荒山孤剣録より【講談完結】

原神二次創作茶博士劉蘇による続きが聴ける講談。
0
次回お楽しみに @cha_boshi

今日は気分を変えて人気の武侠物はいかがだろうか? 孤剣は光の如し。 鉄の閃光は夜空を切り裂き、星月の輝きを奪う。 荒山にざわめきが立つ。 孤剣は翻り、秋風が吹き抜ける。 元素力も錬金術も存在しない世界の復讐劇の幕開けだ。

2023-03-25 20:54:56
次回お楽しみに @cha_boshi

風雨が止んだ。 ひとり野道を往く者がいる。 ちぢれ髪にぼうぼうの髭、鉤鼻とその上に嵌る爛々とした梟の目つき。その男の風体は尋常ではなかった。ふらふらと痩せこけた体で足を運ぶ姿はさながら病膏肓(やまいこうこう)に入る病人の様である。 寧ろ、この山奥においては幽鬼と言った方が相応しい。

2023-03-25 20:55:19
次回お楽しみに @cha_boshi

三日三晩、男は飲まず食わずで休む事なく歩き続けていた。 三日前、男には師父と看板の傾いた道場が手の内にあった。しかし、今は鬱屈とした悲哀が雨と共に男の額に滴り濡らしていくばかりである。

2023-03-25 20:56:25
次回お楽しみに @cha_boshi

三日前、名も知らぬ剣士が師父と妹弟子を切り捨てた。無情の高山に門人は果て、雪が紅に染められたのだ。 今この時、男は名を捨て、新たにこう名乗る。───金七十二郎。 同門の門下生七十二人の内、生き残ったのはこの男ただ一人であった!

2023-03-25 20:57:43
次回お楽しみに @cha_boshi

一体どれほど歩いたことか、後ろから荷車がやって来た。金七十二郎は路端へ避けてから御者へ話しかけた。 屠毘(とび)荘へ向かう車か? 御者は頷き、ここいらの車は殆どが屠毘荘を通るだろうよ、と返した。

2023-03-25 20:58:24
次回お楽しみに @cha_boshi

ならば、そなたの車に人は乗せられるか? 重ねて尋ねた金七十二郎に対し御者は、乗れるがアンタを乗せてくつもりは無い、と答えた。 金七十二郎は御者の言葉がまるで理解出来ぬ。 どうせ同じ方向なのだ。何故に俺を乗せるのは駄目なのだ?

2023-03-25 20:59:01
次回お楽しみに @cha_boshi

儂とアンタを一緒にしてもらっちゃ困るね、と御者が言った直後だ。 黙れ。 言うや否や剣閃が走り、御者の体は車から落ちて地に伏した。 金七十二郎はこう云う男である。

2023-03-25 21:00:02
次回お楽しみに @cha_boshi

男は全てを失い肝も小さくなったが、それでも繰り言は大嫌いである。 血に塗れた車へ乗って、金七十二郎は屠毘荘へ向かった。 このお話の続きは次回お楽しみに!

2023-03-25 21:01:11
次回お楽しみに @cha_boshi

昨夜は金七十二郎が屠毘荘を目指し車へ乗った所まで話したね。今夜も続きをお話しよう。 屠毘とは、遠い冥思と言う国の言葉で、欺瞞を焼き払い真実を見つけると言う意味だ。 屠毘荘は荒涼とした山の麓にあり、外界と繋がるのはただ一本の道のみである。それは正に、男が今し方通ってきた道であった。

2023-03-26 20:51:21
次回お楽しみに @cha_boshi

曇天の下、風が唸りを上げる。 仇ができる迄、この金七十二郎と屠毘荘の間に何の因縁もありはしなかった。 牛車がこの荒山へ辿り着く頃には既に空は真っ暗で黒雲が月を覆い隠していた。金七十二郎はこの暗闇に乗じて気配を殺し忍び込んだのだ。

2023-03-26 20:52:29
次回お楽しみに @cha_boshi

深い闇の中、一筋月明かりが荘主の頭上へ差し照らした。屠毘荘はそれほど大きな領ではない。だが、荘主は決して只者では有り得なかった。 荘に住む者達は荘主が何者かを知らぬ。名を尋ねる勇気すら持ち合わせていない。知るのは、ただ荘主の血の様に赤い目と、背負う流させた血の重さのみである。

2023-03-26 20:53:23
次回お楽しみに @cha_boshi

荘主の赤い目は鋭い光を放ち、見る者の心穿つ。瞳がそのまま性格を映した様に、人柄も抜き身で構えた槍の様だ! 時間だ。 荘主は独り言を言った。 いつの間に黒雲は晴れ、坊主頭の上、高い空に月が爛々と輝いている。

2023-03-26 20:54:21
次回お楽しみに @cha_boshi

さあ、遂に仇の元へ金七十二郎は辿り着いた!しかし、仇の方もこいつは只者ではないよ。 これからどうなってしまうのか! このお話の続きは次回お楽しみに!

