ひびのけいさんによる「Angels in America」劇評。さらに「劇評とは・劇評家とは」。

ひびのけいさんによる「Angels in America」劇評。岩城京子さんの劇評についてのブログからの流れで、「劇評とは・劇評家とは」というテーマに移行。
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Kyoko Iwaki 岩城京子 @KIIWAKII

ブログ更新しました。「批評家・イン・レジデンシー」THE OFFICIAL WEBSITE OF KYOKO IWAKI http://t.co/DkeP3w7m

2011-10-22 23:44:47
Kyoko Iwaki 岩城京子 @KIIWAKII

KUNIOという劇団の『エンジェルス・イン・アメリカ』観劇。丁寧に構築された演技にはとても好感を持つけれど、資本主義の衰退、神の不在、主体の崩壊、など作家が無数にテキストに埋め込んだ暗喩があまり読み取れない。世界が個人圏域のメロドラマで収まるならクシュナーをやる必要がない。

2011-10-23 09:06:58
徳永京子 @k_tokunaga

直前のお知らせですが、 シアターアーツ秋の劇評講座第1弾「劇評って何だろうか」に出席します。このテーマを通して、劇評家が何かについても考えたいです。肩書きを「劇評家」としていない私が受けた、理不尽な体験を起点として。本日18時30分~ http://t.co/81GBkYL1

2011-10-23 14:37:53
ひびのけい @hbnk

Angels in America にはカバラーが反映しているのだという学会発表を数年前にしたが未だに活字にしていない。ユダヤ神秘主義に付き合うにはブルーム『影響の不安』を始点に少し勉強したぐらいじゃ全くダメだということがわかっているからだが、多分面白い内容なのでなんとかしたい。

2011-10-23 14:55:31
ひびのけい @hbnk

発表原稿からの引用#1 第二部第一幕を「射精」(Spooj)と題し、第二幕第二場でプライアーと性交をおこなう天使が「天使の射精によって燃え立つ宇宙」と言っていることは、クシュナーのクイアな想像力がユダヤ思想と化合した興味深い例である。

2011-10-23 14:58:43
ひびのけい @hbnk

発表原稿からの引用#2 だがブルームを通じてカッバーラーを知ったとおぼしきクシュナーの『エンジェルズ』が、イサク・ルーリアの創造神話に類似しているのはそれだけではない。

2011-10-23 14:59:15
ひびのけい @hbnk

モーゼスは『歴史の天使—ローゼンツヴァイク、ベンヤミン、ショーレム』において、十六世紀のカバリストであり、その後のユダヤ教神秘思想の発展に大きな影響を与えたイサク・ルーリアがラビ的メシアニズムのアポリアと呼ばれるものをどのように解消したのかについて、ショーレムの思想を要約している

2011-10-23 15:02:24
ひびのけい @hbnk

「エジプト脱出をめぐる聖書の物語が離接的な場面の不連続的系列へと断片化されているように」、タルムードの伝承のなかでは「聖なる歴史の数々の出来事は、先立つ出来事の帰結として到来するのではなく、新たな現実の予見されざる侵入として、言い換えるなら、…歴史のなかへの神の無償の介入として

2011-10-23 15:03:11
ひびのけい @hbnk

到来する」という歴史のヴィジョンが示されるが、これは「人間の歴史は<創造>の構造そのものに書き込まれた根源的企図の帰結である」というユダヤ教の伝統的歴史智と抵触する。ルーリアによる天地開闢の神話は、このアポリアを解消するものである、とショーレムは考えた。

2011-10-23 15:03:24
ひびのけい @hbnk

それは「不連続性と予見不能性と偶然性によって特徴づけられる」「数々の出来事の歴史たる可視的歴史」と、「人類の運命を秘密裡に支配するもので、ひとつの連続的過程として展開していく」「魂たちの歴史たる不可視の歴史」を分離することだった。

2011-10-23 15:03:44
ひびのけい @hbnk

エイズの流行、レーガノミクスをはじめとする新自由主義の席捲、チェルノブイリ原子力発電所事故、ベルリンの壁崩壊、ソ連邦解体といった世界史的カタストロフの連続は偶然的連鎖であり、最後の二つが先進国共通の徴候であった共産主義の衰退がもたらした結果であること以外には因果関係は

