「バダブーン姫のふしぎな物語」と、その原書の発見まで

冴吹稔氏がツイートで言及されていた原書不明のフランスの掌篇小説「バダブーン姫のふしぎな物語」。 そのツイートを読んで自分も気になって原書を探したものの、やはり見つからなかったので、たまたま過去に作者ポウロウスキーの作品を紹介されていたフランスの古典SF研究家Fabrice Mundzik氏に、思い切って質問ツイートを送ってみました。 面白い小説を紹介してくれた冴吹稔氏と、お時間を割いて原著の情報を教えてくれたFabrice Mundzik氏には、この場を借りて感謝の意を表させて頂きます。
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冴吹稔 @seabuki

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冴吹稔 @seabuki

おっと、これよく考えたら「バダブーン姫の奇妙な物語」じゃねえか twitter.com/seabuki/status…

2022-09-26 22:29:16
冴吹稔@「培養先輩」ファンタジア文庫より好評発売中! @seabuki

@MSfjam 誤記からの誤訳がもとでとんでもないナンセンスギャグ小説(訳本しか存在しない)が誕生してしまう奇譚とかにもできますね #だがそれはこんなネタをそれこそ無数に捻り出せという無茶振りなのだった

2022-09-26 22:28:38
冴吹稔 @seabuki

小学館の「少年少女世界の名作・フランス篇1」に収録されてるポウロウスキの「バダブーン姫のふしぎな物語」は、「作者が若いときにパリの古本屋で稀覯本を見つけて云々」という近代フランス文学で多用される謎の()枠構造を持つ短編小説です(続く

2022-09-26 22:37:16
冴吹稔 @seabuki

「作者」はアラビア語で書かれたその物語をフランス語の注釈をもとに読み解くのですが、その内容は、バグダッドで金持ちの商人と結婚して暮らしているバダブーン姫なる老女が、何らかの魔法の力で次第に若返っていく、という物語であるように思われました。(続く)

2022-09-26 22:39:28
冴吹稔 @seabuki

ところがこの魔法は恐るべきもので、バダブーン姫は際限なく若返って幼児になり赤子になり、ついにはどこかへかき消えてしまうのでした。受精卵にでも戻ったのか? 「作者」はすっかり感銘を受けて、完訳されたものが読みたい、とアラビア語の老教授に頼みに行ったのです。しかし――(続く

2022-09-26 22:43:02
冴吹稔 @seabuki

老教授によればバダブーン姫の物語とはアラビア語圏ではよく知られた、しかし平凡なありふれた王族の臣籍降下ロマンスでありました。なぜこんなことになってしまったのか。それは――アラビア語の表記がフランス語とは左右逆で、本の組みと起こす方向も逆だったからなのです! ってオチw

2022-09-26 22:45:31
冴吹稔 @seabuki

んなわけあるか! っていう笑い。書かれたころはアラビア語ってそういうイメージだったんだろうなあ。 なおバグダッドの金持ちの商人はだいぶ若いころの姫をめとったらしく、誤解版ストーリーの中では若返りすぎた姫を妻にしていることを世間にそしられるのが怖くなって姫を離縁してしまうのだった。

2022-09-26 22:47:56
冴吹稔 @seabuki

つまり、普通の時系列に直すと商人は未成年の幼女である姫をめとって世間の白眼視に耐えながら彼女の成人を待ち、そして彼女が老齢になるまで添い遂げたわけですね。 何だいい話じゃん(そうか?)

2022-09-26 22:49:15
冴吹稔 @seabuki

この話のふしぎなのは、ググっても一切フランス語原典の情報が日本語で出てこないとこなんですよね…… 誰かその辺ご存知でしたら教えてください。

2022-09-26 22:51:04
冴吹稔 @seabuki

もしかしたら、もしかしたらだけど! 「訳者」のフランス文学者川崎竹一氏がだな。「作者が古本屋で発見した稀覯本の内容を語る」っていう近代フランス文学の謎フォーマットに合わせるところまで仕込んだうえででっちあげた、それこそ日本語訳でしか存在しない嘘フランス文学だったりする?!

2022-09-26 22:55:53
冴吹稔 @seabuki

もし本当にそうだったら50年近く騙されていた僕は私はッ…… いやはははは、最高の読書体験ですね!?

2022-09-26 22:58:29

Fabrice Mundzik @f_mundzik

« Avec un effrayant courage, il emprisonna la chair vivante du solipède dans un réseau de courroies, sauta sur le dos du monstre, parvint à dompter sa résistance sauvage et se mit à l’exciter de la voix et du geste. » #GastondePawlowski #GdePawlowski pic.twitter.com/JCi5MYXgjd

2021-11-17 19:15:26
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Fabrice Mundzik @f_mundzik

Extrait de Gaston de Pawlowski, « Les Amours d’Antimoine et de Benzamide (Conte surhumain) », in Contes singuliers, La Renaissance du Livre, 1917.

2021-11-17 19:16:17

ガストン・ド・ポウロウスキー作「アンチモニーとベンズアミドの恋(超人物語)」より抜粋。ラ・ルネサンス・デュ・リーヴル刊『奇妙な物語』(1917年)収録。

カスガ @kasuga391

@f_mundzik Désolé pour mon mauvais français. Je recherche des informations sur l'histoire « Contes Singuliers de la Princesse Badaboon » qui a été traduite en japonais dans les années 1970.

2022-09-27 04:22:09

下手なフランス語でごめんなさい。私は1970年に日本語訳された「バダブーン姫の奇妙な物語」という話の情報を探しています。

カスガ @kasuga391

@f_mundzik Tout ce que je sais, c'est que la nouvelle est l'histoire d'une femme vieillissant à l'envers (comme Benjamin Button), et qu'elle est basée sur une lecture erronée de l'arabe, et que le nom de l'auteur est "Pawlowski".

2022-09-27 04:22:34

私が知っているのは、この短篇が(ベンジャミン・バトンのように)逆向きに年を取っていく女性の話で、アラビア語の誤読に基づいていて、作者の名前が「ポウロウスキ」であるということだけです。

カスガ @kasuga391

@f_mundzik Je suppose que le texte original est inclus dans Contes singuliers de Gaston de Pawlowski. Si cela ne vous dérange pas, j'apprécierais que vous me disiez le contenu de ce livre. Merci d'avance.

2022-09-27 04:23:00

私はこの原文がガストン・ド・ポウロウスキーの『奇妙な物語』に含まれていると推測します。もしよければ、この本の内容を教えて頂ければ感謝します。よろしくお願いします。

※この「バダブーン姫」が『奇妙な物語』に収録されているという推測は、まったくの見当はずれでした。

Fabrice Mundzik @f_mundzik

@kasuga391 Bonjour, je pense qu'il s'agit de « La Véridique ascension dans l’histoire de James Stout Brighton » publié dans Contes singuliers. Dans cette histoire, James Stout Brighton remonte le temps, se revoit à 6 ans, voit l’exécution de Charles Ier, rencontre des romains...

2022-09-27 04:41:12

こんにちは。その話は『奇妙な物語』の中の「ジェームズ・スタウト・ブライトンの歴史的真実の台頭」じゃないでしょうか。この作品ではジェームズ・スタウト・ブライトンが歴史を遡り、6歳の自分に会ったり、チャールズ一世の処刑を目撃したり、ローマ人に遭遇したりします。