「バダブーン姫のふしぎな物語」と、その原書の発見まで

冴吹稔氏がツイートで言及されていた原書不明のフランスの掌篇小説「バダブーン姫のふしぎな物語」。 そのツイートを読んで自分も気になって原書を探したものの、やはり見つからなかったので、たまたま過去に作者ポウロウスキーの作品を紹介されていたフランスの古典SF研究家Fabrice Mundzik氏に、思い切って質問ツイートを送ってみました。 面白い小説を紹介してくれた冴吹稔氏と、お時間を割いて原著の情報を教えてくれたFabrice Mundzik氏には、この場を借りて感謝の意を表させて頂きます。
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Fabrice Mundzik @f_mundzik

@kasuga391 jusqu'au moment où il sent une queue de singe qui commence à pousser : il est remonté trop loin dans le temps ! Alors, il décide de revenir à notre époque, mais son retour ne se passe pas comme prévu...

2022-09-27 04:42:36

最後にジェームズは自分に猿の尻尾が生え始めたのに気付きます。自分は時間を遡り過ぎてしまった! そこで彼は現代に戻ろうとするが、その帰還は計画通りにいかない。

Fabrice Mundzik @f_mundzik

@kasuga391 Donc, il ne vieillit pas à l'envers comme Benjamin Button, mais voyage dans le temps. Il n'y a pas d'autre texte sur ce thème dans Contes singuliers de Gaston de Pawlowski

2022-09-27 04:45:49

つまり、彼はベンジャミン・バトンのように若返るわけではないが、時間旅行をします。ガストン・ド・ポウロウスキーの『奇妙な物語』には、これ以外に時間テーマ物の作品は収録されていません。

カスガ @kasuga391

@f_mundzik Merci beaucoup! Votre explication m'a vraiment aidé.

2022-09-27 05:25:26

どうもありがとうございます! あなたの説明は本当に役に立ちました。

カスガ @kasuga391

@f_mundzik Bien que je ne sois toujours pas sûr que l'original de ma traduction japonaise soit la nouvelle (dans la traduction, le personnage principal était une femme et le vieillissement à l'envers était le sujet central), mon enquête a fait un pas en avant. Merci encore!

2022-09-27 05:25:47

私にはまだ例の日本語訳の原文がその短篇小説かはわかりませんが(その翻訳では、主人公は女性で、若返りが中心的なテーマでした)、私の調査は一歩前進しました。ありがとうございます!

Fabrice Mundzik @f_mundzik

@kasuga391 Je suis trop nul !!! je viens de me souvenir du texte : il s'agit tout simplement de La Merveilleuse Histoire de la Princesse Ba-da-Bouin repris dans Polochon - Paysages Animés - Paysages Chimériques 😅

2022-10-30 02:40:48

私はまったくの役立たずだった!!! たった今思い出しました。その話は『ポロション――生命の情景、幻想の情景』に収録されている「バダブーン姫の奇妙な物語」です😅

Fabrice Mundzik @f_mundzik

@kasuga391 "la princesse Ba-da-boum, renversant toutes les lois naturelles, ne cessait de rajeunir et sa très longue vie" archive.org/details/poloch…

2022-10-30 02:41:13

「バダブーン姫はあらゆる自然の法則を覆し、長きにわたる全生涯を次第に若返り続け、出生の瞬間に至った」
https://archive.org/details/polochonpaysages00pawl/page/288/mode/2up

カスガ @kasuga391

@f_mundzik C'est exactement l'histoire que je cherchais ! J'apprécie sincèrement votre aide. Enfin ma question est totalement résolue maintenant !

2022-10-30 11:55:35

これこそ正に私の探していた物語です! あなたの助力に心から感謝します。私の疑問はようやく解決しました!


カスガ @kasuga391

@seabuki 今更な話題ですが、フランスのSF研究家Fabrice Mundzik氏に上のツイートの内容を質問したところ、Gaston de Pawlowski の Polochon : Paysages animés ; Paysages chimériques(1909)に収録されている"La merveilleuse histoire de la princesse Ba-da-boum" が翻訳元ではないかとの情報を頂きました。

2022-10-30 12:15:22
カスガ @kasuga391

@seabuki archive.org内の原著に目を通したところ、一連のあらすじと完全に一致する内容でしたし、これが原典で間違いないかと。 archive.org/details/poloch…

2022-10-30 12:17:25
冴吹稔 @seabuki

@kasuga391 うおおおっと!! ありがとうございます!! まさか見つかるとは!