2023-03-26 20:55:16
次回お楽しみに @cha_boshi

金七十二郎が夜闇に紛れて屠毘荘の荘主を狙った所まで話したね。では、今日も続きをお話しよう。 悪鬼が出た。ソレは剣を振り荘主の屋敷の外で荘主の手下共を切ってまわる。 喩え、屠毘荘が悪党の集う場所であるとは言えど、武門流派の徒弟なれば掟により軽率に剣を交じわす事など出来ぬ。

2023-03-27 21:06:20
次回お楽しみに @cha_boshi

しかし、金七十二郎は流派を失った身である。掟の縛りを解かれた悪鬼は渇き、剣を持って仇の血を求めたのだ! 風雲急を告げる。黒雲は再び立ち込めて月を隠し、じっとりと重たかった大気は雫となって降り注ぎ始めた。

2023-03-27 21:07:29
次回お楽しみに @cha_boshi

悪鬼の緋を雨が流し、悪鬼の殺気すらも雨に纏わせる。そしてまた剣を振るえば、鬼は緋く染まった。 血雨の中を緋色の剣客が歩いた。既に満身創痍の男の歩みを止める者はいない。血霧が洗われてできた泥濘の上、満身創痍の金七十二郎は重い足を引き摺り荘主の屋敷へ向かった。

2023-03-27 21:09:45
次回お楽しみに @cha_boshi

表の剣戟が止み、辺りの物音が静まり返ったのを荘主は察し、呑んでいた酒を撒いた。殺意を持って立ちはだかる者への死出の餞か!はたまた自らへの弔いか! 戸が開き血腥い空気を伴って緋色の男が入ってきた。 荘主、尋ねたいことがある。 …随分と殺ってくれたな。

2023-03-27 21:10:23
次回お楽しみに @cha_boshi

多からず少なからず、ぴったり三百六十二人。 それを聞いた荘主は奥歯を噛み締め顔は赤黒く変わり、こめかみに青筋を浮かべた。 お!それに犬一匹。 男は荘主の座る膳に何かを投げて寄こした。骨だ。長時間煮た様に綺麗になっていたが荘主には分かった。静かだ。外の番犬の吠える声が聞こえない。

2023-03-27 21:12:22
次回お楽しみに @cha_boshi

金七十二郎は一刻程で屠毘の郎党ども三百六十二人を屠り、番犬で出汁を取ったのだ。 人でなしめ! むごいことを! 荘主は悲憤し剣を手に斬りかかった。金七十二郎の命運や如何に! この続きはまた次回のお楽しみに!

2023-03-27 21:16:41
次回お楽しみに @cha_boshi

さて、今日も続きをお話しよう。 金七十二郎は斬りも斬ったり屠毘の郎党三百六十二人!と、犬一匹。悪鬼の様な緋色の男に対峙した荘主は人でなし!と罵るなりぱっと立ち上がり斬りかかってきた。 荘主の剣は鋭く速い。なかなかの腕の持ち主で、斬り合う金七十二郎の体にいくつもの深手を負わせた。

2023-03-28 20:51:52
次回お楽しみに @cha_boshi

金七十二郎危うし! だがしかし、荘主は剣士の至るべき心眼の領域に遠く及ばなかった! ここは元素力のない世界。当然剣術にも元素の加護などありはしない。剣客は元素ではなく、己の持てる心·技·体を振り絞って戦うより他ないのだ。

2023-03-28 20:52:39
次回お楽しみに @cha_boshi

剣を己の腕の様に扱い、精神を研ぎ澄ませ何も見逃さぬ心眼とする。この世界で剣を振るい身を立てるならこれを理解している必要があったのだ。 荘主は速剣の達人であったが、心眼は未熟。予想だにしない一撃に倒れてしまった! 金七十二郎は左手に持った欠けた香炉を投げ捨て荘主へ近づいた。

2023-03-28 20:53:31
次回お楽しみに @cha_boshi

眼前の剣客へ攻撃する事に集中するあまり荘主はその相手の左手が繰り出す攻撃に気付けなかったのだ。 電光石火の一撃で香炉を額に喰らった荘主はもんどり打って壁に激しくぶつかり動かなくなった。 既に雨は止んだが未だ重たい灰色の雲は立ち込めている。

2023-03-28 20:55:07
次回お楽しみに @cha_boshi

卑怯者め……。 ……お前の探す仇は、この後ろの荒山にいる…自ら死にに行くとはな……。 荘主の言葉へ応えるのは風の音のみ。金七十二郎は仇の情報を黙って聞き去った。 主の居なくなった屠毘荘には空っぽの家と亡者の唸る様な風の音が残された。それもまた上がった火の手により消えるであろう。

2023-03-28 20:56:27
次回お楽しみに @cha_boshi

この世界には幽霊など居はしない。 元素力のない世界。当然亡者の記憶が元素の共鳴の力を借りて蘇る事もないのだ。 今日のお話はここまでだ。次回お楽しみに。

2023-03-28 20:56:45