荒山孤剣録より【講談完結】

原神二次創作茶博士劉蘇による続きが聴ける講談。
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次回お楽しみに @cha_boshi

今日も続きをお話しよう。 屠毘荘の荘主に負わされた傷は深く、金七十二郎は立っているのもやっとである。それでも歩みを止めぬ孤高の剣客は仇を求め荒山へ踏み入った。 天然の罠と化した山には陰に潜んだ賊人共が獲物を求めて手ぐすね引いて待ち構える。

2023-03-30 20:53:44
次回お楽しみに @cha_boshi

だが、既に金七十二郎は満身創痍である。この険峻な山道そのものが凶器となった。剣客は剣を杖代わりに引き摺る足を前に出し、悪路に阻まれ、前へ進んだと思えば砂利が足を取り、崩れ落ちる。 その様子を枯れ松の生えた崖の上から見つめる影が二つあった。

2023-03-30 20:54:10
次回お楽しみに @cha_boshi

勝敗は既に決した。捨ておいてもやがて奈落に落ちて死ぬるじゃろう。 痩せこけた老婆は言った。その青く冷たい眼光には殺気が篭もりマムシの様に鋭い。老婆の隣りでは肥えた老爺が鐘の様なガラガラとした声を響かせた。

2023-03-30 20:54:45
次回お楽しみに @cha_boshi

気を抜きなさるな! 彼奴は屠毘荘で三百六十三人斬っておる。犬まで鍋へぶち込みおって。あの様な瀕死の身と言えど油断をすべきではない! フン… 老婆は顔へ皺を寄せて鼻を鳴らし、さっさと森の中へ姿を消してしまった。

2023-03-30 20:55:50
次回お楽しみに @cha_boshi

…… 老爺も片端になった剣客をしばらく見つめ、太った腹を撫でながらゆっくりと立ち去った。その時、草には一本も触れることがなかった。 急に暗雲が立ち、空は暗くなり雨が降り始める。濡れそぼつ雨の中を金七十二郎は歩いた。剣を地に刺し重くなる体を引き摺りあげる様に歩みを進めた。

2023-03-30 20:57:26
次回お楽しみに @cha_boshi

しかし、失血と寒さには勝てず終には不毛の山路へ倒れ伏した。 意識が闇に飲み込まれる前に金七十二郎が見たのは、翡翠色の裳裾が風に揺れる懐かしきあの頃の光景であった。 荒山孤剣録はここでお終いだ。続きは皆さんの想像にお任せするよ。また次のお話をお楽しみに!

2023-03-30 20:59:59