヒ、ヒッーーー!」 強気の表情の乙女が、哄笑をあげながら、生まれ落ちた喜びに雷鳴を轟かせる。
2022-07-06 12:24:00![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「き、さまーーー!」 偽神は奪い取られた稲妻を奪い返そうと手を伸ばした。 それはもはや魔女には醜い鉄の塊でしかなかった。 「のこりは、もういらない」 魔女が言うと、生まれ落ちたばかりの電気の乙女が偽神に飛びかかった。
2022-07-06 12:25:12