庄司潤一郎・石津朋之「地政学原論」を読んで

自分用のまとめですが、お役に立つならどうぞ。
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孫二郎 @344syuri

庄司潤一郎・石津朋之『地政学原論』を読んでいます 研究史から入ってくれるのはわかりやすくてありがたい 戦前はドイツが地政学の本場で終戦と同時に「悪の学問」として後ろ指差されるようになったとは初めて知った

2022-09-24 19:49:01
孫二郎 @344syuri

日本やドイツで地政学が後退すると、戦後はアメリカが地政学を牽引する。キッシンジャーが「定義を曖昧にしたまま」地政学という用語を頻繁に用いたため、タブーの印象はかなり薄まった。またナチス分析に地政学の知見が必要になったこと、そして冷戦を勝抜くための知識として要求されるようになった。

2022-09-25 12:39:23
孫二郎 @344syuri

日本では一旦放擲された地政学だが、冷戦下で大衆の関心を引く言葉として取り上げられ、様々なバックボーンを持つ学者や作家が一般向け書籍を売り出すに至った。 だがこれらは玉石混交だったため地政学自体が「似非学問」のレッテルを貼られるようになってしまった。

2022-09-25 13:31:02
孫二郎 @344syuri

1980年代、欧米では古典的な地政学の克服が進んでいる一方で日本はまだタブー視から足抜けできず、両者の間には大きな差がついていた。1995年にようやく政治地理学会への予算がつき、研究体制が整った。まず行われたのが戦前地政学の再評価であり、批評地政学や世界システム論といった新しい地政学にも

2022-09-25 13:31:02
孫二郎 @344syuri

リソースが割かれた。とはいえ日本の研究者の関心は「過去の大戦の検証」に費やされるばかりで、冷戦に晒されたソ連や国土が二分されたドイツよりはるかに遅れていた。むしろ「地政学リスク」などの用語が経済や文学の側から入ってきて、「大衆地政学」を形成しつつある。

2022-09-25 13:31:03
孫二郎 @344syuri

さて地政学の系譜だが、古代以来の書物で地政学的要素を含むものといえばまず古代インドのカウティリア、古代中国の孫武、古代ギリシアのアリストテレスなどがあげられるが、どれも一部要素を含むのみで、全要素を完備したものとしてはトゥキュディデス『ペロポネソス戦争』が出色である。

2022-09-25 15:33:26
孫二郎 @344syuri

その後ローマ時代にもストラボンのようなすぐれた地理学家が現れているが、地理が対外政策に与える影響=地政学にはあまり関心がなかったようだ。文化の中心はその後アラブに移るが、旅行家イブン・バットゥータや大学者イブン・ハルドゥーンにもそういった発想はなかった。

2022-09-25 15:33:26
孫二郎 @344syuri

ルネサンス期以降はヴァレニウスの『一般地理学書』があるが、これはニュートンの手で英訳されて人気を博したという。 地理学部分の発達はその後も続き、カントがその教鞭をとったことで一学問としての地理学を確立される。 その二人の弟子、フンボルトとリッターがのちの地政学を準備した。

2022-09-25 15:33:27
孫二郎 @344syuri

この二人は1859年に亡くなったが、偶然にもその年、ダーウィンが『種の起源』を発表した。ヨーロッパのあらゆる学問を激震せしめたこの事件に地理学も対処を迫られ、アメリカ旅行中だったラッツェルを急遽帰国させてこの任にあたらせた。彼は『人類地理学』と『政治地理学』の祖となった。

2022-09-25 15:33:27
孫二郎 @344syuri

ラッツェルは「国家は生存圏を求めて拡大する」という国家有機体論をとなえ、帝国主義に邁進するドイツ帝国に理論的支柱を提供した。またマハンの影響から「シーパワー」「ランドパワー」などの概念も取り込んでいる。 そして彼の弟子からは、ドイツ地政学の祖であるハウスホーファーが出ている。

2022-09-25 15:33:28
孫二郎 @344syuri

ドイツ地政学の伝統はナチスと共に滅び去ったと思われていたが、実は勝者たる英米で命脈を保っていた。マッキンダーやスパイクマンの研究活動は既に進んでいたが、バーナムやワイガート、リップマンらはこれらを検証し、これらをもとに「使える」理論を立ち上げた。

2022-09-25 17:27:59
孫二郎 @344syuri

ところが、過熱するアメリカのドイツ地政学への傾倒に「待った」がかかる。国際政治学の大物モーゲンソーは、「パワー」の重要性を承知した上で、それを恣意的に、決定論として使っているかのようなドイツ地政学は「似非科学」であると痛罵したのである。

