- rouillewrite
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向日葵太陽が暗闇の中で手を伸ばして取ったのは、1冊の茶色表紙をした本。 …いや、本と言うには少し大きい。 彼の上半身の半分くらいを覆うその表紙には、アルバム、と描かれていた。
2023-04-16 21:05:31時刻は23時を少しすぎた頃。 父親は案の定居なかったので、鍵を使って家に入った。ここにはもう数週間帰っていない。荷物も徐々に焔楽の家に運び出しているし、ほとんど用はないはずだが。
2023-04-16 21:06:51どうしても確かめたいことがあった。書き置きは一応してきたが、バレたら怒られるんだろうなぁと考えつつ、表紙をめくった。 父親が万が一帰ってきた時に鉢合わせると何かとまずいので、部屋の電気はつけず、机の上にあるライトで手元を照らす。
2023-04-16 21:07:56自分が写っている写真はほとんどない。あるのは会ったことのない母の写真と、自分が入院してた頃に、暇を持て余して取った手元の写真だけ。このあたりは自分でアルバムに入れたので覚えている。
2023-04-16 21:09:04母の写真は自分によく似ている……と思う。 自分を産んだ後すぐに亡くなってしまったと、いつの日か父が話してくれた。 まぁ、そんなことは置いておいて。
2023-04-16 21:11:01パラパラと捲りながら、ページ一つ一つを確認していく。 もしかしたら残っているかも、なんて希望を抱きながら。
2023-04-16 21:11:23(うーん……やっぱ残ってないかぁ……?) pic.twitter.com/SfWA4EaLdc
2023-04-16 21:12:48顎に指を当てて、じっとアルバムを見つめ、唸る。 ちょうど小学校高学年頃に入院していた時、かつて出会ったとある女性。 苗字までは思い出せたのだから、顔でもあれば記憶を取り戻すには1発だろうと思ったが、あいにく写真を撮った記憶すら曖昧である。
2023-04-16 21:13:52せめて入院していた病院が思い出せればいいのだが、それもわからない。 あの日、火咲に自分が入院していた病院を聞き出せればと思ったが、黒服の男に奪われたとなればそれも叶わない。
2023-04-16 21:15:00わーっと喚き散らしながら、太陽はアルバムを放り投げる。ゴトン、と床に重たいアルバムの背表紙が当たる音がして、「やべっ」なんて言いつつ慌てて拾い上げた。 その時、アルバムの端から、1枚の紙が落ちる。
2023-04-16 21:17:22アルバムを箱に戻しつつ拾い上げると、それは何かのチラシだった。A4サイズにかかれた何かの告知。 随分と優美なフォントで書かれた大きな文字は「定期演奏会」とある。 日付は掠れていて読めないが、大体5年くらい前だろうか。ちょうど太陽が入院していた時だ。
2023-04-16 21:19:45そう自分で口に出して、太陽は首を横に振る。 違う。 演者の一覧の中に、あの文字が入っている。
2023-04-16 21:22:15この演奏会のチラシを見せたら、誰かしら知っているだろうか。…というか、同じ苗字の聖遥との関係も気になるので、本人に聞くのが1番手っ取り早い気もする。
2023-04-16 21:24:31手がかりが全くないよりはマシだ、とチラシを綺麗に折りたたみポケットにしまう。 ついでにアルバムと夏用の着替えもダンボールに突っ込んで、外に出ようと玄関まで来た途端。
2023-04-16 21:26:03