- mocharn3rd
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私は、キッチンに歩いた。 ドクターが最近、栄養が偏っている食事をしていると思ったからだ。 キャベツと玉ねぎを千切りにして、プチトマトを添える。 サラダは完成だ。
2023-05-01 21:06:19それから、にんにくを取った。 人によってにんにくの皮の剥き方は違う。軽く包丁を入れて、それから包丁の平らな面で潰すような人もいれば、包丁をいれてそのまま皮をむくタイプのひともいる。 私は日によってまちまちだ。今日は包丁の平らな面でにんにくをつぶした。
2023-05-01 21:06:30豚肉をこまかく刻み、しょうがも刻む。 ごま油をフライパンに流して、にんにくとしょうがを炒める。 「うーん……」 麻婆豆腐において、ひき肉にどこまで味を染み渡らせるのか、あるいはとろみをどこまで出すのか、というのは、人によって異なる。
2023-05-01 21:06:52「チェンさんは、辛いほうがいい、ひき肉に味がついてるほうがいい、みたいなこと言ってましたけど……」 ドクターは、どうか。 砂糖塩酢醤油味噌、を加える。豆腐を切って、おたまは押すようにする。 おたまを引くようにすると、豆腐が切れてしまうのだ。
2023-05-01 21:07:04「アーミヤ、ありがとう」 私はドクターの執務室に、麻婆豆腐とごはんを持ってきた。 ドクターはスプーンに手をつける。 「……うん、おいしい!」 「良かったです!」
2023-05-01 21:07:29「おいしいおいしい! これからの仕事も沢山できるよ!」 「そんなに喜んでもらって、何よりです、ドクター」 私を見ないでください。 私が喜んでいる姿などロドスの外にあるべきです。
2023-05-01 21:07:47「アーミヤ」 それは甘やかであると同時に、こわいこえである。 「一緒に食べよう、といったらおかしいね。一人分の量を出してくれたってことは、アーミヤははもう食べてるか後で食べるんだし」
2023-05-01 21:08:00「はい」 「一体、何をしたら君に感謝を伝えられるんだろう」 私は首を振った。 「ドクター。聞いてください。私は、あなたがこうして元気でいることが、既にありがたいことなんです。だから、感謝だなんて」
2023-05-01 21:08:11「知ってるよ」 ドクターの声がする。それは、どんな人間が使うアーツよりも存在感のある声だった。 「私はそのうえで、アーミヤ、君に感謝をしたいんだ。わかるかい」 「あっ」
2023-05-01 21:08:25喉が渇く。 好きな人の声だというのに、頭を撫でられているような、首を絞められているような、変な気分になる。 私はドクターに距離をつめる。そして、ドクターの頬を指で持つ。 「わたし相手だからいいですけど、その態度はパワハラになりかねませんよ」 「そうかい。……いや、そうだね」
2023-05-01 21:08:44ドクターは麻婆豆腐を食べ進める。 ふう、と私は息をついた。 「アーミヤはもう少し甘い味付けのほうが好きなんだよね」 あ、と声を出した。 「わざわざ私向けに作ってくれて、ありがとう」
2023-05-01 21:09:03