庄司潤一郎・石津朋之「地政学原論」を読んで

自分用のまとめですが、お役に立つならどうぞ。
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孫二郎 @344syuri

マッキンダーは単なる地理学者ではなく、自らが探検家であり、政治経済の分野にも通じた該博の人であった。後世地政学と呼ばれるようになった分野も一政治家としての政策的提言が基本にあり、マッキンダーが自らの思想を学問化しようとしていたとは思われていない。

2022-09-26 19:17:37
孫二郎 @344syuri

マッキンダーの思想としては、シー・パワー(海洋国家)vsランド・パワー(大陸国家)という世界観がある。シー・パワーはイギリスやアメリカで発展した考え方で、海を制することで海外貿易による繁栄を目指す思想である。

2022-09-26 19:17:37
孫二郎 @344syuri

ランド・パワーは他国と陸続きになっているドイツのような国で発展した考え方で、不可避的な隣接地帯での摩擦から自国を守るために膨張を続けなければいけないという思想である。 マッキンダーは両者をコロンブス以前と以後にわけ、その優劣を論じている。

2022-09-26 19:17:38
孫二郎 @344syuri

曰く、コロンブス以前はモンゴル帝国に代表される馬の時代で、ランド・パワー優位。コロンブス時代はスペインからイングランドに至る海洋国家が世界を席巻した、シー・パワーの時代。脱コロンブス時代は鉄道の黎明期で、ランド・パワーの時代。マッキンダー自身はこの時代の人物である。

2022-09-26 19:17:38
孫二郎 @344syuri

マッキンダーの思想は「地理的な環境と歴史的な出来事の間には関係があるのでは?」という疑問からスタートしている。第一次大戦が勃発したとき、これはランド・パワーとシー・パワーの戦いではないか?という発想に至ったのはむしろ自然なことであった。

2022-09-26 20:00:40
孫二郎 @344syuri

そしてその考えをさらに推し進め、ランド・パワーでありながら地中海を「我らの海」とした古代ローマ帝国のように、巨大なランド・パワーが登場すれば世界中の海が彼らの内海になってしまうことを恐れた。

2022-09-26 20:00:41
孫二郎 @344syuri

マッキンダーの時代はシー・パワーのイギリスとランド・パワーのロシアがグレート・ゲームを戦っている最中であった。強力なランド・パワーの登場は現実的な脅威でもあったのだ。早い話がイギリスの国益を守るための提言である。だがその理論が今日まで生き残っていること自体が普遍性の証拠と言える。

2022-09-26 20:00:41
孫二郎 @344syuri

さて、マッキンダーが生み出した概念の中でも重要なのが「ハートランド」である。その意味するところは若干のブレがあるが、大体ユーラシア大陸の内陸部分と捉えて差し支えないようである。またユーラシア大陸とアフリカ大陸を併せた大陸を「世界島」と名付けた。その支配の要がハートランドである。

2022-09-26 20:32:18
孫二郎 @344syuri

「東欧を制するものはハートランドを制する。ハートランドを制するものは世界島を制する。世界島を制するものは世界を制する」という一節はこの文脈の中で語られたものである。ここではハートランドは「世界島」の中でシー・パワーの及ばない内陸部として描かれる。

2022-09-26 20:32:18
孫二郎 @344syuri

そしてハートランドの外縁部に「内側の三日月地帯」「外側の三日月地帯」を設定し、内側の線でシー・パワーとランド・パワーが衝突するという構図を示したのである。 この理論は当時から見ても穴だらけで、マッキンダーの提言が採用された形跡はないが、それでも後世への影響は大きいものがあった。

2022-09-26 20:32:19
孫二郎 @344syuri

特にドイツではマハンと共に広く受容され、ドイツ地政学はラッツェルやチェレーンを通してハウスホーファーに結実する。 戦後は米英を中心として研究が進められ、ケナンの「封じ込め」政策はその成果と言える。またリデルハートも同様の構想を抱いている。

2022-09-26 21:16:25
孫二郎 @344syuri

この二人によって、 ・封じ込め ・冷たい戦争 ・抑止 ・経済制裁 ・集団安全保障 ・限定関与 ・防御の優勢 の七本の柱からなる「西側流の戦争方法」が編み出されたため、マッキンダーは迂回しながらも現役を続けていると言えなくもない。

