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『再演のライヘンバッハ』反応ツイート&試し読み

Amazon Kindleで配信中の拙作『再演のライヘンバッハ』の反応ツイートと試し読み部分をまとめたもの。
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森人 @al4ou

モリアーティは自身が追い詰められかけていると気づくや、邪魔なホームズを亡き者にしようと刺客を放った。馬車に轢き殺させようとしたり、頭上にレンガを落としたり、ゴロツキに棍棒で襲わせたり、狙撃手に空気銃で狙わせたりした。

2023-06-17 23:55:15
森人 @al4ou

身の危険を感じたホームズは、一斉検挙が終わるまでのあいだワトソンを連れてヨーロッパへ逃れた。

2023-06-17 23:55:15
森人 @al4ou

だがホームズの仕掛けた罠をかいくぐり、モリアーティは彼のあとを追って来た。表舞台に上がらない演出家の仮面をかなぐり捨てて。そして、今や両者は雌雄を決しようとしている。

2023-06-17 23:55:16
森人 @al4ou

燃え盛るような激しい感情に満ちた瞳で、モリアーティはホームズを鋭くにらみつける。

2023-06-17 23:55:16
森人 @al4ou

「まったく、やってくれたなシャーロック・ホームズ……。私がロンドンで丹念に張り巡らせた蜘蛛の巣を、キミは子供じみた正義感で、ズタズタに引き裂いてしまった。それでいてキミらしからず、あまりにも性急かつ強引なやりかたで」

2023-06-17 23:55:16
森人 @al4ou

「僕らしくない? あなたが僕の何を知っていると?」 「何もかもだよホームズ。私はおそらくこの世界の誰よりも、キミという人間を理解している。ものぐさな兄よりも、色ボケのやぶ医者よりも――あるいは天にます神よりもだ。」

2023-06-17 23:55:17
森人 @al4ou

「しかし、だからこそわからない……なぜだホームズ? なぜなのだ? キミさえその気なら、私たちは上手く付き合えたと思わないか? 私が犯罪を演出し、キミが名探偵としてその事件を解決する。さしずめ新聞小説(ロマン・フィユトン)のように、何度でも茶番を繰り返せばいい。きっと楽しいぞ」

2023-06-17 23:55:17
森人 @al4ou

「……確かに、そんな未来を一度でも想像しなかったかと言えば、嘘になるだろう」ホームズは言った。

2023-06-17 23:55:18
森人 @al4ou

「そうなっていたら、実に愉快だったろうさ。あるいは、ワトソンの小説を心待ちにする読者たちも、それを待ち望んでいたかもしれない。名探偵が数々の難事件に挑み続ける展開を。……だが教授、あなたは越えてはならない一線を越えてしまった」 「一線?」

2023-06-17 23:55:18
森人 @al4ou

「犯罪者に計画を授けるのはまだいい。言ってみれば、単に物事を効率化しているだけだからな。しかし、あの薬はダメだ。アレは犯罪に手を染めるはずのなかった善良な市民を、ムリヤリ犯罪者へと変えてしまう。さしずめ、悪魔の鏡が目と心臓に刺さったカイ少年のように」

2023-06-17 23:55:19
森人 @al4ou

「ムリヤリとは人聞きが悪い。あの薬の効能はあくまで、心の底に秘めた本性を――その欲望を表出させるだけだ。肉体という牢獄に閉じ込められた、魂そのものをな。もし薬を飲んだ者が悪魔になるなら、もともとその者の本性が邪悪だったということだ」

2023-06-17 23:55:20
森人 @al4ou

「いいや。たとえ本性が邪悪であろうと、善良に生きることはできる。ある意味では、生粋の善人よりも尊敬に値する人々だ。教授、あなたはそんな人々の気高い努力を踏みにじろうとした。断じて許すわけにはいかない」

