今の時代、どこにもあるような狂気を秘めた、病んだ女の子葵のツイノベです。まだ完了していません。
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Toki Minami @tttxoxoxokkkiii

葵40 父は離婚後間もなく北の大地に赴任していた。それから滅多に会うことはなかった。元々仕事でほとんど家にいない父だった。思い出といえば幼い頃、怒ると顔を見ない母とは対照的に、父はしゃがんで同じ目線で話してくれたこと。散歩に連れ出してくれたこと。それぐらいだった。#twnovel

2011-10-31 00:22:30
Toki Minami @tttxoxoxokkkiii

葵39 葵のお父さんに会いに行こうよ。テレビで雪祭りを見たタケルがそう言ったのは大学2年の冬。雪祭りが口実なのか、それとも父が口実なのかは分からなかったが、ともかくタケルはそう言った。躊躇する葵を尻目に彼はチケットを手配するや否や旅の段取りを始め、笑顔を見せた。#twnovel

2011-10-31 00:20:00
Toki Minami @tttxoxoxokkkiii

葵38 喧騒は孤独を呼び寄せる。孤独はもう一人の自分と昇華できないもどかしさを浮き彫りにする。霧は葵を覆い、いつか青い空さえ仰ぎ見るのが困難なことがあった。霧の中の幻影は葵を苦しめた。追い払うには儀式が必要だった。葵はバスタブにナイフを持ち込み、髪を切った。#twnovel

2011-10-29 01:23:44
Toki Minami @tttxoxoxokkkiii

葵37 近頃コンビニの学生店員は明るかった。あの怯えたような眼差しは影を潜め、彼が所属しているという研究室の話をよくした。その中には女性が一人だけいて、彼女が男ばかりの内輪を明るくしているという。葵は静かに相槌を打ち話を聞いた。彼が恋に落ちている事は明らかだった。#twnovel

2011-10-23 01:59:16
Toki Minami @tttxoxoxokkkiii

葵36 何故ここにいるのだろう。無難な理由を付けて一度は断った葵に、再度食事の話を持ち掛けたのはビジネスマンだった。和やかに終わった食事の後、送っていくという彼に葵は少しの沈黙を経て、了承した。家に帰り学生店員が置いていった林檎に皮のまま噛り付き、そして嘔吐した。#twnovel

2011-10-20 02:21:02
Toki Minami @tttxoxoxokkkiii

葵35 胸が、熱い。料亭の一室。中庭から水の流れる音がする。仲居が恭しく料理を運んでくる。今夜はビジネスマン、その両親との食事だった。メーカーの重役を務めるという父と彼の母。その言葉ほどの威圧感はなく、ごく慎ましやかな両親に、いつも通り葵はそつ無くその場を熟した。#twnovel

2011-10-20 02:19:30
Toki Minami @tttxoxoxokkkiii

葵34 主治医は自分と、その運命を呪っているようだった。それは深い闇となって彼を形成し、闇は彼を蝕み、更にまた深淵に追い込む。地方で病院を営む家に生まれた彼は、その未来を嘱望され、否応なしに家を継ぐ事を課されていた。唯一の自由は東京の大学へ進む事、それだけだった。#twnovel

2011-10-19 01:05:06
Toki Minami @tttxoxoxokkkiii

葵33 「多分、余り自分に興味がないんだ。だから自分の事を大切にしない」いつか主治医に言われた一言だった。彼にそう指摘されその場はやり過ごしたが、後々脳裏に響きもした。そういえば自分に興味など持つことはあっただろうか。そんな事を思わせる彼を葵はふと恨めしく思った。#twnovel

2011-10-19 01:03:50
Toki Minami @tttxoxoxokkkiii

葵32 旅の間、葵は都からの連絡に応えなかった。ビジネスマンは心配したものの、帰京後行き先を知ると安堵した。人の前ではよく食べるものの、以前にも増して痩せ細っていく葵と、四国に行った訳を話さない事に、一抹の不安を覚えつつも彼は深く追求することはしなかった。#twnovel

2011-10-17 01:55:38
Toki Minami @tttxoxoxokkkiii

葵30 葵は思い付いたようにチケットを取り四国に来ていた。いつかタケルと来た町。そこにはタケルの祖母が住んでいる。今も健在な祖母は、葵を歓迎し来訪を喜んでもくれた。「少し痩せたねぇ」祖母はタケルの事には触れず、葵をもてなした。町はいつかより寂れているように見えた。#twnovel

2011-10-16 00:35:52
Toki Minami @tttxoxoxokkkiii

葵29 果たして葵の霧は完全に晴れたかのようだった。もう自傷行為に及ぶ事はなかった。思えばそれを忘れている自分に気がつき、不思議にさえ思ったものだ。葵は幸せだった。しかし同時に気がついてもいた。遠く、何処か崇高で、思いもかけない何かに、タケルが向かっていることを。#twnovel

2011-10-14 00:59:29
Toki Minami @tttxoxoxokkkiii

葵28 「ねぇ葵」口癖のように名を呼ぶタケルはこう言った。「葵って響きが好きなんだ。母音だけの響き。aoi…」弄んでいるようね。葵はタケルを皮肉ったが、それでも相変わらず名を呼ぶタケルがいて、自然に笑みを返す葵がいた。彼らが再会して四季が一巡しようとしていた。#twnovel

