ナイト・エニグマティック・ナイト #3

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

伝説のカラテ技、サマーソルトキック!爪先がデスペラードの顎に食い込み、そして弾き飛ばす。サッカーボールめいて天井にバウンドした生首は、一瞬遅れて断末魔の叫びを上げた「…サヨナラ!」。そして爆発四散。爆風で霧が掻き消えると、そこはマグロの打ち上げられた浜辺のようになっていた。 24

2011-10-23 21:30:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ブラックドラゴンはまだ息のあるヤクザギャングどもにスリケンを投擲し、全員を始末した。下等な害虫を駆除するかのように、一片の慈悲も無く。 25

2011-10-23 21:33:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

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2011-10-23 21:35:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「私には金が無い」とドクター・ハイクは言った「ネオサイタマの芸能界を追放されたのだ。だが才能を見分ける目はある。ケモビールをおごってくれ」。何と胡散臭い男か。だが社会経験に乏しいレイジには、その男が「本物」なのかどうかを見抜くことができない。彼はただ、相手の言葉に従った。 27

2011-10-23 21:43:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

店内スピーカーから流行遅れのサイバーポップが流れていた。「俺のハイクですが」慣れないケモビールを飲みながらレイジは単刀直入に訊く「どうでした?」。「いい」とドクター・ハイク「実にいい。底知れぬ奥深さと苦悩を感じさせる、かつ美しい」「そうですか」レイジは硬い顔を少し綻ばせた。 28

2011-10-23 21:52:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「だが評価はされないだろう」とドクター・ハイク。それから少し間を置いて続けた「…キョートではね。受け入れられ難い。私とネオサイタマに来ないか?君をデビューさせ、私は業界に返り咲く」。「ネオサイタマ…!」レイジは思いがけない提案に驚愕した。驚きのあまり、自然と涙が頬を伝った。 29

2011-10-23 22:01:47
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「しかし私には金が無い」ドクター・ハイクは10本目のケモビールを飲み干しながら告げた「パスポート代、飛行機代、手数料を用意してくれないか?ざっと、このくらいだ」。男が見せた薄汚いメモを見て、レイジは首を横に振る「……無理ですよ……俺には……こんな金額」。 30

2011-10-23 22:08:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」ドクター・ハイクはしばし無言だった「…君は、アッパーガイオンのカチグミじゃないのか?」。レイジは返す「……そうですが、俺の家にもう、金は無いんです」。レイジは困惑した。(((この男は本当に信用できるのか?確かにハイクの造詣はある程度深いようだが……確かめないと))) 31

2011-10-23 22:12:40
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「待ってください、俺、ノートを持ってきてるんです。これの感想を……」レイジは鞄を開けて、教室でいつも書いているハイクノートを探す。……無い。どこにも無い。いやな汗が垂れ始める「ウカツ!まさか下校時に……!」。ドクター・ハイクはそれを遮って無表情で言った「君、今いくらある?」 32

2011-10-23 22:17:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「数千円です」ノートのことで思考能力が限界に達していたレイジは、素直に答えた。ドクター・ハイクはしばらく無言で考えてから、言った「すぐそこの、電脳マイコセンターに行こう。君も来るんだ」。そして白衣を翻し立ち上がる。「何でですか?」レイジはケモビール代を払いながら追いかけた。 33

2011-10-23 22:28:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

電脳マイコセンターのフロントには、耳障りなベース音が鳴り響いていた。レイジは露骨に嫌な顔を作る。「札をくれ」ドクター・ハイクがせびる。千円札が何枚か自販機に吸い込まれ、様々なマイコの顔が映った券売ボタンが光った。券が出てランプも消える。「君も買いなさい」とドクター・ハイク。 34

2011-10-23 22:46:11
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「俺も?訳が分かりません」混乱するレイジ。「君は似ている」とドクター・ハイクは言う「若い頃の私にね。私も自らハイクを志し、失敗した。だから放っておけんのだ。君は汚れを知らな過ぎる。脆過ぎる」。フロントではバーコード眉のサイバーゴス男が、2人の様子を気だるそうな目で見ていた。 35

