右園死児報告の真島文吉新作ノベル。アメコミヒーロー小説『ラーヴァマン』。
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ジョナサンは自らのキャリアを犠牲にしてもスーパーヒーローを倒すべきだと決意し、原作サイドを騙したり金で黙らせたりして、考え得る限りの駄作映画を作り続けた。
2023-10-02 18:29:18だが、まがりなりにもクリエイターが、良いものを作ろうという意志の全く存在しない、侮辱を目的とした創作活動をしたことは、純粋な憎悪を集めた。プラネットマン5でスーパーヒーローが食い詰め、コスチュームを150ドルで質に入れた時、憎悪は爆発した。
2023-10-02 18:29:39ジョナサン・クレンドラーが仕事上がりの一杯を飲みにバーに入った瞬間、バーの店主がショットガンを連射し、ジョナサンを即死させた。彼の死体は客たちによってゴミ捨て場に捨てられ、翌朝まで誰にも発見されなかったという。
2023-10-02 18:30:17この事件を契機に映画界はヒーロー映画の制作を躊躇するようになり、特にプラネットマンの映画化はタブー視された。結果、ヒーロー映画史はジョナサン・クレンドラーの悪意の結晶を最後に、凍結している。
2023-10-02 18:30:47クレア・ミリガン
クレア・ミリガンはニューヨーク美術館のキュレーターである。デイリンク・シティを出る時に髪を切り、黒に染め、服も化粧も変えた。クレアを2代目ラーヴァマンの婚約者だった女と看破する者は、今のところはいない。上司も同僚も同姓同名の別人だと思っている。それほどに人相が変わっていた。
2023-10-02 21:51:26マスコミやネットのくちばしに突かれ、ホワイトフェイスの顛末に打ちのめされ、本当に別人のようになった。婚約者を見捨てたことに対する負い目もある。ただ、ニューヨークに来てからの生活は、順調だった。静かな文化の館で好きなものに囲まれて生きている。
2023-10-02 21:52:07人々はデイリンク・シティの住人よりも明るく、犯罪は起きるが、強力なヴィランが暴れて地獄の様相になることは無い。友達もできた。最近は植物を育てる趣味を持ち、8種類の鉢を同時に面倒見ている。
2023-10-02 21:52:38クリスマスに、差出人不明の贈り物が届く。メッセージカードも無い。恐ろしく高価な時計やイヤリングが入っている。クレアが売って生活費にできるように、わざと高価なプレゼントにしているのだ。デイリンク・シティにいた時にもらったプレゼントは、趣味は良いが、これほど高価な品ではなかった。
2023-10-02 21:53:25クレア・ミリガンはもう婚約者でも、恋人でもない。クリスマスプレゼントは悩んだあげく、全て箱に戻して、手をつけずに保管している。ヒーローの縁者としての立場から退いた自分は、未だヒーローであり続ける彼とは、接触できない。する資格が無い。
2023-10-02 21:54:06ただ、クリスマスに贈り物が届いた時には、あの街の住人が集うSNSの一角に、こんな投稿をする。 ミスター名無しさん。素敵な時計をありがとう。ずっと手元に置いとくわ。 ミスター名無しさん。素敵なイヤリングをありがとう。けっして手放さないわ。
2023-10-02 21:54:28必ず、スマイルマークの絵文字をひとつだけ、つけるアカウントがある。 クレアはそのマークを指でなぞる。 この儀式は、何かが起こらない限り、ずっと続くのだ。 クリスマスのたびに。
2023-10-02 21:55:04終