2011-10-23 15:04:32
ひびのけい @hbnk

存在しないように思われるが、じつは見えない必然があり、人類のたどるべき運命が隠されている。そう考えるのはしかし、なにもユダヤ思想を持ち出さなくてもよいかもしれない。セイヴランの批判の眼目も、『エンジェルズ』の物語展開に俗流の黙示的終末論と同型の構造を見るところにあった。

2011-10-23 15:04:45
ひびのけい @hbnk

だがユダヤ的な二重底の論理は物語だけに見られるわけではない。以下でそれを見ていこう。

2011-10-23 15:04:54
ひびのけい @hbnk

そうだとすれば、クシュナーは神を連想させる祝福や預言者という表象を劇中に持ち込み、それらが人間の領域に属するものであることをあらためて示すことで、理性と信仰の間を揺れる観客の迷いを断ち、彼らを世界の合理的解釈の側に引き寄せることをねらったのだろうか。

2011-10-23 15:09:29
ひびのけい @hbnk

祝福や預言者的存在はブレヒト的な叙事演劇の枠組みのなかで相対化されるために導入されたたんなる道具なのだろうか。うではなく、やはりここでも論理は二重底になっているのだと私は考える。一見救済のように見えるものがおとずれた様子を描き、しかしそれが真の、神による救済ではないことを

2011-10-23 15:09:53
ひびのけい @hbnk

同時に示唆することで、真の神による救済がまた別に存在し、それはまだここにはいたらない、と暗示する。先ほど引用した幕切れのプライアーの観客に対する別れの挨拶について、フランツェンは「いかに感動的であろうとも、陳腐さが目につく」と評しているが(Frantzen 147)、

2011-10-23 15:10:11
ひびのけい @hbnk

感動とともに陳腐さを覚えるとき、人は真の意味で感動的なものが別にあることに思いを馳せている。『エンジェルズ』において救済は直接描かれることはないが、このような黙説法によって暗示されているのである。

2011-10-23 15:10:20
野村政之 @nomuramss

徳永さんがいっていることと、岩城さんがいっていることが、かぶっているってことかな?

2011-10-23 15:39:03
徳永京子 @k_tokunaga

@nomuramss 捉え直しの必要性を感じているという点では、僭越ながらかぶっていると思います。でも私は先行世代と年齢が近い分、あちら側の状況を(もしかしたら勝手に、ですが)慮ってしまうところもあって、そことも何かブリッジが見出せれば、とも思うのです。

2011-10-23 15:47:54
野村政之 @nomuramss

@k_tokunaga 僕はなんか、劇評家を名乗っていない人に、劇評家という肩書きをかぶせることが、権力者っぽい「体感」させるなぁと。今夜はいけませんがまた様子聞かせてください。

2011-10-23 15:56:54
ひびのけい @hbnk

前にも書いたけれど、上演する戯曲についてどれだけ「深い」理解を示せるか、というヨーロッパの演出家たちが参加する競争に日本人の演出家が参入することにはまるで意味がない。ましてや、日本人の理解が浅い、と切って捨てることは全く生産的ではない。

2011-10-23 16:10:14
ひびのけい @hbnk

上演の文脈における relevance(関連性)をどれだけ示せるか、ということが演出家の仕事だし、歌舞伎の世界決め、明治初期の西洋の翻案物、宮城聡の仕事などが示すのは、作品が生み出された特定の文脈とかけ離れたところに置かれても、その作品は別種の力を発揮しうるのだということだ。

2011-10-23 16:14:09
ひびのけい @hbnk

商業演劇の演出家や、そして蜷川幸雄がなんやかんやいってえらいと思うのは、「タレント」「スター」とは今の文化状況にrelevanceを持っているからこそタレントでありスターなのだ、ということを知った上で上演の文脈に彼らのrelevanceを持ち込むからだ。

2011-10-23 16:18:54
ひびのけい @hbnk

批評家はしばしば自分にとってのrelevanceのみを問題にしたがる。誰だってそうなのだが、本来自らの「個人的な見解」にしかすぎないものを公共性があり、流通するべきものだということをどこまで前提にするのかは常に考えなくてはいけない。

2011-10-23 16:31:18
ひびのけい @hbnk

柄谷が引用したマルクスの「命がけの飛躍」とは通貨にかぎらず、私的なものが公的なものへと変貌を遂げるときのことについての言及なわけだが、ダメな批評家は自分が命がけの飛躍をしていることに鈍感になっており、私的な見解にしかすぎないものを当然のように垂れ流して流通すると思っている。

2011-10-23 16:34:09