エルザ氏による、ミシン発明史(追記を追加しました)

12
エリザ @elizabeth_munh

いんたーねっとRAFちゃんねる

エリザ @elizabeth_munh

ミシンの発明者はいない。 と言うと語弊があるけど、ミシンは一人の天才によって生み出されたものではなく、長い期間に幾人もの試作やアイデアを経て実用化された。 故に、『実用ミシンの発明者』はいても、ミシンの発明者と言うと難しいものがある。 その証拠に、ミシンの黎明期は『喧しい』ものだった。

2023-09-09 18:56:07
拡大
エリザ @elizabeth_munh

1755年、ドイツ移民の医師ヴィーゼンタールが簡単なチェーンスティッチ(鎖状に縫い付ける基礎的な縫い方)ミシンの原型らしき物をイギリスで作ったのが歴史上初となり、続いて1790年にはトマス・セイントが初めて特許を取った。 しかしこれらは量産される事なく、埃を被って忘れられる。

2023-09-09 18:59:07
エリザ @elizabeth_munh

その後もフランスやオーストリアでミシンが発明されるも、決して成功する事はなく、フランスのミシンに至ってはお針子の仕事を奪うと打ち壊しにあい、工場ごと焼かれて発明者は散々な目に遭った。

2023-09-09 19:00:48
エリザ @elizabeth_munh

当時、イギリスでは産業革命が起きており、原綿を糸に、糸を織布にするスピードは正に革命的なまでに向上し、かつて貴重品だった布は大幅にコストダウン。高級品だった綿織物は庶民の手にも届くようになる。 しかしそこからの加工は手作業あるのみで、依然として服というのは高価な貴重品だった。 twitter.com/elizabeth_munh…

2023-09-09 19:04:06
エリザ @elizabeth_munh

生まれ育ちに恵まれる事なく、己自身の努力や才能で成功を成し遂げた人をself-made manと言う。18世紀半ばの実業家にして発明家、リチャード・アークライトこそは人類史にその名を残す最大のself-made manだった。 pic.twitter.com/VbCQvDJKL1

2023-05-20 21:27:09
エリザ @elizabeth_munh

ミシンの需要はありそうなものだけど、フランス革命戦争とナポレオン戦争に喘ぐ当時のヨーロッパで、ミシンに目を向ける余裕はなかったし、機械的な信頼性もまだまだ乏しい また伸縮性に乏しい当時の素材では、服というのは個々人に合わせて家庭内で作る物だという事情もあった。工場生産と相性が悪い

2023-09-09 19:07:18
エリザ @elizabeth_munh

かくしてミシンはあれど導入は進まず、細々と研究されるのみという状態がしばらく続いた。 一方、アメリカでは1840年代からミシンの開発が盛んになる。発明家イライアス・ハウは織布が積み上がる一方、加工が進まない状況に商機を見出し、従来のミシンに大幅改良を加えたミシンを作り出す。 pic.twitter.com/jE1ifGGzff

2023-09-09 19:12:20
拡大
エリザ @elizabeth_munh

2本の糸を使った、ロックスティッチ(本縫い)が可能なハウのミシンで縫われた服は、従来のものより遥かに頑丈で、しかも作業速度は速い。ハウはデモンストレーションとして5人の職人と競争し、圧勝してその性能を示した。 なお、有名な夢の中でミシンを発明した逸話の主人はハウ。 pic.twitter.com/ZczUXpNMcx

2023-09-09 19:15:20
拡大
エリザ @elizabeth_munh

ところがハウはアメリカ国内で有望な出資者を見つける事が叶わず、自らの手で発明品を商業化する事に失敗する。 失意のハウはイギリスに渡るも、ここでも受け入れられず、結局望み通りとはいかない契約金で販売特許を譲り渡す事になる。 しかしハウ不在のアメリカでこのミシンに目をつけたものがいる

2023-09-09 19:17:37
エリザ @elizabeth_munh

起業家、アイザック・シンガーは発明家ハントの助けを得てロックスティッチミシンを開発し、自らのシンガー社を通じて販売網を広げていた。 ハウは激怒し、法廷闘争となる。この時シンガー社以外にもミシンを販売していた企業はあったので、訴訟は長引き、囂々たる喧騒がミシンの周りで渦巻く。 pic.twitter.com/m7SPL2E5jd

2023-09-09 19:21:47
拡大
エリザ @elizabeth_munh

シンガーとハントは別にハウのアイデアを盗用したわけではなかったものの、結局ハウに優先権が認めらる事になる。なおハウはそれで得たお金を南北戦争の北軍に寄付した。 権利関係で混乱したアメリカのミシン産業はこのままでは共倒れだと権利関係を整理し、こうしてミシンの生産が軌道に乗る。

2023-09-09 19:27:02
エリザ @elizabeth_munh

一方のイギリスではハウから販売特許を得た縫製会社からミシンが広がり出す。この頃、イギリスでも男性用の既製服(レディメイド)の需要が高まり出していていたものの、手縫いでシャツ一枚14時間のところ、ミシンならなんと1時間半で完成した。 とは言え、その殆どは工場用の大型ミシン。

