クリスマス・イブの夜の話

Wolfgang･Gottenberg【残余一万八千八百文字】 @C11katao

昨晩の話 馬券スッてもうだめだとなって落胆したまま列車に乗って帰る途中、昔からの友人から『暖房が死んだゆえ来てくれ』めいた内容の連絡があった 行っても出来ることもなく、そいつの住居は娯楽など殆どなく、行きたいと思ったことすらないのだが、放っておくのも気が引けて渋々ながら行った

Wolfgang･Gottenberg【残余一万八千八百文字】 @C11katao

途中の駅で乗り換えてそいつの家の最寄りに着けば、寒風に耐えつつムニムニ歩いて向かう。 駅の売店で差し入れに肉まんとか温かいリモネードを買い揃えておいたのは褒めてくれてもいい アパートについて、多分お豆腐を出しておけば高野豆腐になるような通路を通りつつそいつの居住する部屋の前につく

Wolfgang･Gottenberg【残余一万八千八百文字】 @C11katao

チャイムを押してやれば、鳴りはするけども返事はない もう一度、更にもう一度、ようやく返事があって 「合鍵渡したでしょー」 ときたが 『こんなところ来ないからその場でつっかえしたがゃ』 本当にその場でつっかえしたもの、仕方ない もそもそもそと変な音とともにようやく戸を開けに来おった

Wolfgang･Gottenberg【残余一万八千八百文字】 @C11katao

戸を開けて対面したらば、毛布にくるまってイモムシめいた状態で這い寄って来たとも言わんばかりの出で立ちであったから、思わず『バカタレ』みたいに嘲笑ってやった覚えがある 差し入れの肉まんと温かいリモネードをくれてやって、部屋を見渡す 相変わらず殺風景で、テレビがないのは当然として

Wolfgang･Gottenberg【残余一万八千八百文字】 @C11katao

本もなくそれに伴って本棚もなければパソコンも在らず。おまけに暖房機器は故障して、布団は目の前のやつが全部ひっかぶっている 最近流行りのミニマリスト、と言うやつなのか単に金が無いのか、あるいは両方か 「相変わらず殺風景だな。なおさら寒く感じる」 そうもナゲヤリに話をぶん投げる

Wolfgang･Gottenberg【残余一万八千八百文字】 @C11katao

「今の御時世趣味がｽﾏﾝﾎﾎで賄えるのだから部屋にものをおいておく意味はそんなにない」 そこからはだいたいいつもの馬鹿話だ 暖房機器の修繕の手配はしてあるかとか（してあったようである）代用品の購入についてであるとか、夕飯はどうするかとか。私は競馬場で食べていたからいいのだが

Wolfgang･Gottenberg【残余一万八千八百文字】 @C11katao

一日イモムシめいてたから腹減ってないわ、みたいなやり取りをして、そのへんでようやく本題 「風呂に入っている間にお布団が冷めるのが嫌だから入って暖めておいてくれ」 「そのために呼んだのかオマエ」 「そうだよ」 「電気アンカでも買えやぁオメー」 「明日届くんだよ」 みたいなやり取り

Wolfgang･Gottenberg【残余一万八千八百文字】 @C11katao

まあ、人間アンカとして呼ばれたらしい 断ったり嘘くさい泣き真似をされたり、色々あったけれど結局私が折れて人間アンカを引き受けた 脱衣場までイモムシめいて這っていくのに着いていって、お布団から抜け出すのと入れ違いにお布団に潜り込む 相変わらず身体は魅力的な女だが、他が何もかもダメ

Wolfgang･Gottenberg【残余一万八千八百文字】 @C11katao

この場で待つことになっていたから、頭まで布団に埋めて何も見ないようにする お布団の中はお布団の中でこのバカタレの匂いでいっぱいで、一般には興奮材料かも知らんが、こんなやつに興奮するのは癪なので、オジュウが負けて明日のおやつがないことを思い返して興奮を鎮めた オジュウ…