2011-10-14 00:56:44
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葵27 「ねぇ葵、今日は空が高いよ、飛行機雲が見える」「葵、蝉って煩いね」その後会うことになっていても、タケルはすぐに電話を寄越し、葵に思いを伝えた。ある時はまるで小さな子供のように、またある時は多感な少年のように。彼は照れもせず感じたことを素直に葵に伝えた。#twnovel

2011-10-13 01:37:43
Toki Minami @tttxoxoxokkkiii

葵26 帰国子女のタケルは、それまでの時間を取り戻すかのように葵と共に日本を旅した。夏には沖縄の旧戦の地を踏み思いを馳せ、秋には文化遺産を訪ねに東北へ、雪祭りがニュースになれば北の大地へ赴いた。鉄道で、飛行機で、時にはタケルの国産の中古車で。息するように旅をした。#twnovel

2011-10-13 01:36:23
Toki Minami @tttxoxoxokkkiii

葵25 一緒に講義を受け、食事を共にし、時には葵の母に揃って怒られる。タケルが意志と勢いで進むタイプなら、葵は冷静に物事を吟味しブレーキをかけ、フォローに回る役まわりだった。葵にとってタケルは、兄であり弟で、息子のようでもありある時は父のようでさえあった。#twnovel

2011-10-12 02:28:10
Toki Minami @tttxoxoxokkkiii

葵24 タケルと葵が付き合い始めるまでに、そう時間はかからなかった。それはごく自然な成り行きのようにさえ思われた。実際のところタケルはかなり人気があったが、彼が選んだのは葵だった。彼らはカップルというよりもまるで双子の兄弟のように時間と空間を、濃密に共有した。#twnovel

2011-10-12 02:25:51
Toki Minami @tttxoxoxokkkiii

葵23 水族館は楽しかった。揺らめく水、碧く輝く魚、技を丹念に披露するイルカ。異常な枯渇感は、時々葵を水辺に急がせた。ほとんど傷の痕が解らなくなった左手を少しだけ気にしながら、それでもこの人はいつも爽やかで優しいとビジネスマンに笑顔を見せ、葵はまた少し汗ばんだ。#twnovel

2011-10-10 23:12:25
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葵22 ビジネスマンはまるで待っていたかのように葵の電話に出た。彼は元々この日曜を葵にフラれていた。母との約束があるという葵に「お母様に挨拶したいな」と投げたボールをあっさり返されていた。そんなことも意に介さず、水族館に行きたいという葵の我儘を彼は受け入れた。#twnovel

2011-10-10 23:09:41
Toki Minami @tttxoxoxokkkiii

葵21 葵は汗をかいて目を覚ました。暗闇の中でただひたすら声だけが聞こえる。その声が葵を追って来るのか、葵がその声を追い掛けているのかはわからない。ただその声は葵を呼び、葵は怯えながらも縦横無尽に声の主を探した。まるでそれは宛のない旅で、葵の人生そのものだった。#twnovel

2011-10-10 00:02:12
Toki Minami @tttxoxoxokkkiii

葵20 どれだけの時間がたっただろう。コンビニの学生店員を見送った後、葵はキッチンで流れる水を見ながら立ち尽くしていた。この世の全てを時折夢のように感じてしまうのだ。長い長い夢を見て、覚めた朝のような鬱蒼とした気分だった。日曜の朝、葵はビジネスマンに電話を掛けた。#twnovel

2011-09-22 02:10:33
Toki Minami @tttxoxoxokkkiii

葵19 主治医との逢瀬はいつも突然で、しかしタイミングよく葵を外に連れ出す。夜勤明けの彼が電話をしてきたのは週末の朝8時だった。彼は葵が、決して外泊しない事を知っていた。花火がしたいという。葵はコンビニでいつものものに代わり花火を買い、夏の海辺へ車を走らせた。#twnovel

2011-09-19 23:03:43
Toki Minami @tttxoxoxokkkiii

葵18 ビジネスマンは時折、葵の顔色の悪さを不審がった。体質なのよ、そう言っても納得しなかった。葵が同僚の女性達から邪険にされていることに勘付いていた。実際、葵は疎まれていたが、あまり反応を見せないことが彼女らを益々苛立たせていた。彼はクライアントの社員だった。#twnovel

2011-09-19 23:02:34
Toki Minami @tttxoxoxokkkiii

葵17 タケルは精悍で好もしい青年に成長していた。幼少時のひ弱さは微塵もなく、誰が見ても好青年そのものだった。あの頃蛙を怖がっていた彼はもうそこにはいなかった。その懐かしさに滅多に会話しない母にさえ、帰るなり報告してしまう葵がそこにいた。葵の霧は晴れ始めた。#twnovel

2011-09-16 01:43:27
Toki Minami @tttxoxoxokkkiii

葵16 「タケルだよ、わかる?」彼は屈託なく笑った。その笑顔は眩しかった。幼少時、近所に住んでいた彼とはお尻を見せ合った仲だったが、両親の転勤に伴い海外に越してしまった。あまり泣かない葵が、タケルのお別れ会では珍しくメソメソしていることに両親は驚いたものだった。#twnovel

2011-09-16 01:42:13
Toki Minami @tttxoxoxokkkiii

葵15 タケルと再会したのは大学入学後間もなくだった。復学してすぐの進路面談で、休学にも関わらず落ち込みを見せない葵の偏差値を見て、進路指導のチューターはエスカレーター式で進める大学より上の進路を薦めたが、母は答えた。そのまま進みます。そうして葵と彼は再会した。#twnovel

2011-09-16 01:40:20