2023-09-09 19:30:55
エリザ @elizabeth_munh

アメリカ国内で評判を獲得したシンガー社はイギリスに進出するも、イギリス国内企業のように工場向けにミシンを卸してバッティングするよりは、家庭に目を向けた。 「資金力のあるミドルクラスを狙う。そのためには、無骨な工業的デザインではダメだ」

2023-09-09 19:32:54
エリザ @elizabeth_munh

当時のミシンは非常に高価で、購入できるのは工場か、さもなくば上流階級に限られた。 上流階級向けのミシンはステータスシンボルであり、実用性を無視して華麗な彫刻が施される。またネーミングも優雅だった。たとえばこれは『プリンセス・オブ・ウェールズ』。 pic.twitter.com/jb1zKI22bV

2023-09-09 19:35:48
拡大
エリザ @elizabeth_munh

こうした上流階級向けミシンは実用に耐えない飾り物で、寧ろそれがために喜ばれたと言う面がある。 しかしシンガーは実用性とデザインを両立させ、中流階級に販売することを志す。こうして華麗な見た目と機能を兼ね備えたシンガーミシンが家庭向けに販売される。 pic.twitter.com/Bt31DDDYo1

2023-09-09 19:39:09
拡大
エリザ @elizabeth_munh

上流階級を模範としつつも、実用性を尊ぶ中産階級にシンガーミシンは流行し、飛ぶように売れた。 これはミシンと言うものが社会的に明るいイメージを持って受け入れられていた事が大きい。手縫いの時代、縫製作業は貧民のお針子がやるもので、立派なレディがやるような事ではないとされた。

2023-09-09 19:41:23
エリザ @elizabeth_munh

ところがミシンの導入によって作業時間が大幅に短縮し、過重労働と低賃金で酷使されていたお針子達の労働環境が改善されると、縫製というもののイメージが一新される。 ミシンによる縫製は憧れとなり、新時代にふさわしいものと見なされた。

2023-09-09 19:43:58
エリザ @elizabeth_munh

当時、裁縫仕事は女性の象徴であり、母から娘へと裁縫道具は受け継がれてきたけど、以後はミシンが取って代わる事になる。 ミシンの性能も大量生産と改良に従い向上し、直線的な男性服に止まらず、曲線的な婦人服も自在に縫う事が出来るようになると、女性達は型紙から自ら服を作り出した。

2023-09-09 19:46:33
エリザ @elizabeth_munh

こうして、原綿を糸に、糸を織布に、そして織布を服に加工すると言う流れの最後の1ピースをミシンは埋め、市場に服が溢れる事になる。 かつて、裕福な家庭でもなければ普段着と仕事着が一着ずつ。どんなボロ切れでも再利用するほどの貴重品だった服は、遂に廉価な大量生産品になった。

2023-09-09 19:48:47
エリザ @elizabeth_munh

とは言え裏を返すとこの時を以て服というものは大事なものではなく、消耗品と化す。 現代ではファストファッションの普及によりその傾向は加速。日々生産される服の半分近くは単なるゴミか、途上国に押し付けられて現地の産業を阻害する。 ミシンは不可逆的に世界を変えたのでしょう。 pic.twitter.com/P0b1l57j0T

2023-09-09 19:52:05
拡大
みぎー 🇺🇦💉🔞 @miginco123

@elizabeth_munh ミシンって”ソーイングマシン”らしいですね。日本に入ってきてソーイングが取れてマシンがミシンに訛ったと言う。ミシンとはマシンの事だった

2023-09-09 19:12:15
どんちゃん @Donbe

@elizabeth_munh このシンガーミシンというの、ばあちゃんの実家にあったぞ………踏み台の模様とかまんま瓜二つ。つっても数十年前の子供の時の記憶だが。当時でもう使ってはいなかったがなんか面白いものがあると踏み台キコキコして遊んだ覚え。

2023-09-09 23:17:24
変脳コイル猫 @ROCKY_Eto

@elizabeth_munh @itaru_ohyama ザ・ビートルズの映画「ヘルプ!」(1965年)の最後には、「ミシンの発明者 イーライアス・ハウ」への献辞がある。

2023-09-09 20:55:29
エリザ @elizabeth_munh

ちょっと纏まらなかったわ。ごめん。 ところでミシン以前の世界に生まれたとして、服を手に入れる手段は概ね3つ。 自分で作るか、新品を買うか、古着を買うか。 庶民にとっては下着などさほど手がかからなくて消耗の激しいものは自力で縫い、日常着は古着を買うのがよかったみたいね。

2023-09-10 21:22:35
エリザ @elizabeth_munh

と言うのも、古着は上から下に降りて来るから。 もとは貴族や富裕層が使ってた服が、流行遅れとか、状態が悪くなったとか、そんな理由で売却される。 もちろん単なるボロもあってピンキリだけど、庶民は新品を買うよりは古着を買って手直しする方がいいものを買えたみたいね。

2023-09-10 21:25:19