『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』感想

私的メモ
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河樹 彬 @e_rewhon

逆シャア制作にあたり、富野原案(ベルチル)は以下2点の指摘を受ける。①これではMS(巨大ロボット)否定ではないか。②父親になったアムロは見たくない。富野は熟考の上、これらを修正する。

2022-12-15 11:19:46
河樹 彬 @e_rewhon

まず①。Z以降、超能力者化が進んでいたニュータイプの描写に歯止めがかかる。いわば「精神性>テクノロジー」だった力関係が、拮抗又は逆転する。これは②にも関連する。テクノロジーより精神性が勝る世界なら、アムロは、さらに純粋なもの(胎児)の力を借りねばシャアに勝てない。

2022-12-15 11:19:47
河樹 彬 @e_rewhon

これでは「大人の争いに子供が利用されてる」ことが前面に出すぎる上、「大人になんてならないほうが正解」「だったら生まれてこない方が」なんて話にもなりかねない。そもそも「アムロがシャア的なものによってシャアを倒す」なんて、あんまりだ。

2022-12-15 11:19:47
河樹 彬 @e_rewhon

ここで少し整理しておこう。アムロは「どんな問題も人間の知恵(テクノロジー)は乗り越えられる」と断定する。いかにも技術屋的な発想だ。シャアは「ならば今すぐ愚民ども全てに叡智(精神性)を授けてみせろ」と応える。思想家や革命家の言葉だ。この二人、知の捉え方がまるで違う。

2022-12-15 11:19:48
河樹 彬 @e_rewhon

ここで私がテクノロジーと呼んでいるのは「身体性」と結びついた知だ。アムロの発想は一種の『スピノザ主義』だと言ってよい。これに対して、シャアのいう叡智は、否定によって純化された「精神性」を指す。彼の内面は『カント-ヘーゲル主義』で説明できる。

2022-12-15 11:19:48
河樹 彬 @e_rewhon

ドゥルーズが示す通り、スピノザ主義とカント主義は異質なシステムであり、両者の間には安易な和解や折衷などありえない。アムロとシャア。二人を二人として全うさせるなら、この二人には「歩み寄れぬまま共に生きる(あるいは共に死ぬ)」以外の道はない。

2022-12-15 11:19:48

補足。シャアは生活者のエゴイズムを非難し、アムロは裁きを批判する。二人は互いの拠って立つところを許せない。たとえば『逆襲のシャア』冒頭の応酬

シャア「地球に住むものは自分達のことしか考えていない。だから抹殺すると宣言した。」
アムロ「人が人に罰を与えるなどと!」

分かりあえぬものたちの「共振」

テクノロジーの肯定

河樹 彬 @e_rewhon

で、話を戻す。ガンダムのMS(モビルスーツ)は『宇宙の戦士』のパワードスーツ、すなわち「兵士が着るロボット」に由来する。すなわち「テクノロジーによって拡張された身体」だ。富野原案にMS否定をみたスタッフは鋭い。そして、劇場版は「MS肯定」「アムロがシャアに負けない」物語に修正された。

2022-12-15 11:19:49
宇宙の戦士〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫SF)

ロバート A ハインライン,内田 昌之

父の不在

河樹 彬 @e_rewhon

②も修正された。というか、父性の問題はアムロ対シャアの「最終議題」にまで格上げされた(で、F91や閃ハサに繋がる)。劇場版アムロは「俺はマシーンじゃない。クエスの父親代わりなどできない」という。これ、いかにもアムロしてる台詞で、大好きだ。

2022-12-15 11:19:49
河樹 彬 @e_rewhon

アムロは劇中、シャアとは比べようがないほど、クエスに対して「父親らしいこと」をしてる。それでも「父親代わりになれない」というのは、アムロが父親というものを知っているからだ。クエス自身もいう通り、アムロの隣にチェーンがいるかぎり、仮にアムロが実の父親であっても父親はやれない。

2022-12-15 11:19:50
河樹 彬 @e_rewhon

アムロはメカニズムに強い。人間関係のメカニズムについても然り。シャアから「(大層な事を言ってる割に、目の前の)クエスに冷たかったな」と揶揄された際、間髪入れずに先の返答をしてる。クエスが父親を求めてる事に気づき、でも自分ではチェーンという歯車が干渉して機能しない事も気づいてる。

2022-12-15 11:19:50
河樹 彬 @e_rewhon

対するシャアは悲しい。アムロから指摘されるまで、これらの事に何も気づけていない。幼くして両親を失ったシャアは、父親を知らない。否、彼にとって「父」とは、追いつけない理想を彼に示し(死者の純粋さに追いつけるはずもない)、彼自身を復讐のマシーンに変えた存在にほかならない。

2022-12-15 11:19:50

アムロはシャアのライバルである/シャアはアムロのライバルではない

河樹 彬 @e_rewhon

「ララァは私の母になってくれるかも知れなかった女性だ」とシャアはいう。これも悲しい。三角関係を生きている(否、ララァの死によって三角関係を永遠化させられた)シャアにとっては、ララァは「私を許し、導いてくれるかも知れぬ」神聖な女神であり、アムロは鏡像的なライバルでなければならぬ。

2022-12-15 11:19:51
河樹 彬 @e_rewhon

シャアはアムロのことを「それでこそ私のライバルだ」といい、「似たもの同士は憎みあう」と独りごちる。典型的に三角関係に生きる者の言葉だが、これ、アムロが聞けばどう思うだろう。あまりの意味不明さに、無言のまま固まりそうな気がする。シャアにはララァもアムロも見えていない。恋は盲目だ。

2022-12-15 11:19:51
河樹 彬 @e_rewhon

三角関係は構造的な現象で、誰にでも起きる。シャア個人に責はない。ただ思うのは、シャアが「母親」を知っていれば、ここまで純粋にララァを思う事もなかっただろうということ。相手が女神のごとき少女であっても、彼女に「オカン」の影をみた瞬間、魔法は解け、現実に引き戻される。よくある話だ。

2022-12-15 11:19:52

アムロはシャアの"同類ではない"/シャアはアムロの"他者である"

河樹 彬 @e_rewhon

アムロはシャアの原動力が「死んだモノの力」であることに気づいてる。ただ、なぜシャアが復讐に生きるのか理解できない。自分同様エゴで生きてるザビ家の思惑は理解できるし、自分にとっては「悪しき存在」だと判断できる。だが、シャアの存在は「悪」ですらない。強いて言えば「謎」だろう。

2022-12-15 11:19:52
河樹 彬 @e_rewhon

アムロには殆どナルシシズムがない。だから、シャアを自分の側に引きよせて理解しようとする。彼の所業を「エゴだ」と言い、「地球の奴らに失望したんだ」と同情しようとする。的外れだ。エゴの観点から見れば、彼ほど無私で犠牲的な人間はおらず、初めから全てに絶望してる人間はいない。

2022-12-15 11:19:52