2022-09-26 21:16:25
孫二郎 @344syuri

とはいえ、流石に古さを感じさせる主張もある。視点がヨーロッパに偏り過ぎていてアメリカが軽視されている点は見過ごしがたい。また物事をなんでもシー・パワーとランド・パワーに分けるので、現実の捉え方が浅い。地政学を学問として成立させる意図が全くなく、用語の用い方や主張に矛盾が多々ある。

2022-09-26 21:16:26
孫二郎 @344syuri

とはいえ、それでもマッキンダーが今日地政学と呼ばれる分野を開拓したことは確かであり、高く評価されるべきである。

2022-09-26 21:16:26
孫二郎 @344syuri

引き続き『地政学原論』を読んでいます。 今回はナチズムに翻弄された悲運の碩学ハウスホーファー。

2022-09-27 10:56:14
孫二郎 @344syuri

ハウスホーファーはナチの御用役者、第三帝国の理論的バックボーンだと未だに誤解されているが、ナチスがその理論を利用したのはごく初期の拡大期だけで、あとはヒトラーにとっては無用のものとなり、ナチスとハウスホーファーの繋がりはルドルフ・ヘスとの個人的な友人関係だけであった。

2022-09-27 10:56:14
孫二郎 @344syuri

戦後のドイツ地政学は全責任をナチスにおっかぶせることに汲々としていたため、ハウスホーファーのような厄介者はナチス側にいてもらったほうが都合がよかったのだ。またユダヤ系であった妻を守るためにナチスを礼賛する文を多く書いていたことも命取りになった。ハウスホーファーは妻と共に自害した。

2022-09-27 10:56:15
孫二郎 @344syuri

ハウスホーファーは初め学者ではなく軍人として仕事についている。転機になったのは駐日軍事オブザーバーを拝命して日本に赴任した時である。この時ハウスホーファーは日本の要人との伝手を得ることができ、またアジアの実情を自分の目で確認したことが学問への傾倒を強めた。

2022-09-27 10:56:15
孫二郎 @344syuri

帰国後、健康上の理由からしばらく療養していたハウスホーファーは、この期間を利用して博士論文を書き上げる。第一次大戦が終わって50歳の坂を超えた頃、ミュンヘン大学の教授として晴れて研究者となることができた。退役軍人として年金収入があったため、研究環境は理想的なものとなった。

2022-09-27 10:56:16
孫二郎 @344syuri

ハウスホーファーの専門は赴任経験を活かした極東研究だったが、やがてアジア以外にもその知見を広め始め、当代きっての地政学者としてその名が知られるようになった。この時点ではナチスとの関係は良くも悪くもなく、ただヘスとの交流があったため陰に陽にその庇護を期待できた。

2022-09-27 10:56:16
孫二郎 @344syuri

ハウスホーファーはラッツェルから「生存圏」概念を受け継いでいたが、これは総統のお気に召した。また第一次大戦後のドイツへの悲嘆を原動力に、ロシアや日本と共同戦線を張り、オーストリア・イタリアとの連携を目指す策を練ったが、ロシアとの協力がどうなったかはご存知の通りである。

2022-09-27 10:56:16
孫二郎 @344syuri

彼は英領インド、海峡植民地、仏領インドシナ、蘭領インドネシアといった東南アジア諸国を「モンスーンアジア」と呼んでドイツへの協力を募る提言を行ってもいる。また「汎ゲルマン主義」のような汎概念の提起も行っているが、さらに一歩進んで世界を汎文化ごとにブロック化することも行っている。

2022-09-27 10:56:17
孫二郎 @344syuri

彼の理論はドイツにおいては「東方生存圏」、日本においては「大東亜共栄圏」の権威付けに使われてしまった。その地政学的意義が再評価されるのはまだ先のことである。

2022-09-27 10:56:17
孫二郎 @344syuri

引き続き『地政学原論』を読んでいます。 今回は日本でもおなじみのマハンです。

2022-09-28 21:07:20
孫二郎 @344syuri

「坂の上の雲」の愛読者は記憶にあるかもしれない。海軍を志しアメリカへ留学した秋山真之が師と仰いだのが、当代きっての海軍戦略家、アルフレッド・セイヤー・マハンである。「制海権」という概念を生み出し、また「シー・パワー」というふんわりした概念において確固とした定義を与えた人だ。

2022-09-28 21:07:20
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