少女と騎士のお話

ritsunaは騎士で無口な青年と金髪で低身長の少女が幸せそうに笑っている場面を描いて下さい。 との事だったので。
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嶺上律菜 @ritsuna_mine

陽光が注がれる庭で、一人の少女が花の手入れをしていた。鼻歌を歌いながら、笑顔で如雨露から水を振りかける。光と、花と、少女の笑顔。見た者が思わず微笑むような平和で穏やかな光景の中に、一つだけ不釣合いなものがあった。黒い影に覆われたような騎士の姿だ。

2011-09-26 01:48:14
嶺上律菜 @ritsuna_mine

無表情のまま、騎士は影のようにおりた前髪の隙間から少女を見つめている。騎士の立つ一角だけが、光溢れる庭園に暗い影を落としていた。しかし、彼の使命は少女の笑顔を守る事であり、彼自身もまた、その使命に順ずる覚悟を秘めていた。しかし、外見からはそうは思えない。なにせ、暗いのだ。

2011-09-26 01:48:21
嶺上律菜 @ritsuna_mine

彼を評する名は幾つかある。無愛想、鉄面皮、冷血漢。いずれも暖かさを感じない名だ。その評価に彼は異を唱えるつもりはない。ただ一つ気になるのは、そんな自分と居る事で、少女の名に傷がつくこと。万が一にも、少女に訪れる明るい未来を閉ざす事があってはならない。

2011-09-26 01:48:26
嶺上律菜 @ritsuna_mine

そんな思いとは裏腹に、少女は騎士を重用した。正確には、少女が父に頼み込んで彼を重用しているのだが。それが彼にはわからなかった。何故自分を、と考えた所で答えが出る事は無い。「……たの?」しかし、やはり変えていただくべきだろう。「どうしたのー?」

2011-09-26 01:48:31
嶺上律菜 @ritsuna_mine

「どういったご用件でしょうか」「なんか暗い顔してるなーって思ったから」「生来生まれ持った顔です」「もっと笑うといいよー。貴方美形なんだから!」そういった評価をもらった事は無かった。「……そうでしょうか」「そうそう、私が保証するよ!」ふと、思った。「顔で私を選ばれたのですか?」

2011-09-26 01:48:36
嶺上律菜 @ritsuna_mine

途端、少女の顔が曇った。「……そういうわけじゃないんだけどね」では、何故。思いが伝わったのか、少女は続ける。「ほら、私ってお父さんが偉いから、色々扱いが困るじゃない。皆作り笑いで、私の機嫌を損ねないように、って。だからお父さんにお願いしたの」

2011-09-26 01:48:43
嶺上律菜 @ritsuna_mine

「せめて、一日中顔を合わせる人は作り笑いをしない人にして」なるほど、その条件なら確かに自分はうってつけだ。なにせ、笑った事が無い。「だけどね?」少女は屈み、上目遣いでこちらを見る。「来た人はなんと作り笑いどころか、一切笑わない鉄面皮。これはこれでちょっと悔しくなっちゃって」

2011-09-26 01:48:49
嶺上律菜 @ritsuna_mine

むすっとした表情で続ける。「意地でも笑わせてやろう! って思って、その人にはずっと傍に居てもらってるんだけど、いつまでも笑ってくれないのよね」「…………」どう言ったものだろう。自分の性根は少女とは関係なく形成されたものだ。笑う必要の無い人生だったからで、彼女のせいではない。

2011-09-26 01:48:56
嶺上律菜 @ritsuna_mine

「ねぇ、お願いがあるのだけど、いい?」頷く。「私はいずれお父さんの跡をついで社交界に打って出る。その時も傍に居てほしいわ。愛想笑いをしない貴方。貴方を笑わせられた時、私はきっと一人前になれる」どう? と少女は告げる。

2011-09-26 01:49:02
嶺上律菜 @ritsuna_mine

まさか、笑わない自分の事をそう考えていたとは。笑う必要の無い人生を送った自分を笑わせる、それはどのような努力が必要か自分にも分からない。しかし、思った。笑ってみたいと。だから、彼女の前に片膝をつき、己の胸に手をあてる。「承知致しました。お嬢様」「よろしい、お願いね。私の騎士」

2011-09-26 01:49:16