【サル痘ウイルスとワクチン接種】いまわかってること

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サル痘ウイルスの特徴

出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

サル痘ウイルスの増殖には興味深い特徴があります。一般的に人の間でウイルスの感染が広がる際には、1人の体内で細胞から細胞へ感染が広がるフェーズと、人から人へと感染が広がるフェーズがあります。サル痘ウイルスとその仲間は、2つのフェーズで違う形態のウイルス粒子を作ります。→

2022-07-27 18:36:52
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

細胞内成熟ウイルス粒子(intracellular mature virus:IMV)は感染細胞中にとどまり、細胞が壊れた時に外へ放出されることで他の人へ感染します。細胞外エンベロープウイルス粒子(extracellular enveloped virus:EEV)は宿主の細胞膜をまとって細胞から飛び出し、他の細胞へ効率よく感染します。→

2022-07-27 18:37:58
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

感染細胞内で作られるウイルス粒子の多くはIMVで、EEVは5〜20%ほど。しかし体内の増殖で重要なファクターとなるのはEEVで、治療薬はEEVの生成を防ぎます。ちなみに新型コロナウイルスではこうした粒子の使い分けはなく、一口にウイルスといってもその増殖や感染の方法は全く違うことがわかります。

2022-07-27 18:43:13

治療薬は?

出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

サル痘の治療薬として、テコビリマットという天然痘治療用の飲み薬が国内でも6月末から特定臨床研究の枠組みで使えるようになっています。テコビリマットは2018年に米FDAで承認された、史上初の天然痘治療薬です。

2022-07-26 17:25:35
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

テコビリマットはもともと、天然痘のバイオテロに備えて開発された薬です。天然痘は1980年に撲滅が宣言されましたが、2001年の米国同時多発テロ事件以後、もしかの場合に備えて治療薬の研究が盛んに行われるようになりました。

2022-07-26 17:27:31
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

テコビリマットは感染細胞内で増殖したウイルスが細胞の外へ出ていくのを阻害します。抗ウイルス薬は感染後なるべく早いタイミングで使わないと効果を発揮できないため、そうした意味でも感染の疑われる人が早く診断を受け、治療を受けられるようにすることが大事です。

2022-07-26 17:37:34

どうなるワクチン接種

出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

金曜に厚労省の専門家部会で、天然痘ワクチンのサル痘予防への使用承認が了承されました。了承されたのはKMバイオロジクスの乾燥細胞培養痘そうワクチンLC16「KMB」です。このワクチンに使われているワクシニアウイルスのLC16m8株は、半世紀前に日本の研究開発で生まれました。→

2022-07-30 18:12:48
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

天然痘ワクチンには天然痘と近縁で弱毒な「ワクシニアウイルス」が使われています。LC16m8は実験室で継代培養し、さらに弱毒化したワクシニアウイルスの系統です。LC16m8は千葉県血清研究所で1960〜70年代にかけて開発されました。当時の既存ワクチンより副反応の低いワクチンの実現が目標でした。→

2022-07-30 18:13:47
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

開発には長い時間がかかりましたが1973〜74年に約1万人で接種後副反応の調査にこぎつけました。発熱率は7.7%で、WHOの天然痘撲滅計画に使われていたリスター株(26.6%)を大きく下回りました。→

2022-07-30 18:14:15
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

LC16m8は1975年に製造承認を受けます。しかし1976年には日本で天然痘ワクチンの定期接種が中止され、当時は十分に活用することができませんでした。 でも緊急事態用の備蓄は行われており、2001年9月の米国同時多発テロ以降は本格的に製造が再開されました(製造元は化血研に移行)→

2022-07-30 18:14:51
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

2002〜05年には自衛隊の約3200人を対象としたLC16m8株のワクチン接種で、接種部に跡がついて免疫が獲得されたことを示す「善感反応」が高い割合で出ることも確かめられました。(初接種者94.4%、種痘経験者86.6%)。うち約1000人を対象に副反応が調べられ、リンパ節の腫脹が9%、発熱が2%でした。→

2022-07-30 18:16:00
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

今回のサル痘の流行拡大阻止にあたって、LC16m8がどれだけ使われるかはまだわかりません。しかし感染症の重要局面において国内にすぐ使えるワクチンがあったことの意義は大きいです。天然痘の定期接種廃止後も長きにわたって知見が受け継がれ続けてきたことがもっと評価されて良いように思います。→

2022-07-30 18:16:48
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

感染症の研究は「備え」に重きを置きます。普段はマイナーな分野だと思われていても、大流行が起こるとその分野で培われた知見が感染症対策を支える屋台骨になります。サル痘の研究もその1つ。今月号で詳しく紹介していますので、よろしければ週末の読書にどうぞ。amazon.co.jp/dp/B0B78DZGYX/…

2022-07-30 18:17:36
リンク 日経サイエンス - 一般読者向けの月刊科学雑誌「日経サイエンス」のサイトです。 種痘廃止の死角 ポックスウイルスの逆襲 - 日経サイエンス 1979年に世界保健機関(WHO)が天然痘の根絶を宣言してから30年以上。人類を脅かした死病は地上から一掃されたが,その成功の裏で,新たな公衆衛生上の懸念が浮上している。天然痘ワクチンの接種が行われなくなったことで,こ … 続きを読む → 3 users

天然痘ワクチンで大丈夫?

出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

天然痘のワクチンが本当にサル痘に効くの?という点について少し補足します。 天然痘ワクチンがサル痘にも有効というデータは既にあり、1988年のロンドン大学衛生熱帯医学大学院の研究では天然痘ワクチンのサル痘発症予防効果は85%でした。 twitter.com/DemuraMasaaki/…

2022-08-02 12:08:43
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

これは、コンゴ民主共和国のワクチン接種者・未接種者のサル痘発症状況を分析して算出された数値です。 また、2010年に発表されたコンゴ民主共和国の国立生物医学研究所などの研究でも、ワクチン接種者の発症リスクは1/5以下と報告されました。→

2022-08-02 12:09:19
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

これだけよく効くのは、両者が非常に近縁なウイルスだからです。両者は共に「オルソポックスウイルス」の仲間で、天然痘ウイルスの代わりにサル痘ウイルスを使って天然痘の研究が行われることがあるくらい、よく似ています。

2022-08-02 12:09:59
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

ただ、サル痘の発症や重症化を防ぐために天然痘ワクチンの接種が国内で行われるのは今回が初めてです。国内で効果と安全性のデータを取っていくことは大切であり、そのための臨床研究も既にスタートしています。 jrct.niph.go.jp/latest-detail/… jrct.niph.go.jp/latest-detail/…

2022-08-02 12:16:32

サル痘などの人獣共通感染症や,昆虫が媒介する感染症についてはこちらのまとめもどうぞ

まとめ WHOがサル痘に「緊急事態宣言」…コロナ流行の陰で,新たな感染症がじわりと広がり始めている 日経サイエンス2022年9月号の巻頭特集を編集部が解説します。 30011 pv 95 21 users 6