2022-09-25 17:28:00
孫二郎 @344syuri

1950年代にはセヴァースキーがエア・パワーを提唱し、北極海の重要性を訴える。その後アメリカ地政学は停滞期に入り、1960年代はめぼしい成果はなかった。1970年代に入るとタブーはほぼ緩み、新しい発見ができる環境が整った。そこへ登場したのがキッシンジャーである。

2022-09-25 17:28:00
孫二郎 @344syuri

またジャーヴィスは「安全保障のジレンマ」という概念を打ち出し、古典地政学の復権を仄めかしていた。 ところが1979年、国際政治学者のウォルツが地理的条件を完全無視した国際関係論を打ち出しネオリアリズムを興すと、地政学もその影響を受けざるを得なくなる。

2022-09-25 17:28:01
孫二郎 @344syuri

だが、エヴェラ、ミアシャイマー、スナイダー、ポーゼン、ウォルトはいずれもウォルツの弟子筋でありながら、揃って地理条件を復活させている。やはり極端すぎたのだ。 1980年代は政治家のブレーンとして地政学者が招かれた時代でもある。グレイ、ケーガン、ブレジンスキーらが大役を果した。

2022-09-25 17:28:01
孫二郎 @344syuri

しかし80年代の終わりが見えるころ、ソ連崩壊という大事件が起こる。これを受けてフクヤマの『歴史の終わり』という楽観的な書を著したが、逆に悲観的な世界像を提示したのがハンチントン『文明の衝突』。 またポーゼンらがアメリカ戦略のオプションを定めるなど、地政学は国家に不可欠になった。

2022-09-25 17:28:02
孫二郎 @344syuri

2000年代に入ると古典地政学を再評価する機運が高まり、ドールマンを中心に第4のパワーとしてスペース・パワーの導入も試みられるようになった。国際関係論の分野ではミアシャイマーが『大国政治の悲劇』を著し、スパイクマンら古典地政学も引用してランド・パワーの重要性を喚起した。

2022-09-25 19:57:33
孫二郎 @344syuri

一方ポーゼンは『コモンズの支配』の中で、海や宇宙を世界の国々が安全に使えるようアメリカが責任を持つべきだとしており、かつてのシー・パワーを連想させる。マッキンダーやスパイクマン、マハンといった古典地政学の復権であった。 2010年代は、地政学がさらに隆盛した時期となった。

2022-09-25 19:57:33
孫二郎 @344syuri

カプランは2010年に『インド洋圏が、世界を動かす』を出したのを皮切りに、2012『地政学の逆襲』2014『南シナ海』と立て続けに出版している。2016年はブラック『地政学』ハーウィッグ『地政学の悪魔』ケリー『古典地政学』グリギエル/ミッチェル『不穏なフロンティアの大戦略』と花盛りの様相だ。

2022-09-25 19:57:33
孫二郎 @344syuri

2017年にはクローバーが『黒い風、白い雪』スローンが『地政学、地理、そして戦略史』を出している。 ここ5年の傾向としては、「テロとの戦い」よりも大国間政治にアメリカの関心がシフトしている。これは中国の台頭とおそらく連動しているが、そのリソースを今回対露に使えたことは不幸中の幸いか。

2022-09-25 19:57:34
孫二郎 @344syuri

さて、地政学の新しい潮流である批判地政学について。これは古典地政学が現実の地理を所与の条件として分析しているのに対して、批判地政学ではその「現実の地理」そのものが教育によってバイアスをかけられているのではないか、という批判である。

2022-09-26 10:25:52
孫二郎 @344syuri

というのも、現実は生のままでは分析できず、一旦言葉に落とし込んでから分析する必要があり、そこに現実を捻じ曲げるスキがどうしても出来てしまうからだ。 そして国家による教育はそこを突いてくる。なかなか例示が難しいが、領土紛争を抱える国は大抵係争地を自領として教えるであろう。

2022-09-26 10:25:53
孫二郎 @344syuri

この「地政学的言説」はトールによれば3つに大別できる。一つは研究者が使う「公式地政学」、二つには政治家や官僚が使う「実践地政学」、最後に多種多彩なメディアを通じて提供される「大衆地政学」である。

2022-09-26 10:25:53
孫二郎 @344syuri

批判地政学に対する批判もある。まずソ連崩壊で唯一の「帝国」となったアメリカに異常なほど点が辛い。また現実(リアリズム)=悪と見る傾向が強すぎる。そして致命的なのが、「客観主義を標榜しながら自らの客観性には無頓着」という点である。 今後は実践地政学との間で当分論争が続くだろう。

2022-09-26 10:25:54
孫二郎 @344syuri

引き続き『地政学原論』を読んでいます。 今日のお題は地政学の父マッキンダーについて。

2022-09-26 19:17:37
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