「…あんな風に人を楽しませられるって本当に素敵だと思うわ」 そう呟きながら舞台の方へ視線を移すと、魔法が解けていくかのように撤収作業が進んでいく光景を袖幕の隙間から眺める。
2023-02-19 20:26:59「うんうん!僕もそう思うよ~!でもね、素敵なのは演者だけじゃないんだよ!」 突然相槌を返して来た声に、ペネロープは驚いた様子で振り返る。
2023-02-19 20:27:23エリやアリス、ふぁらんも唐突な座長の登場に目を丸くしているが、入団してから日が浅いペネロープよりかは彼の突飛な行動には幾分か慣れている様子である。
2023-02-19 20:28:13座長はまるで初めから会話の輪の中に居たかのようなノリで話し続けた。 「演者を支える裏方も、外でサーカスを守ってくれる警備も、みぃんなが居なきゃお客さんを楽しませられないから!だから、みぃ~んな素敵なんだよ!」
2023-02-19 20:28:54彼の無邪気なスキンシップを受けて楽しそうにケラケラ笑うエリと、少し戸惑いつつもなんだか悪い気はしないペネロープ。
2023-02-19 20:29:33座長の笑顔や言葉の裏には嘘も偽りも無い。 いや、表も裏も無いのだろう。 大人の笑顔の裏を幾つも見てきたペネロープは不思議な気分になりながらも、母親との"会話"では感じられなかった温かさに自然と微笑んでいた。
2023-02-19 20:30:05程なくして、観客の見送りに出ていた演者たちが舞台袖に戻って来た。 座長は裏方のグループから離れると、彼らに駆け寄り、今日の成功を大いに労う。
2023-02-19 20:30:42「みんなお疲れ様!今日も最高だったよ~!」 「ありがとうございます、座長さん」 先頭を歩いていたリクニスが、大きな緑色の帽子を外して自身の胸元に寄せながらはにかむ。
2023-02-19 20:30:56「座長さん!見て!」 パチンと弾けるような明るい声と共にライカが彼らの間にひょっこりと現れ、手に持っていた小さな花束を見せる。
2023-02-19 20:31:30そのすぐ後ろから同じ花束を持ったヴェールが控えめに口を開いた。 「わ、私たち、さっきお客さんたちをお見送りしてたんです。そうしたら男の人が来て…」 「これを貰ったの!ショーに出てたみんなにって!」
2023-02-19 20:31:46ライカが言葉を引き継ぎ、嬉しそうに締め括ると「ね~!」とヴェールに向き直り、花束を抱きしめる。 ヴェールもにっこりと微笑みを返して、少し恥ずかしそうに自身の花束を眺めている。
2023-02-19 20:32:47「へぇ~っ!良かったね2人とも…ってみんなもらったの!?」 少女たちと目線を合わせる為にしゃがみ込んで聞いていた座長は、ふと周りを見渡して演者たち一人一人を見る。
2023-02-19 20:33:18「バンビ、花束のプレゼントなんて初めてだよ~!!」 「私もよ!ふふっ、こういうのって嬉しいわね」 ネルとバンビがそう話す横で、ジェイドは側にやって来た緑風に花束を見せて微笑み合っている。
2023-02-19 20:34:15「わぁ…っ!これは筋金入りのファンだね!ぜひともお礼がしたいけど…名前とかは聞いてない?」 「あっ」 座長の問いかけに演者全員が声を揃え、しまったと顔を見合わせた。
2023-02-19 20:35:01「聞くの忘れちゃったぁ~っ…」 「ご、ごめんなさい…!」 「私もうっかりしてました…」 ライカは自分の額をペチンと叩き、ヴェールは涙目になりながら深々と頭を下げ、ジェイドは申し訳なさそうに肩を落とした。
2023-02-19 20:35:30「あはっ、まぁしょうがないよ。ここ数日で一番混んでたし他のお客さんもいてそれどころじゃなかったよね!」 大丈夫大丈夫!と一人一人の肩を叩いたり、明るく声を掛けていく。 各地を転々としながら何百回と公演をしていれば、こういったミスは日常茶飯事であるし些細なことだ。
2023-02-19 20:36:33幼児向けの靴特有のぴよぴよと地面を踏み締める音を響かせて、すぐ後ろを歩くイダに見守られながら、エカチェリーナが駆け寄って来た。
2023-02-19 20:37:21座長が片膝を突き両手を広げて待機すると、彼女はその腕の中へ飛びつく。 「リーナ!ショーは楽しかった?」 「うん!きらきらで わくわくして ぱぁ~ってなったのよ~!」 「えっへへ、良かったぁ」
2023-02-19 20:37:39小さな我が子を抱き上げてくるりと一回転すると、もう一度抱きしめる。 キャッキャと舞台裏に響く幼子の高い笑い声に、その場にいる全員が顔を綻ばせていた。
2023-02-19 20:38:11