稲川淳二の『つぶやき怪談』(2023.09.01)

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そうして、また距離を縮めて行く。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（それにしても、どこまで歩いて行くんだろうなァ・・・。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

この先に、家なんかあったかなァ・・・・？）

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と思いながら歩いていると、 道路の傍(かたわ)らの立て看板が目に入った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

それには、 「昨年、この近くで、深夜若い女性が無理遣り連れ去られて、殺害されるという悲惨な事件がありました。 若い女性の、夜間のひとり歩きは、危険ですからやめましょう」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と書かれていた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（あーっ、あったなァ、そんな事件。あったあった。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

あれは、この辺りで起きたのかァ・・・・。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

待てよ、この彼女、まさかその殺された女の幽霊じゃないだろうなァ・・・・。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

恐らく、この看板が目に入っているだろうに、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

こんなところで、突然、後ろから男に声を掛けられても、さして驚いた様子もないし、さっきから、一言も声は出さないし、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

顔を見せようとしないし・・・・）

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と思い巡らしながら、近づいて行く。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

で、顔を見ようとするんですが、狭い歩道で横に並べないんで、彼女の斜め後ろを歩いて行く。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

N君の方が背が高いから、 俯いている彼女の頭しか見えない。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そして、側(そば)まで来て、気がついた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

夕暮の薄闇で、離れている時はわからなかったんですが、見れば、彼女は手首に金のブレスレットをいくつもしていて、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

両手の指全部に、金の指環がキラキラしているし、 首には金の鎖のネックレスが、いくつも巻かれている。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（何だこいつ、眩しいくらいにケバイ女だなァ）

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と思っていると、 彼女が車道に向かって立ち止まった。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

ここを渡ったところに、 ちょうど自分のクルマが停めてある。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

ここなら彼女の横に並べるんで、隣に立った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（さて、いいタイミングで話し掛けてやろう・・・）

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と思っていると。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

ブォ――――ッ！ トラックが通過して、彼女が歩き出したんで、 自分も並んで車道を渡り始めた。