Wolfgang･Gottenberg【残余一万八千八百文字】 @C11katao

やることもなく娯楽もなく、思い返すのはスッた馬券ばかり そうもしていると風呂からようやく上がってきたようだ もちろん見ない。見たら後でいくらでもからかわれるしネタにされるのは判っている 固く目を閉じて、脳裏にはぬいぐるみのゴールドシップがにょーんにょーん立ち上がる姿を浮かべて耐える

Wolfgang･Gottenberg【残余一万八千八百文字】 @C11katao

ゴールドシップがにょーんにょーん立ち上がるってかなり興奮してないか、と言うツッコミは今なら多分できる その時はそのようなことは思いつかなかった そうしていれば布団に潜り込んできた。入れ違いに突撃めいて飛び出す 「帰る」 「アンカに帰られたら困る」 「張っ倒すぞお前」 マァアレだが

Wolfgang･Gottenberg【残余一万八千八百文字】 @C11katao

仕方もないので風呂を借りるまでは承諾した そして、万一被服を勝手に洗濯機に投入されて帰れなくされることを怖れて、ユニットバスなのをいいことに便器の蓋を閉塞してその上に脱衣籠を置いて常に監視し得るようにした ユニットバスは嫌いだがこのような使い方ができることは評価に値すると信ずる

Wolfgang･Gottenberg【残余一万八千八百文字】 @C11katao

上がって服を再び着て出れば脱衣場にあいつはいない そういうやつだよ 知っていた 脱衣場から出ると、相変わらずイモムシめいた布団のｶﾏﾀﾘ 荷物を手に取り、帰ると声をかけると、もそっとうごいて、布団を少し持ち上げて 「入って」 という Ｖネックのぐりが深いパジャマなのが一瞬見えたが

Wolfgang･Gottenberg【残余一万八千八百文字】 @C11katao

「うわ、寒く！」とすぐに目を見開いてお布団を閉じてしまった 台無しだ 相変わらず台無しだ 少々悩んだが、時計をポケットから出して確認すれば、終電は走れば間に合わなくもないが、歩いたら間に合わないそんな時間だった 仕方ないので諦めつつ、そいつのお布団に潜り込む 快くは想っていない

Wolfgang･Gottenberg【残余一万八千八百文字】 @C11katao

「娯楽のない部屋で男女で布団に入ったらやることは」 「寝ろ」 ぬいぐるみのオルフェーヴルを取り出してムギュっと押し付けて、意識を飛ばすよう努力した 幸い、最近仕事で燃え尽きていて、しかも馬券スッておまけにオジュウチョウサンの引退式で泣き疲れた体に人肌のぬくもりはすぐ意識が飛んだ

Wolfgang･Gottenberg【残余一万八千八百文字】 @C11katao

深淵に向かって意識が急落する感覚は、嫌いだ でも心地よくもある 目が覚めてみれば、目の前に人の頭があってびっくりした　 そしてその頭髪に息がかかるところだけ湿り気が凍ったか霜のようになって見えた 本当に霜なのかは知らない　 息がかかることがないようにあえてぐいと抱き寄せる

Wolfgang･Gottenberg【残余一万八千八百文字】 @C11katao

そして、しばらくしてそいつの目も覚めてきたようだから何も言わずに布団から出る 「相変わらずなんもないままを望むんだ」 後ろからそう声をかけられたが、振り向かずに答える 「お前に手を出したら後から後から何言われるかわからんからな」　 「私をそう言うタイプだと思ってる？」 「然り」

Wolfgang･Gottenberg【残余一万八千八百文字】 @C11katao

「そう。マァ、だから信頼しているのだけれど」 「そうか。帰る」 オルフェーヴルのぬいぐるみをおいていきそうになったので、取り返し荷物に詰め込み、その他は極力振り返りもせず出ていく。 振り返ったら未練が残りそうだったから　　 このツイートは帰りの列車の中で書いている

Wolfgang･Gottenberg【残余一万八千八百文字】 @C11katao

まあ全部嘘なんだけれど pic.twitter.com/gPUvU0VyHn

拡大

Wolfgang･Gottenberg【残余一万八千八百文字】 @C11katao

Qどこから嘘なんですか　 A全部（公式見解）