2022-10-30 12:35:36
冴吹稔 @seabuki

@kasuga391 ガストン・ド・ポウロウスキー、SF作家の範疇に入る人みたいですね。 en.wikipedia.org/wiki/Gaston_de…

2022-10-30 12:50:55

おまけ。

ガストン・ド・ポロウスキー作「バダブーン姫の奇想天外な物語」

カスガ訳

 まだぼくが成年に達する前の、なんでも好きなことがやれて、荒唐無稽なアイデアを思いつけた頃の話である。奇想天外な作品の構想を心に抱いたことがあった。その元となる着想は――今は白状しよう――自力で得たものではなかった。
 その着想とは、パリの古書街で発掘した、アラビア語で印刷された古い物語から生まれたもので、ぼくはその内容を解き明かしてみようと思い立ったのだ。
 最初はアラビア語を学ぼうとしたのだが、すぐに数えきれないほどの困難にぶつかった。まず第一に、ある友人がこの言語では母音を表記する習慣がないのだと教えてくれた。別の友人は子音が省略されていると断言した。三人目は――身も蓋もないことに――アラビア語講義の受講が不可欠だと言い張った。結果として、ぼくは本文を解読するのにもっと安易な手段を取ることにした。この貴重な物語の前の持ち主が、本の余白にフランス語で書き込んだ詳細な注釈に頼るという方法だ。
 たちまち驚くべき発見をした。
 最初から、その物語は実に奇想天外なものに思えた。主題がつかめない者に与えられた奔放な想像力で、ぼくはプロットの隙間を一千もの新たな細部で脚色するのに時間をかけなかったし、そのいずれの脚色も直前のそれより突飛なものとなった。
 その本は、冒頭ではバダブーンなる年老いた姫君の物語なのだが、数ページ後に彼女はバグダードから来た裕福な商人と結婚し、結末では五歳半ばかりになってしまう。
 つまり、なんらかの精霊か魔神の呪文によって、バダブーン姫はあらゆる自然の法則を覆し、長きにわたる全生涯を次第に若返り続け、出生の瞬間に至ったとしか思えないのだ。
 アラビア語の語り手がこの物語をどのように表現したかを推測するには、『千夜一夜物語』を読んでいれば十分だった。教養ある者にその象徴的意味は明瞭だった。
 地上に送られる前のバダブーン姫の魂は、疑いなくアッラーに以下の言葉で呼びかけたに違いない。
「おお、アッラーよ、アッラーの御名において! わたしは生涯のあいだ、この魂で女人の身を動かさねばならぬのですから、お願い申し上げます、どうか、わたしの人生を他の信徒たちとは逆に送らせてくださいませ。どうか老人として生まれさせ、存在を終えるまで絶えず若返らせてくださいませ!」
 あまりにも愚かな願いだったので、アッラーはこう答えるしかなかった。「お前の望んだとおりにしよう。ただ、後悔せぬようにと願うばかりだ。さあ、これがお前のための肉体だ!」

   * * *

 繰り返すが、そのような筋立てからアラブの道徳家がどんな教訓を引き出したかは、容易に察しがついた。
 最初のうち、バダブーン姫は無視された老女であり、思い出だけが老年の日々に与える喜びを知らず、周囲からは愚かな年寄りだと思われていた。やがて、彼女はその美貌のみによって、祝福の島の豪商にしてデーツの国の王として名高きアリー=トトルに、アッラーの御心のままに求婚されたのである。
 けれども、やがて彼女は若返り続ける自分に耐えられなくなった。彼女は毎日ハレムの中で召使いたちに囲まれながら、もっとも高価な化粧品を使って、自分が少しでも年を取っているように見せかけるために長い時間を過ごした。
 ああ! その努力も空しく、ほどなく彼女の背丈は縮み始めた。自分の誕生の時刻、すなわち死の瞬間が近づきつつあるのを、彼女は残酷なまでの正確さで知っていた。
 幼い少女に手を出したと仲間の商人たちから誹られるのを恐れ、姫の夫は彼女を離縁した。やがて哀れなバダブーンは子供に戻り、みじめにも母親の胎内に帰ると、無へと消えた。

   * * *

 この物語から汲み出されるであろう幻想詩のアイデアに熱中したぼくは、とうとうアラビア語の老教授にこの傑作の完全な翻訳を依頼する決意を固め、上の感想を彼に伝えた。
 教授は本をぱらぱらと斜め読みして、質問を発した。
「東洋文化にはお詳しいですかな?」
 ぼくは厚かましくも、適当に「はい」と答えておいた。
「それは結構! では、あなたがずぶの素人だったと仮定して、失礼ながら説明を続けさせて頂きます。
「バダブーン姫の非常に有名な物語――アゾール=ベニ=クロック=ミテン第三王朝におけるジラッファ=ジラフの氏族(教授はぼくに思い知らせようと、さらに数々のくだらない名前を並べ立てた)であるバダブーン姫の物語は、他の人々となんら変わらない(教授はこの一節を馬鹿馬鹿しいほどの獰猛さで強調した)、まったく陳腐で退屈な話です。
「いやしくも東洋に詳しいと自称されるなら、せめて、アラビア語の書物はわれわれの書物とは逆に、あなたの言う最後のページから最初のページへと、遡って読まれる程度のことは知っておくべきでしたな」

   * * *

 ぼくがアラビア語の学習をすっかり放棄してしまったのはこの頃であり、物語は理解できないときにこそ素晴らしい美しいものなのだと、ぼくはようやく気づき始めたのだ。