連心珠 より【講談完結】

次回お楽しみに @cha_boshi

きっと仕事が忙しくて忘れちまったんだ。俺で間違いない。 ほら！早くモラを寄越しな！ もし報酬を出さねぇと言うのなら、お前の所の評判を落として商売を出来なくさせてやる！ さあ、こんな事を言うものだから梓心は弱ってしまう。なんて面の皮の厚い人達だろう！つい恨み節が口を衝いてでる。

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張ばあ、あなたが考えた方法のせいですよ。 梓心は自分を威圧する男たちの囲いの間から、近くにやって来ていた張ばあに言葉を投げた。張ばあは徐ろに箒を手に取り梓心に言った。 お嬢さんや、そう慌てなさるな。こんな野郎どもはすぐに追い払ってやるわい。 そう言って仁王に立つ。

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喝ッ! 張ばあから漲る覇気が男たちの度肝を抜き、揃って地面に座り込んでしまった。そこをすかさず詰め寄って小柄なばあとは思えない勢いで迫って言った。 あんたらみたいな悪党をとっ捕まえる為にわざとあんな張り紙をしたんじゃ。あんたらが言っているのは全部嘘じゃ！

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もし本当なら梓心の耳飾り、香膏、髪飾りをここへ持ってくるんじゃな。さもなければ… 思わず男の内の一人が聞き返した。 さもなければ？ さもなければ、貴重な琉璃百合を押し固めて作った髪飾りに夜泊石の耳飾り、舶来物の香膏…まとめて弁償じゃ！さあ！モラは？モラを早う出すんじゃ！

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うわぁ! やめろ！金はもう要らんから！ 早く本当に拾ったヤツを連れてくるぞ！ 張ばあが、地面に座り込んだろくでなしの野郎どもを手に持った箒でぶっ叩きながらまくし立てたものだから男たちは這う這うの体で逃げ出した。 この続きはまた明日のお楽しみに！

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張ばあに一喝された男たちは、箒で叩かれて慌てて本当の梓心の恩人を連れて来ようと一目散に走り出した。張ばあの策はどこまで見込んでいたものなのか…今日も続きをお話しよう。

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走り回っていた男たちの内の一人が範皆に目をつけた。埠頭で働く範皆にずんずんと近づいて肩を掴み振り向かせる。 おい！見つけたぞ！お前が娘っこの物を盗った所為で俺らが大変な目に遭ったんだ！ 何？この範皆、其のような卑劣な事などしない。いわれのない罪で疑われて貰っては困るな。

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男の乱暴な言い草にも範皆は冷静である。 いい度胸してるじゃねえか！そこまで言うならお前！落とし主に会ってもらおうじゃねえか！ 構わない。逆に誰がそんな事を言って私の名誉を傷つけているのか知りたいものだな。 そう言って男を伴った範皆は、梓心の元を再び訪ねる事になったのだ。

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失くし物をしたのはこの娘さ！どうだ？まだ言い逃れする気なのか。 男の言葉を聞いて梓心に顔を向けた範皆は驚いた。見当違いの疑いを掛けられ内心腹立たしさもあり、多少語気が強くなってしまう。 なんと、君だったのか！

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謀るのはよしてくれ。この範皆、埠頭の一労働者に過ぎない。潔白だ！ 女物の装飾品を盗む趣味もありはしない。面倒事にならない様に拾って直ぐに返したさ。 ここで、梓心はようやく出逢えた恩人の名を呼ぶ機会を得たのである。 この続きは次回をお楽しみに。

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範皆は濡れ衣から内心に怒りを持っていたが、梓心は遂に恩人の名を知ることが出来た。ようやくお礼を言うことが叶ったのだ。今日も続きをお話しよう。

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範皆さん、とおっしゃるのですね。 梓心の心は、ようやく名を知る事が出来た喜びと再び勘違いが恩人に降りかかった申し訳無さが綯い交ぜになって渦巻いている。 また私の所為でご迷惑をお掛けしてしまいました。申し訳ございません。お許し頂けるのならば何度でも謝罪をさせて頂きます。