2011-10-23 22:55:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

レイジはそこに、幾許かの真実が含まれている気になった。そして札を投入する。ケモビールが回り、心臓が鳴る。券売機の写真から、一見してオイランドロイドと解るマイコを選んだ。「終わったらまた安らぎだ、いいね?」とドクター・ハイク「私はまだ諦めていない。デビュー費用は1ヶ月待とう」 36

2011-10-23 23:04:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ドクター・ハイクは受付に券を提出し、奥へと消えた。レイジもそれに倣って、バーコード眉に券を提出する。レイジはそもそも、電脳マイコセンターの仕組みがよく解っていない。(((実際安すぎる……何故、ドクター・ハイクの買ったマイコボタンは、売り切れにならずに、光っていたんだ?))) 37

2011-10-23 23:09:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「部屋はバンブーの7ね」バーコード眉は素子鍵カードと、点滴針やチューブが入ったシャーレ、LANケーブル付きのサイバーサングラスをレイジに手渡した。レイジがぼんやりしていると、バーコード眉はかったるそうに、壁に張られた個室見取り図を指した。バチバチと天井のボンボリが明滅した。 38

2011-10-23 23:14:44
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ねじれた廊下を進みバンブー7の鍵を空けると、そこは無人スシバーの座席よりも気持ち広い程度の、小さく薄暗い個室だった。レイジは椅子に座り、カエルとウサギの墨絵で描かれたインストラクション・ブックを読む。まず、サイバーサングラスのLANケーブルを壁の端子に直結…… 39

2011-10-23 23:21:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……券売機で買ったのと同じ正しいマイコがサイバーサングラスの液晶ディスプレイに出現したら、腕に点滴針を刺す……店員が刺す場合は追加金額……点滴針のチューブを、壁から生えた蛍光ブルーの液体が入ったチューブと繋いで……あとはニューロンのスパークとケミカル反応に身を任せる……。 40

2011-10-23 23:25:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

最後のページにはサイバーサングラスをかけ恍惚とするカエルが描かれていた。「何だこれ…?」レイジの心に沸々と怒りが、そして恐怖が湧き上がってきた。「こんな不衛生な所で、点滴?病気になるぞ?」足下の暗闇を見渡す。およそ自分の理解を超える下劣さに、怒りと恐怖を覚えた。体が震えた。 41

2011-10-23 23:36:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイエエエエエエ!」突然、隣から壁越しに叫び声が聞こえてきた。レイジは息を飲む。「アイエーエエエエエ!!」獣じみた叫び声と、狂ったように壁を叩き続ける音が続いた。レイジはバンブー7を出て、受付に走った。放り捨てられたサイバーグラスには、実際安い3DCGマイコが映っていた。 42

2011-10-23 23:44:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あれ、何か不具合?」バーコード眉がぼんやりと訊く。レイジは息を荒げながら言った「俺の前に入った人の部屋番号、いくつです?」「イロタ=サンかい?悪いけど、どの部屋とかそういうのは、言えないことになってんだよ。アー、防犯上の理由ね」「イロタ=サン?ドクター・ハイクではなく?」 43

2011-10-23 23:48:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ドクター・ハイク!?」バーコード眉は笑った。笑い声は上げていない。ガスマスクに口元が隠されていても、目の表情でレイジには解った。クラスの連中と同じ、敗者を見る嘲笑の目だった。レイジはそれで全てを理解した。朝からの全ての出来事が、ぐちゃぐちゃになってニューロンを駆け巡った。 44

2011-10-23 23:53:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ARRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRGH!!」レイジは狂ったように叫びながら、電脳マイコセンターを飛び出した。それから声にならない嗚咽とともに、第8階層の闇の中を駆け抜けた。 45

2011-10-23 23:56:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(((あいつは、うちの従業員だぜ)))嘲笑の混じったバーコード眉の言葉が、脳内で残響する。惨めさのあまり、消え入ってしまいたかった。レイジは呂律の回らぬ口で叫びながら、リフトへ走った。ネオサイタマでデビューし、万事休すの生活から脱出する希望は、脆くも崩れ去った。 46

2011-10-24 00:07:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

どす黒いものがまた、心臓に溜まっていくのが解った。レイジは上層へと向かうリフトの灯りに向かって駆けた。「俺のノート!俺のノート!あれだけは!」 47

2011-10-24 00:09:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

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2011-10-24 00:12:19