【GENSHIN】酔っぱらいの逸話より【講談完結】

二次創作、茶博士劉蘇の続きが聴ける講談。
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次回お楽しみに @cha_boshi

旅道をゆくお客さん達は蒲公英酒を飲んだ事がおありかな? 少し遅くなったが、今日はモン'ドで最初の酔っぱらいの話をするよ。酒に酔って森に入った男が狼から聞いた不思議なお話だ。 pic.twitter.com/VzJJZ9jZCd

2023-03-02 21:19:31
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かつて北風の吹き荒れる厳しい時代があった。その氷の嵐に耐える人々の心身を温め慰めるもの。 モン'ドの詩人ならばこう言ったであろうかね…酒とは、蒲公英が空を見ぬ時代と向き合う勇気を与える物であった、と。

2023-03-02 21:19:58
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そんな風すら凍る時代の最初の酒は狐の姿をした風の精霊のいたずらで生まれたのだ。 雪に覆われた土地では食べ物は貴重だ。寒いとは云え腐らない訳では無いし、寒さを耐え忍んだ小動物が時折室に現れては盗み食いをする。当然これには見張りが付いたのだが、ある時ある者が見張りに付いた。

2023-03-02 21:20:29
次回お楽しみに @cha_boshi

見張りに付いた者は、獣が居ようものならこれを捕らえ更に食糧を増やす。ここまでするのが見張りの仕事であったがこの男、怠け者であった。 (おやおや…) ある時、湿度で果物が痛まない様に細心の管理をすべき所であったが、いつもの如く男はサボった。

2023-03-02 21:22:54
次回お楽しみに @cha_boshi

この男はきっと居眠りでもしていたんじゃないだろうかね。 見張りが見ていない隙にいたずら者の狐姿の風の精霊はやってきた。甘い香りを放つ果実の山に潜り込み、ほんの少し手を加えた。 酵母が起きて、果実は発酵を始める…

2023-03-02 21:23:16
次回お楽しみに @cha_boshi

腹が減ったので何か戴いてしまおうとした男は、気が付いた。室を満たすえも言われぬ香り! 甘い!男は甘露の虜となった。 これを獣の皮で絞り出したものが今日まで続く酒の起こりである。 酩酊する男がどうなったか次回お楽しみに。

2023-03-02 21:23:53
次回お楽しみに @cha_boshi

さて、甘露の虜となって雪原で酒を発明した男は、初めて酔っ払った者であり、初めて酩酊して夢の中を彷徨った者でもあった。 酒には風の精霊の力が宿っていたのか、はたまた酩酊という常ならぬ感覚が引き起こしたのか? 酒が人に見せた最初の夢で男は狼になった。

2023-03-03 20:55:34
次回お楽しみに @cha_boshi

男は夢の中で千の時の風を超え、遥か昔雪原で仲間達と暮らした。 白い大地を風と共に駆け回り、群れと共に糧を獲て、時に人と獲物を奪い合った。 白銀がきらめくのを見て、闇夜に遠く響く仲間の歌を聞き長い時を過ごした。 新しき出会い。最初の仙霊との出会いもあった。

2023-03-03 20:56:02
次回お楽しみに @cha_boshi

きっとこの男は夢の中で狼の生涯を全うしたのだろうね。 狼の夢を見た人々は狼の駆ける草原に憧れを抱き、大地と共に生きる力強さ美しさに希望を見た。 しかし、夢は人だけが見ているもので無かったのだ。集団で暮らす人、群れで暮らす狼、孤独では生きられぬ者同士の夢は繋がっていた。

2023-03-03 20:57:28
次回お楽しみに @cha_boshi

人の夢を見る狼は何を思うのか? それはそれは、また次回のお楽しみに。

2023-03-03 20:57:57
次回お楽しみに @cha_boshi

酔夢の先で交わった狼の見る夢、狼が覚えたのは恐怖だった。 (なんと!) 人々は狼の夢を面白く思ったが、人の夢を見る狼はちっとも面白くなかった。 そもそも夢幻の中に希望を見出す意味が分からなかったし、それに溺れるのは危険で自然に生きる狼にとって人の際限のない欲望は恐ろしいものであった。

2023-03-04 20:55:48
次回お楽しみに @cha_boshi

そして、己が何者であるのか分からなくなる感覚に陥る事は狼を更に恐怖させた。 己は狼だったか人だったか。 分からない。 狼の魂を持つ人なのか? まるで区別がつかないのだ。 これは毒だ! 人の作る酒とは魂の在処を危険にする。そう狼達は考えた。

2023-03-04 20:56:35
次回お楽しみに @cha_boshi

以来、狼は酒という毒には近づかない誓いを立てた。故に狼は風の民ではなく、酒と牧歌に属さない。狼は森と荒野に暮らすのだ。 これが狼が語る、酒と狼の関係の始まりだ。そして今でも狼が暮らす土地は奔'狼領と呼ばれて人の暮らす地から離れた地にある… このお話はこれでおしまいだ。

2023-03-04 20:59:46