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梓心は渦巻いていた気持ちが溢れそうになり、範皆の方へ歩み出て頭を下げた。 先程の一件は誤解なのです。実は… こう梓心が事情を話始めると、範皆は拗ねた様にふんと後ろを向いた。 この態度が梓心の琴線に触れたかどうかは彼女のみぞ知る。が、梓心は微笑んでもう一歩範皆の方へ歩み寄った。

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これには深い訳があるのです。以前あなたが、名乗られることも無くお帰りになったので、張り紙をしてあなたを探そうとしたのです。 ただ、この様な事態を招いてしまうとは思いませんでした。私の不徳の致すところです。大変申し訳ありませんでした。

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そっぽを向きながらも横目で相手を観察する範皆は、梓心の下げた頭のつむを眺める内に冷静になってきた。 なるほど。まさか、誤解であったとは。こういう時こそ落ち着いて怒りを静めなければな。先ずは、事情を訊くべきだ、と。 そうしてこの謝罪をする娘に向き直った。 この続きは次回をお楽しみに！

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冤罪をかけられそうになった怒りが溶けて冷静になった範皆は事情を聞いてみようと梓心へ向き直った。今日はここからお話しようかね。 コホン、とひとつ咳払いをして範皆は仕切り直した。 では、聞かせてもらおう。 この件について、先程は誤解だと言っていたな。

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つまり、腕輪を拾った者を探す為に張り紙をした所、行き違いが起きて私が盗っ人扱いされてしまった。と、そういう事でいいのか？ 梓心は本人から確認され済まなさから更に頭が下がる。 はい、そうです。申し訳ありません。

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分かった。もう頭を上げてくれ。 こちらも大きな声を出してしまい、済まなかった。 逆に範皆に頭を下げられてしまい、梓心も慌ててしまった。 そんな、とんでもありません…と、再び頭が下がってしまう。 と、ここでいい加減黙っていられなくなった者がいる。

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は！？何でアンタがペコペコしてんだよ！結局モラをくれんのか？どうなんだよ！ 範皆を連れて来た男が騒ぎ始めた。だが心配は要らない。 静かにせい！二人が折角話をしとるんじゃ、お主が横から口を挟むんじゃないよ！ 騙りで千岩軍を呼ばれたくなかったら、さっさと立ち去るんじゃ！

次回お楽しみに @cha_boshi

張ばあが男を追い払ったお陰で、二人の会話は邪魔される事が無かった。 そういえば、毎日ここで魚を売っているのに、なぜ今まで貴方に逢えなかったのでしょう？ 毎日仕事に行く時にこの道を通っているが…ここは人が多いから見つからなかったのだろう。

次回お楽しみに @cha_boshi

縁があれば、明日にでもまた逢えるのかもしれないな。 そうですね…明日もまたここでお待ちしております。 言葉は自然と紡がれて、二人を包む空気は柔らかい。二人のこの先に待つものは？それはそれは、また次回お楽しみに。

次回お楽しみに @cha_boshi

実際の演劇では、ヒロインは雲先生でその事について盛上げ役の張ばあが云う部分があったけれど、そこを講談で言うと訳が分からなくなるから少し変えているよ。

次回お楽しみに @cha_boshi

青年と美しい娘、数珠は二人を同じ一本の糸へ繋いだ。今夜も続きをお話しよう。 範皆は仕事の為にいつもの往来を、キャンキャンと賑やかな犬達の吠えるのをかいと聞きながら歩いていた。 すると道の向こうから、朝ぼらけに屋根に残る雪を見る梓心がやってくるではないか。

次回お楽しみに @cha_boshi

梓心か？ はい。まさか範皆さんにお会いできるなんて。 昨夜の夢での逢瀬で見たいとしい人。夢が醒め二人が別たれるその時の悲しさよ。逢いたいと云う願いは夢の後でまさに叶ったのだ。お互いを求める二人の気持ちは朝から最高潮である。

次回お楽しみに @cha_boshi

水平線から日が昇ってしまった…埠頭での作業がまもなく始まる。仕事へ行かなくては。梓心、お先に失礼するよ。 自分へ言い聞かせる様に範皆は出発したが、振り返る。自分の為に見送り頭を下げてくれる梓心を見て更に後ろ髪を引かれる心地であった。