2023-06-17 23:55:20
森人 @al4ou

「見解の相違というヤツだな。キミならば理解してくれると思ったのだが、残念だよ……。まァいい、どうせ何もかも終わった話なのだから。私はこれまで築き上げてきた、すべてを失ってしまった。もう元には戻らない。ホームズ、先日キミのもとを訪れて告げた言葉を、まさか忘れてはいないだろうね?」

2023-06-17 23:55:21
森人 @al4ou

「ああ、もちろん憶えているとも。『もしキミが賢明にも私を破滅させるというのならば、私もキミを同じ目に遭わせるので安心したまえ』あなたは僕に、そう言った」

2023-06-17 23:55:21
森人 @al4ou

「そうだ。するとキミはこう返したな。『もし前者の結末を確信したならば、公共の利益のために、僕は快く後者を受け入れよう』と――。今がそのときだ、シャーロック・ホームズ!」

2023-06-17 23:55:21
森人 @al4ou

モリアーティは長い両腕を広げて、ホームズ目がけてタックルした。どこにも避ける余地はなく、何とか受け止めようとしたホームズだが、濡れた岩の地面は滑って踏ん張れない。そのままふたりは断崖から転げ出て、もろとも滝壺へ真っ逆さまに落ちていき――

2023-06-17 23:55:22
森人 @al4ou

気がつくと、モリアーティは岸辺に倒れていた。アルプスの雪解け水に浸かっていたせいで凍え切ったカラダは死体のようだが、夕陽のまぶしさと暖かさに、まだ生きていることを実感する。見上げれば崖は、はるか遠く。よくあの高さから落ちて無事だったものだ。しかも、奇跡的に無傷で。

2023-06-17 23:55:22
森人 @al4ou

「……そうだ、ホームズは? ヤツはどうした?」 あわてて周囲を見まわすが、宿敵シャーロック・ホームズの姿はどこにも見当たらない。死んだのならば、すぐ近くに死体が浮かんでいてもおかしくないのだが。もし生きていたとすれば、都合よく気絶しているモリアーティを放置するとも思えない。

2023-06-17 23:55:22
森人 @al4ou

しかし、現にホームズはいないのだ。彼の言葉を借りれば、すべての不可能を除外して最後に残ったものが、たとえどれほどありえそうになくとも、それが真実となる。ならばみずからの足で立ち去ったか、誰かが運んで行ったか、そのどちらかしかありえない。

2023-06-17 23:55:23
森人 @al4ou

ホームズのせいで、モリアーティは何もかも失ってしまった。もはや生き続ける理由はない。だが、こうして運よく生き延びてしまった以上、あらためて孤独に自殺する気分でもなかった。せめてホームズの生死を確認し、それから今後のことを考えても遅くはあるまい。

2023-06-18 00:01:21
森人 @al4ou

ホームズが生きているとしたら、ワトソン博士と合流するためにマイリンゲンへ戻るだろう。またはワトソンが駆けつけて、気絶もしくは死亡したホームズを発見したとしても、やはり同様の選択をするはずだ。

2023-06-18 00:01:22
森人 @al4ou

そのまま当初の目的地であるローゼンラウイへ向かうのは、得策とは言えない。まだかなり距離があるし、夜道は暗くて危険だ。それなら一度通った道のほうが安全だろう。

2023-06-18 00:01:22
森人 @al4ou

したがってモリアーティの行き先も決まった。ただしその前に、濡れた衣服とカラダを焚火で乾かしてからだが。

2023-06-18 00:01:23
森人 @al4ou

夜道を二時間近くかけて歩き、ようやくマイリンゲンへとたどり着いた。おそらくホームズたちは、もともと宿泊していた英国風宿屋にいる可能性が高い。うっかり遭遇しないよう祈りながら、慎重に探りを入れよう。

2023-06-18 00:01:23
森人 @al4ou

宿に足を踏み入れると、主人であるペーター・シュタイラーに出迎えられた。それは間違いなくペーター・シュタイラー本人だった。つい数時間前に顔を合わせたのだから、見間違えるはずがない。けれどもモリアーティは、おのれの目を疑わずにはいられなかった。

2023-06-18 00:01:24
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